第29話 ドライアードもやはりエッチだった

 襲い掛かるサハギンの群れ。


「おりゃー、葉っぱカッター!」


 さすがは葉っぱカッター。

 サハギンの群れは近づくことなく次々と絶命していく。 


 一発一発の威力はそれほどでもないが連射速度と、属性優位による特攻ダメージは強力だった。

 連射性能の高いマシンガンのような遠距離攻撃スキルだが、一つだけ大きなデメリットがあった。


「あー、シズネッチ、最低でもその葉っぱ三枚は残した方が良いじゃない? それでも試してみるのもやぶさかではないがな……ふへへ」


 シズカの意味深な発言でシズネは気付いた。


「あ! 葉っぱのドレスがっ!」


 そう、葉っぱカッターの残弾はドレスの葉っぱだった。連射するたびにドレスがはだけていく。


 いつの間にやらシズネはミニスカへそ出しルックになっていた。


「あ、危なかったー。シズカちゃんが言ってくれなかったら全裸になるとこだったよー。

 でも大丈夫、葉っぱカッターの使用回数は一秒に一枚ストックされていくから少し待てばまた元通りになる。

 ……だけど……なんで服が剥がれてくのよー!」


「うーん、なんでだろーねー。やっぱシズネッチの体が魅力的だから?

 おっと! そんな目をしないでよ。

 まあ、マジレスすればドライアードにとって葉っぱとは自分自身だからねー。

 葉っぱカッターは自分を犠牲にして放つスキルなんじゃない?

 ほら、髪の毛を針にする妖怪王子の話があるじゃん。あれよりましだって。知らんけど」


「そっか、たしかに……。髪の毛を連射したらハゲちゃうよね……。それに比べれば大したことないかも。

 葉っぱは面積も多いし……それに今さらへそ出しルックに恥じらう私ではない! 行くぞー! 葉っぱカッター!」


「お! やるじゃんシズネッチ。

 へそ出しルックはギャル中級、最初の壁だと言うのに。あたしとて、まだその域には達していないというのにだ。

 というかあたしの場合はお腹のお肉にやや疑問がある為、要メンテナンス中なんだけどね。

 ……だがシズネッチならあたしが超えれなかった壁も、そしてその先も越えられるはず!

 いけ! シズネッチ! どんどん葉っぱ攻撃やっちゃえー。ふへへ」


 スキル、葉っぱカッター。

 シズネにとってはリスクの高いスキルだが性能は高い。


 水系モンスターへの特攻ダメージに連射性能は言うまでもない。

 最大の利点はリキャストタイムの短さがあげられるだろう。

 一秒に一枚、葉っぱのストックが増えていくのだ。


 銃火器などの遠距離武器は残弾管理が必須であるし、魔法スキルは強力になればなるほど数分間のリキャストタイムが要求される。

 それに対して、毎秒1発はまさに破格の性能である。


 これが常緑の妖精ドライアードの最大の権能である。


「最大の権能であるって……。

 私、最初は葉っぱ三枚のビキニだったんですけど……あれで葉っぱカッターって無理でしょ?

 常緑でもないし……三枚撃ったら全裸じゃん……まあ、GMさんに対応してもらったからいいけど……」


「シズネッチ、誰と話してるの? まあ、初期のあの葉っぱビキニには文句の一つも言わざるを得ないか。

 さすがに親友のストリートキングは見たくないし? よーしじゃあ、シズネッチ次のスキルを見せてよ、葉っぱだけじゃないっしょ!」


 そう、ドライアードのスキルは葉っぱカッターだけではない。


「そうだね、私にはスキル『ツルのムチ』があるよ」


 シズネはそう言うと、腕からは太くしなやかな植物のツルが伸びる。


 パシンッ!


 軽く振るうだけでムチの先端は音速を越えた。


「おっ! シズネッチはSにも適正があるかー。ムチ攻撃はそそるよねー。B級アクション映画の必須アイテムだ! ちょいお色気要素ありのやつ」


 葉っぱカッター使用回数の限界に達したシズネ。

 今の葉っぱ面積的にはマイクロビキニといった状態であろう。

 シズネとしては前回のサキュバスの露出度までが自分の限界だという判断である。


「よーし、いくよー。おりゃー!」


 パシンッ! パシンッ! パシンッ!


