第27話 さすがに爆笑

「シズカちゃん、スキルってなにを引き継げばいいのかなぁ……?」


「さあね、シズネッチの好きにすれば? あたしとしては誘惑がお勧めしたいところだけどねぇ……。

 でも葉っぱ少女じゃいまいち色気が足りないかな? インフィさんはどう思います?」


 そう、ドライアードは葉っぱのドレスを着た緑髪のシズネである。

 投げキッス程度のお色気ではスキル『誘惑』には足りないだろうと思われたのだ。


 もちろん、そんなことはなく、本人が誘惑するポーズだと思えば発動はする。

 あくまでスキル発動条件はプレイヤーの心理状態が基準であるのだ。


「そうねぇ。私もシズネッチちゃんが好きなのにすれば良いと思うけど。

 誘惑のスキルは敵のレベルが高いほど成功率は落ちるし、当然だけどボスには掛からないから。

 範囲攻撃スキルがお勧めかなー、でも、ドライアードはHPは高いけど魔力は低めだから効果は低いかな?

 エナジードレインはHP回復ができるからお勧めだけど、ドライアードも回復スキル持ってるし……ああ、そう言えばウォークライをストックしてたよね?

 そのままにするのもお勧めかも、全体バフは腐らないスキルだからね」


 的確なアドバイスをするインフィ。

 さすがは廃ゲーマー、他職であるモンスターのスキルにも詳しい。


「あ、それもそうですね。ウォークライは今後も使えそうです。そうします」


 名前:シズネッチ

 職業:モンスター

 レベル:27

 種族:ドライアード

 HP:618

 力:174

 素早さ:212

 防御:114

 魔力:274

 スキル:『ウォークライ』 『束縛』 『葉っぱカッター』 『生命の息吹』 『ツルのムチ』 『かみつく』


「よーし、ドライアードシズネ、頑張ります!」


「お、いいねー。ではインフィさん、シズネッチがやる気になってるし早速お願いします!」


「うん、じゃあ行ってみようか。次のサブクエストはちょっと難しいけどー。……うん、何とかなるかな?」


「そりゃ、インフィさんが居たら何とかなると思いますけど。難しいんですか?」


「いえいえ、サイレントフラワーちゃん。あなた達がクリアできないと経験値が稼げないよ?」


「……あー、インフィさん、あたしのことはシズカって呼んでください。

 なんか面と向かって言われると恥ずかしいなぁって……我ながらネーミングセンスのなさっていうか……」


 サイレントフラワーと呼ばれたことに恥ずかしさを覚えるシズカ。

 ネーミングセンスは大切だと今さら気づいたのだった。


「え? ……でもシズカってリアルネームでしょ? ダメじゃないの?」


「あーね、あたしも最初はそう思ってたけど……でも、シズネッチはあたしのことずっとシズカちゃんって言ってるし。

 もちろん野良なら駄目だけど、インフィさんだったらいいかなって……」


「うふふ、全面的に信頼してくれてるけど、本当によかったの? 私、実は男でしたーって、なっても知らないよ?

