第28話 海の悪魔

 お昼ご飯を終え再びゲームの世界へ。


「おまたー、ちょっとパパにお小言もらっちゃって、少し遅れちゃったー。てへっ」


 いつも真っ先にログインするシズカは珍しく10分程遅刻したのだった。


「シズカちゃん……宿題やってないんでしょ……」 


 シズネは直ぐに察した。

 あのサンジョウ神父が怒るというのは余程のことが無い限りありえない。

 おそらくはシズカが神の前で約束したことを破ったのだろう。


「ギクッ! ま、まあちょっとは遅れてるけど……私はギリギリにならないと燃えないタイプなのだ!」


「ふーん、そうなんだー。……シズカちゃん、明日はゲーム禁止です!

 シズカちゃんのお家に行くから、いい? 勉強会をするからね!」


「ちぇっ。シズネッチはほんと真面目なんだからー。

 ……まあ、パパにも言われたからちょうどいいか。

 さすがはシズネッチ、私のピンチにはかならず駆けつけてくれる天使様だ! さあ午後もゲームを楽しもう! 明日は明日の事、今日は今日を楽しむのだ!

 あれ? 今の何気に名言っぽくない? 

”明日は明日の事、今日は今日を楽しむのだ”――サンジョウ・シズカ(AD3024)。

 ……なんてねっ。あはは!」


「もう、調子いいんだからー。それに全然名言じゃないって……。

 インフィさんも何か言ってくださいよー」


「うふふ。ほんと二人は仲良しなんだね。私からしたら少しうらやましいかも……ほんと」

 