 ツルのムチの連続攻撃でサハギンは次々と絶命していく。

 やはり植物属性の攻撃、水系モンスターには圧倒的な破壊力だ。


 マイクロビキニの少女がムチで、半魚人を次々と打ちのめしていく。

 絵的にはかなり刺激が強かった。


「うーん、シズネッチ……ついにアブノーマル方面にいっちゃったか……でも、これはこれでありかも?

 あえて言えばサキュバスの格好でツルのムチ使ったら完璧だったんだけどねー。

 そうだ! スキルのストックでそういうキャラも作れるってことかー。夢が広がるってやつ?」


 シズカの言うとおり、スキルのストックを使えば可能である。

 ドライアードから再びサキュバスへ進化し、ツルのムチをスキルストックすれば鞭を振るうサキュバスが完成する。


 手間はかかるが、そういったスキルの使い方もモンスターの職業固有の楽しみ方であろう。

 

 もちろん、本来なら実用的なスキルをストックするのが攻略への近道であるのは明らかではあるが……。

 シズカは頭の中で、黒いレザーのビキニを着たサキュバスシズネが高笑いをしながらムチを振るう姿を想像してしまった。


「ちょっと、シズカちゃん。何を想像してるか分からないけど、私はそういうのはやりません! それにサキュバスには二度となる気もないです!」


「そっかー、それは残念。まあ、ドライアードも可愛いからオッケーだ! よし、あたしも頑張らないと」


 シズカは拳銃を取り出しシズネを援護する。


 サハギンはとにかく数が多い。

 次々と海から現れるためキリがないのだ。


 逆を言えばレベリングには最適のサブクエストエリアともいえる。


 だが数に囲まれたら圧倒的に不利。

 そろそろデスペナルティーによる経験値の低下も馬鹿には出来なくなる。


 一度死亡すると数時間の経験値を失ってしまうリスクがあるのだ。


「ちょっと数が増えて来たね。さすがに三人だと難しかったかな。

 よし、二人共! 私が道を開けるから、一気にボスまで走るよ!」


 インフィは右手装備『GE02A1-ハイゲイン・ビームソード(+20)』を取り出す。


 ブォンッ!


 ビームの刃が機械の柄から伸びる。


「あ! カッコいい! ガンナムみたい。

 シズカちゃんの好きな映画にもあったよね。ナイトセーバーだっけ?」


「あー、シズネッチ。微妙に言葉を間違えて覚える癖よくないよ。

 作品への冒とくだっての……。ガン〇ムだし、ライトセーバーが登場するのはス〇ーウォーズだよ。

 でもビームの剣がカッコいいのは疑いの余地はなしだ!

 インフィさん、その剣ってやっぱマシーン専用装備なんですか?」


 シズカは興味津々だ。そういう装備があると知っていたら職業はマシーンを選択していたかもしれない。


「そうね、これはマシーンの装備できる近接装備では最強装備、でも近接装備自体はマシーンには人気が無いからね。

 それにマシーンにはスキルがないから自分の感覚で使うしかないのよ。

 でも、逆にスキルのアシストがないってことは自分の感覚で自由にできるってことでもある。

 ……だからね、こういう使い方もあるのよ!」


 インフィの背中に装備している背面装備『NASA2001-高機動ブースター(+19)』が起動する。


 キュイーンという甲高い回転音が周囲に響く。

 同時にブースターから噴き出す炎は青く螺旋状に収束していった。


 爆音とともにインフィの体は前方のサハギンの群れに突撃していった。


 一瞬だった。

 サハギンの群れはビームソードに切り裂かれながら次々と絶命していく。


 あっという間に道が開けた。


「ひゅー、マジかっこいい! よーしシズネッチ、あたし達も走るよ!」


「うん、囲まれたら負けちゃうからね」


 走る走る走る!


 そしてインフィに追いつくと、目の前にはタコと人間を合わせたような半魚人がいた。


「あいつが今回のクエストボス、ダゴンよ。討伐推奨レベルは30だからそんなに強くないけど、ずっと沸き続ける取り巻きのサハギンが厄介ね。

 ボスはあなた達二人に任せるわ、私は雑魚を狩るから二人でやってみて!」


「は、はい! 頑張ります!」


『ブシュシュシュ。愚かなる人間ども。海を汚した憎き人間どもよ!

 大人しく地下に潜っていればいいものを……どの面を下げてまた海を汚しに来たのか……万死に値するな!』

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