 さっきの……何て言ったっけ。ショウちゃんと呼ばれている人みたいになるかもYO?」


「ぷっ! あはは! インフィさん、うけるー。思い出しちゃった。

 ……ショウちゃんと呼ばれていた男、クソダサいよねー。ぶふっ! あははは! 笑っちゃったYO!」


「もう、シズカちゃん。ショウちゃんと呼ばれている人だって実は良い人かもしれないじゃん……ぷぷっ! ……もう、つられて笑っちゃうったよー、あははは!」


 シズカとシズネは先ほどのナンパ男を思い出し、爆笑してしまう。


「あははは……ふぅ……無理ー、お腹痛い。……あ、そうだった、クエストを受けなきゃですね」


「うふふ、そうね。じゃあ二人共、そろそろ笑うの我慢しなきゃ。

 これから行く場所はちょっとシリアスだから。ストーリーに合わせて真面目にNPCに接するのもロールプレイングを醍醐味だから……NE!」


「ぶふっ! あははは! インフィさん、不意打ちー! あははは。笑っちゃったYO! 無理ー、腹筋壊れるーYO!」


 すっかり笑いのツボにはまってしまったシズカ。

 これはしばらくは収まらないだろう。


【シズネッチ様、現在11時50分のアラームをお知らせします】


「あ! シズカちゃん、そろそろお昼だYO? いったん休憩しないと。お母さんに怒られちゃうYO?」


「あははははははは! やめっ! あはは! シ、シズネッチ。ぶはははは! ……と、止めを刺しに……あはは。

 こ、これは、あはは。休憩しないとだ! ……ふぅ……じゃあ、お昼ご飯食べたら、シズネッチもまたやるっしょ?」


「うん、シズカちゃんが治ったらやるよ。インフィさんもお昼すぎでいいですか?」


「ええ、いいわ。うふふ。楽しすぎて時間を忘れちゃったわ。じゃあまたね!」


 ……。


 …………。


 毎日、時間通りにログアウトをするシズネ。



「シズネー! お昼よー!」


「はーい!」


 母親も時間通りにお昼の時間を告げる。


 いつも通りにリビングに向かうシズネ。


 今日のお昼も冷や麦だった……。

 夏のお昼ご飯は麺類が多いのはよくあること、文句を言ってはいけない。


 それに、シズカのお父さん、サンジョウ神父様から貰った高級冷や麦はまだまだ沢山あるのだ。

 賞味期限を切らしてしまったら失礼である。


 だが、飽きはくる。冷や麦アレンジも何度か試したが結局は普通の麺つゆが一番だと結論が出る頃。

 神父様には失礼だが、シズネは箸が進まない。


 そんなシズネの前に小さな小鉢が置かれる。


「はいはい、シズネ。今日はもう一品ありますよー。ご近所さんから、ごぼうのおすそ分けです。

 今日はきんぴらごぼうにしましたよー。シズネは好きでしょ? 真夏ですからちょっと味付けは濃い目にしました!

 夏バテ対策ですっ!」


「あっ! やったー。私、きんぴらごぼう好きー!」


「でしょー。麺類だけだと栄養が偏るから。食物繊維は大切よー!」


 甘じょっぱい味付けのきんぴらごぼう、カーズドトレントの味とよく似ていた。


 いや、シズネの記憶がゲームの味覚にフィードバックしたのだろう。

 基本的にプレイヤーの味覚は忠実にアバターにフィードバックされるのだ。

 


「お母さん、そういえば今朝、面白い男の人に会ったんです。最後だけラップ口調で、シズカちゃんが爆笑しちゃって。でもハイパーエースで駄目だから。

 最終的にインフィさんって素敵なマシーンの女の人が助けてくれたんです!」


「まあ、それは良いわね。素敵なラッピングは大切ね、マシーンみたいな女の人でハイパーエース? うふふ、スポコン女子なのね、素敵じゃない。

 実はお母さんもシズネの歳のころはバレー部でね、エースをねらってたのよ? お母さんもスポコン女子でしたっ!」


「初耳ー! お母さんバレー部だったんだー。でも私、運動音痴だから……残念だよー」


「うふふ、大丈夫よ。お母さんも運動音痴だったから」


「え? でもエースをねらってたって?」


「うふふ。エースをねらってたの半分嘘、本当に狙ってたのは男子バレー部のエースの先輩! きゃっ! 当時はカッコよかったんだからー!」


「当時は? 今はカッコよくないみたいな言い方ー」


「うふふ。今はそうねー。ちょっとだらしないけど、娘の為に仮病を使って会社を休んだりしちゃう、ただの優しいお父さんになっちゃったからねー」


 ちなみに、シズネの父親はきんぴらごぼうが好物である。

 とくに甘じょっぱい味付けが好きで、昔、バレー部の後輩から貰ったお弁当のきんぴらごぼうの味が一番だと言っていた。


「へぇー。なら今日のおかずはお父さんも食べれたらよかったのに……」


「うふふ。もちろん、お父さんのお弁当にも入れています。……それよりも、シズネもそろそろ考えてもいいんじゃない? ラップの男子? 長持ちしそうじゃない? ラップだけに?」


「うーん、お母さん。ラップの男子はクズだってシズカちゃんいってた。私も怖かったし。長持ちはしないと思うなー」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る