 ……。


 …………。


 始まりの街、とある建物に三人は入る。

 二十世紀後半に見られるビルディングのような外観。


 この建物は二階はローグの拠点である暗殺ギルドがある。

 それぞれの陣営ごとに建物のデザインに特徴があるため、初心者のプレイヤーにも分かりやすく設計されているのだ。


 一階のフロアは酒場になっている。バーカウンターにテーブル席が数個、薄暗い店内、雰囲気が良いウエスタンスタイルな酒場になっている。


 カウンターやテーブルには明らかにガラの悪い男の人や、妖艶な雰囲気を漂わせている女性のNPCが談笑している姿が見えた。


 当然シズネとシズカは未成年であるためこういうお店は初めてだ。


 初見で少し緊張してしまったが、ゲームの世界だということを思い出すと異世界感がある風景を前に逆に楽しい気分になる。


「さてと、クエストのNPCはテーブル席で一人で飲んでるおじさんだっけ……」


 インフィは酒場のフロア全体を見回す。

 マシーンのアバターは人型ロボットでウエスタンスタイルの酒場とのミスマッチ感は凄まじい。

 だがだれも見向きもしない。

 当たり前だが酒場にいるのは全員NPCだからだ。


 たまにクエスト受注で訪れるプレイヤーと思われるローグもいるが大体は見向きもしない。


「あ、多分あの人じゃない? 眼帯のおじさん、いかにもな雰囲気を醸し出してるし?」


 酒場のテーブル席に一人、虚空を見つめながらグラスに入った蒸留酒をあおる壮年の男性。

 黒い眼帯に義手だ、いかにも海賊船長の風貌。


『俺は元々、船乗りだったんだ……。だが悪魔達が現れたせいで海にはもう行けねぇ。あの悪魔のせいで……。

 君達は名のある戦士とお見受けした。

 ……たのむ俺達の海を取り戻してほしいんだ。

 人類は母なる海を捨てた……この地下で生きることを選択したのだ。だが、それでも生きてるうちに、もう一度あの海岸線を見てみたいんだ……』


【サブクエスト『海の悪魔を討伐せよ』を受注しました】



 ◇◇◇



「海だー! でも思ったより全然綺麗?」


 透き通る青い海、白い砂浜。

 悪魔に支配された地上とは思えないほどに綺麗なビーチが目の前に広がる。

 ゴミ一つない完璧な海岸がそこにあったのだ。


 海洋生物、いや全ての自然にとっては人間がいない方が良いのかもしれない。

 ヘルゲートアヴァロンのゲームの設定としては、人類は最悪な戦争をして地球を汚しつくしたために悪魔が出現したとある。


 皮肉にも地上から人類を駆逐したため、地球の環境は浄化されていったのだと、ゲームプロデューサーはメディアのインタビューで答えていた。


「ほんと綺麗だねー。アーススリーの海岸線よりも綺麗かもー」


「まあ、アーススリーの海は大体観光地だからねー。それでも地球よりもはるかにマシっしょ。まあ単純に田舎だからってのもあるけどねー」


「二人共、とりあえず海岸を歩きましょうか。モンスターも出るからレベル上げしながらボスの居る場所まで行きましょうか。ここは細長い海岸線がマップになってるから、ほぼ一本道だよ」


「へぇー。全然大したことないって感じ? ちょっと砂浜で遊んでこっか? リアルだと砂が付いてめんどくさいけどゲームならいくらでも楽しめちゃう」


「シズカちゃん、そんなこと言っちゃうと、フラグって……」


 シズネが言うや否や、さっそくモンスターの出現だ。


『ギョギョギョ! ギョー! ギョギョ!』


 サハギン。

 頭は魚で体は人間の半魚人。

 武装は三又の槍だ、他にも水鉄砲という遠距離攻撃スキルもある。


 それらは一匹ではなく多数、海から引っ切り無しに現れる。

 広大な海、おそらく無限に現れるのだろう。

 このサブクエストはそれらを排除しつつボスモンスターがいる目的地に到着する必要がある。


「さすがに数が多いね、今のパーティーはテンプラーが居ないから個々で対処しましょう。

 ここから私も戦いに参加するわよ? シズカちゃんにシズネッチちゃん準備はいい?」


 インフィは、左手に『GER1000-プラズマショットガン(+6)』を装備する。


 マシーン専用装備の機械武器。

 その銃身部分はマットな黒色で独特な形状の放熱スリットが連続して並ぶ。


 火薬式の銃にはないデザイン。

 どちらかと言えば旧式の宇宙船に装備されている荷電粒子砲に似ている。


 ショウちゃんと呼ばれている男を蹴り飛ばした時は丸腰だったが、遂にインフィは武器を装備をしてくれたのだ。


 インフィは花火の様に発光する複数のプラズマの弾丸をサハギンの群れに向かって発射する。


『ギギョーッ! ギョギョギョー!』


 プラズマの弾幕に巻き込まれた射線上にいたサハギンの十数匹が一気に絶命する。

 それは跡形も残さず焼かれ塵となった。


「……すごーい! よーし、シズカちゃん! 私達もいくよー!」


「おっけー。シズネッチの新たな力見せてみな!」


「おりゃー! 葉っぱカッター!」


 葉っぱカッター。

 連発で使用できるドライアードの遠距離攻撃スキル。


 ゲームのシステム上、水系のモンスターには植物系が強い。

 海の魚は塩水だから植物にとっても有害であると言われるかもしれないがこれはゲームである。

 本来は攻撃力の低いはずのドライアードであるがサハギンに対して特攻ダメージを叩きだす。


 刃物の様に鋭いドライアードの葉っぱによってサハギンは三枚どころか何枚にもおろされていく。


「うえー、シズネッチ。見た目によらず結構グロいスキルだね。さすがはダークファンタジーか」


 効果は抜群。属性の相性がいいシズネッチにとっては経験値の稼ぎどころである。


「よーし、シズカちゃんの鉄砲じゃないけど、私だってやれるんだー、おりゃー! 葉っぱカッター!」


 シズネの身体、正確には葉っぱのドレスから無数の葉っぱカッターがサハギンに向かって射出される。

 まるでマシンガンの様な弾幕にサハギンの群れは断末魔の声を上げるのだった。

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