第26話 さすがにGMコール
インフィニット・プロヴィデンス。
ヘルゲートアヴァロンの上位ランカーの一人。
その戦闘スタイルは独特で、近接戦闘が苦手と言われたマシーンに、高機動ブースターとビームソードの組み合わせで高機動アタッカーというジャンルを生みだした伝説の存在。
……であるのだが、シズネとシズカはそんなことは知らない。
もちろんインフィとしても別に気にしていない。
今は一人のプレイヤーとして初心者をガイドしている。それもVRMMORPGの醍醐味なのだ。
「じゃあ、まず早速ここで受けれるサブクエストをやろうか」
現在いる場所は農園。
ゲームの設定では、人類にとって貴重な食料を賄っている生命線である。
そこは地下に存在するが、光ファイバーにより地上から光を取り込んでいるため日中は地上と同じくらいに明るい。
農園は始まりの街へ繋がるポータルを中心に、全方位に畑や果樹園が広がる。
中には人口の森もあり、自然のサイクルが保たれている。
「ほら、あそこにいるNPCからサブクエストが得られるよ、20レベルから30レベルまでが対象だからちょうど良いかもね」
『ああ、なんてことだ、森林に悪魔が進入してしまった。ここは人類の生命線だというのに。このままでは人類は餓死してしまう!
お願いです! 森林にいる悪魔を討伐してください!』
【サブクエスト『森林をとりもどせ』を受注しました。
果樹園に進入したカーズドトレントを討伐せよ】
「そういえば、あたしらって、このゲームで初めて森林に入るよねー」
「うん、ほんとだよねー。今までは廃墟とか墓地だったから新鮮かも」
風に揺れる木の葉の音、鳥などの小動物の鳴き声、そして緑の爽やかな空気。
もちろんバーチャルだが、まるで森林浴をしているかのようにリアルだった。
「このゲームって背景もかなりリアルだよねー。これは人気になるのは納得だわー、てっきりエロにばかり気合を入れてるのかと思ってたよ」
そう言いながらシズカはシズネの全身を舐めるように見る。
「ちょっと、シズカちゃん、さっきから目線がいやらしいよ?」
そう、今のシズネは紛れもなくサキュバスである。
歩くだけでもたわわに揺れる双丘は男女問わず目線を引く。
夢魔サキュバスの名は伊達ではないのだ。
「まあまあ、これでサキュバスシズネも見納めかと思うとねー。思い出のアルバムにしまっておかないとだー」
「もう、思い出って……あっ! そうか、そろそろ次のモンスターに進化しないとだった」
シズネは新たにモンスター専用サブクエストを受注していた。
それはあらゆるモンスターに進化することだ。
森林を奥まで進むと、グシャグシャと咀嚼する音が聞こえる。
音の原因、それは巨大な大木だった。
だがそれは普通の木ではない。
大きな口に黒い目を持った人面の大木である。
そして横に伸びた枝からは、ぶら下がった人間の死体が耳飾りのアクセサリーの様に不気味に揺れ動く。
「いたよ、あいつだ。……うわーキモイよねー。
流石ダークファンタジーの世界って感じ?
今まで一度も可愛いモンスターに会ったことが無いよ。おっとシズネッチは別枠だからね」
「シズカちゃん、無駄口叩いてないでやるよ!」
「おっけー。インフィさんは少し見ててください。私達だけでとりあえず戦ってみます!」
「わかったわ。危なくなったら手を貸すから、思いっきりやっちゃっていいよ」
……。
…………。
「ふぅ……ギリギリだったねー、でも二人でも何とかなるもんだよねー?」
「シズカちゃん。何言ってんの? ずっと敵の攻撃はインフィさんが受け止めてくれてたじゃん」
「えへへ、バレたかー。でもインフィさんってマシーンなのに格闘スキルとかあるんですか?」
そう、ずっと疑問だった。
マシーンとはそもそも射撃武器に特化した職業で格闘スキルなどは持っていないはずである。
だが、カーズドトレントの伸びるツルの攻撃を武器を使わずに手刀で切り落としていた。
「ああ、それね。もちろんマシーンに格闘スキルはないよ。でも装備のおかげで全身に攻撃判定が生まれるんだよ」
通常、アバターの身体にはダメージ判定は生じない。
スキル以外で殴る動作をしても攻撃判定にはならないのだ。
それなのにインフィは手刀以外にも、先程のナンパ男に対してはただの蹴りで倒していた。
その秘密はインフィの装備品である『BTS2-近接戦闘アサルトアーマー』にあった。
設定としては、全身にブレード状の追加装甲を施したマシーン専用の防衛装備である。
これの効果としては防御力の向上はさることながら、全身が刃物のような状態となりダメージ判定が生じるのだ。
つまり、あらゆる体の動きが近接攻撃判定となる。
ただ、一般的な戦闘スキルと異なり動作にアシスト効果はなく、自分自身で体を動かさないといけない。
故に自身の運動能力あるいはバーチャル空間でのセンスが試される。
マシーンの専用装備としては弾丸を消費しないメリットはあるが、接近戦を好むマシーンなどレアケースなので装備の知名度は低い。
ちなみに運動音痴なシズネが格闘スキルを使いこなせるのは全てスキルのアシスト効果のおかげである。
「へぇ、さすがインフィさん。リアルではスポーツとかやられてるんですか? あ……失礼しました。リアルの詮索するのはマナー違反でしたね。
……そうだ! それよりも、あれだよ、シズネッチ、進化進化! はやくー!」
「うん、そうだね。次はまともなモンスターになりますように。
それにしても、木って食べれるのかな……根っこならいけるかも、ゴボウっぽいし……」
ガブリッ!
カーズドトレントの肉(根っこ)をかじるシズネ。
「あ! 結構美味しいかも。素朴だけど良いゴボウの味がする」
「シズネッチ……ゴボウが美味しいって。マジでおばあちゃんじゃん」
好き嫌いのないシズネ、割と味覚は渋い。
シズネの体は光り輝く。
【おめでとうございます! シズネッチはドライアードに進化しました】
「うーん、やっぱりこうなるかー。シズネッチ……どんまい」
やはりというべきか、モンスターシズネッチの進化モンスターは全てがそういうふうになるのだと実感せざるを得なかった。
「……さすがに無理だよ。
まだサキュバスは服だった。でも今回は全然違う……これって葉っぱじゃん、さすがに無理無理ー!」
そう、葉っぱ一枚あればいいという有名な格言はある、この場合は三枚だが……。
葉っぱのビキニ……さすがにこれは無理があった。
「大変! シズネッチちゃん。これは良くないわ、さすがに限度があります! GMコールをしましょう」
GMコールとは。
オンラインゲームにおいてプレイヤーがゲーム内で問題が発生した際に、GM(ゲームマスター)にサポートを求めるための機能である。
例えば、バグの報告や不正行為やハラスメントの報告などが含まれる。
この場合はバグ、ハラスメントに該当するだろう。
ちなみにゲームマスターはAIが担当している。
『こんにちは、シズネッチ様。
ゲームマスターの『メフィスト』です。どういたしましたか?』
「あのー、私の見た目がかなり……アレなんですけど……何とかなりませんか?」
『アレですか? 今すぐ確認しますね。しばらくお待ちください』
3024年のAI技術はかなり高性能であり、曖昧な質問も文脈を読み取ることが出来るようになっている。
……。
…………。
『シズネッチ様、大変失礼しました。流石に私もアレだと思います……。
直ぐにデザインを修正いたします。もうしばらくお待ちください』
「あ、はい。分かりました」
「シズネッチどうだった?」
「うん、さすがにアレだと思いますって。AIさんも納得してくれてよかったー」
「まーね、さすがにあたしもやり過ぎだと思うし……葉っぱビキニはさすがにドン引きだわー」
『シズネッチ様。お待たせしました。アバターデザインを変更させていただきました。今後ともヘルゲートアヴァロンをよろしくお願いします』
シズネッチは再び光り輝く。
「あ、これはいいかも、ていうか結構かわいいし。お花の妖精みたい? オーガニックっていうのかな?」
ドライアードの衣装は葉っぱをモチーフにしているのは変わりない。
だが今回は何枚もの葉っぱが重なったワンピースのようなドレスだった。
デザインの作り込みからして、おそらくデフォルトのドライアードの衣装だったのだろう。
森の精霊に相応しい神秘的なデザインである。
だが体形は相変わらずリアルのシズネそのものであった。
唯一の違いは髪色が緑色であることやお花の冠をしてるくらいである。
「よかったねシズネッチちゃん。良く似合ってる」
「まあ、あたしとしては少し物足りないけど、これはこれでありかー。
あえて苦言を言えば自然派の活動家って感じでやや減点かなー。
あたしは宗教的な価値観としてオーガニックはゴメンだし? お肉は感謝して食べる派閥だからねー」
「うん、私もそうだよ? お肉だって野菜だって生きてる食べ物なんだから、ちゃんと感謝して食べないとダメだってお父さんいってたし。
それにお母さんの作る料理は毎日美味しいから」
「うふふ、シズネッチちゃんは良い子なんだね。それに素敵なご両親……うらやましーなー。
……よし、じゃあ、次のサブクエスト受けにいこっか。どこがいいかな? 海とかどうかな、お勧めの綺麗な海岸があるんだけど?」
「いいですね。現実の海は嫌だけど、ファンタジー世界の海ってどんなのか結構気になってたんだよねー」
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