第25話 インフィニット・プロヴィデンス

 シズネとシズカはしつこいナンパ男二人に付きまとわれていた。


 なぜこんな事になっているのか……。

 いつもならサガ兄弟とパーティーを組むのだが、しばらくはゲームにログインできないと連絡があったのだ。


 サガ兄弟は大学のサークル活動でデモ行進を企画しているとのこと。

 具体的に何のサークル活動をしているのかは聞いていない、だがオタクサークルであることは間違いないだろう。


 そんなこんなで不在の二人の穴を埋めようと、野良でパーティーを募集しようとした矢先に節操のないナンパ野郎の登場だった。


「いいじゃん、いいじゃん! 絶対楽しいからさ。ひと夏のバカンス? アバンチュールってやつ?

  昔の偉い人は言ったぜYO! 乗るしかない、このビッグウェーブNI!」


 シズカは最初から明確に断っているのに、まるで聞く耳を持たないナンパ男達。


 さすがにどう見ても男たちが悪いだろう。

 だが誰も助けてくれない。基本的に揉め事は当事者間で解決するのが暗黙の了解ではある。


 だが結局は厄介ごとには関わりたくないというのが正直なところだろう。 


 いつものインフィニット・プロヴィデンスであれば無視しただろう。

 だが、今回は気まぐれ、なぜか気になってしまったのだ。


「おい! 彼女たちは嫌がってるだろ? 大人しく引き下がらないか?」


「あん? なんだよマシーンなんてやってる奴に言われたくねぇZE!」


 マシーンのアバターには性別がない、なので外見からは中の人が男性か女性かは分からない。


 マシーンの基本的な外見は一般的なロボットアニメに登場する主人公機のようなデザインをしている。

 アバターを自分自身として投影するフルダイブゲームとしては、モンスターの次にプレイヤー数が少ない。

 故に変わり者が多いと思われがちである。


「職業は関係ないだろう。お前達のやってることは規約違反だと言っている」


「ちっ! うっせーな。

 ナンパのどこが規約違反だってんだYO? 健全なお付き合いを申し込んでるんだZE!」


「そうだ、そうDA! ナンパは健全な行為だZE!」


 ナンパ男の二人組、息ぴったりだがその口調は不快そのものだった。


「……相手の気持ちを考えてないだろう」


「考えてるってNO! クルマだZE? しかもハイパーエースだってばYO!

 広くて快適、中でいろんな遊びが出来るってばYO! サイコーだってNO!」


「おいおいショウちゃん。さてはこいつ横取りする気だZE? やっちまおうかNA!」


「おうおう、そうだNA。人のモン横取りする奴なんてそれこそ泥棒だってばYO!

 ……おい! 表出ろや! ここはゲームらしくPVPでけりをつけてやる!」


 PVPとはプレイヤー同士が同意の上で戦うことであり、負けてもデスペナルティーはない。

 ちなみに同意せずに他のプレイヤーを攻撃することをPKと呼び、殺された時は経験値低下やアイテムを落としてしまうなどのデスペナルティーが発生する。

 マシーンの場合は経験値は存在しないが、装備品のドロップリスクがあるため考え方によってはより深刻である。



「ふぅ、やはりそうなったか……。

 君達は根本的に間違ってる、女性は物ではないよ、時代錯誤もいい加減にしておくことだ。

 ……だがPVPで決着をつけるのは同意だ、ゲームの出来事はゲームでけりをつけるべきだしね」


 中央ポータルを潜ると、とある農園についた。


 セーフティーエリアである始まりの街ではPVPは出来ない。

 だから、街の外に出る必要があるのだが、 この場所は人類の領域であるためモンスターは登場しない。


 サブクエスト関連で訪れる場所だが、プレイヤーにとってはPVPエリアとして認知されている。


「さてと、どちらから来る? 好きな方からPVP申請をしてくれ……」


 インフィニット・プロヴィデンスがそう言うや否や、ショウちゃんと言われていたナンパ男がいきなり襲い掛かってきた。


「バーカ! 正々堂々PVPなんかするわけねーだRO! くたばれYO!」


 両手剣を大きく振りかぶってからのスキル『パワーストライク』。


 一般的に両手剣テンプラーは地雷だと言われているがPVPにおいてはそれなりにメリットはある。


 テンプラーとしては最強の攻撃方法ではあるからだ。

 特に不意打ちをする場合は防御よりも攻撃が優先されるのは言うまでもない。


 だが、今回の場合は相手が悪かった。



 名前:インフィニット・プロヴィデンス

 職業:マシーン

 レベル:0

 HP:2429/2441【-12 ダメージ】


 

「……へっ?」


 不意打ちにより勝利を確信していたはずの、ショウちゃんと呼ばれる男の薄ら笑いは、与えたダメージの低さにだんだん顔が引きつっていく。


「まあ、全てのナンパ男が悪いわけではないけど、断られたら諦めるのがナンパの常識だろ? それにクルマ、クルマと。ハイパーエースに連れ込んで何をするきだった?」


「そ、それは、もちろん決まってんじゃん。女の子とハイパーエース。昔から、やることは決まってるっての……」 


「…………やはりクズだったか。お前は死ね!」


 インフィニット・プロヴィデンスはショウちゃんと呼ばれている男の股間を蹴り上げる。


 ブシュンッ!


 何とも言えない効果音が響く。


 ここはゲームの世界、痛覚は限定されているので痛みはそこまでのものではない。

 だが、イメージというのはある。その痛みは記憶から呼び起こされるのだ。


 男性であるならば理解に難くないだろう。


 ショウちゃんと呼ばれている男は股間を押さえたまま、その場にうずくまり絶命した。


 もう一人のナンパ男はその場に固まってしまった。


「お、おい! てめー、こんなひでぇ事して、ただで済むと思うなよ!」


「こんな事ってどういうこと? 私は悪質なプレイヤーキラーを返り討ちにしただけだよ?」


「お、おお、覚えていやがれー!」


 聞いたことのある安直な捨て台詞。だがインフィニット・プロヴィデンスはそれにも真面目に答える。


「ああ、もちろん覚えたよ。この先、もし同じことをしたら、私はお前達を容赦なく殺すよ? ちなみに他のランカー達にもメッセージを送っておいたから」


「ラ、ランカーだと! お前……まさか。

 ……そ、そうだ。思い出した、お前は伝説の廃ゲーマ、インフィニット・プロヴィデンス! ……す、すいませんでしたー!」


 そそくさと逃げ出す、ショウちゃんじゃない方のナンパ男。


「……嘘……でしょ。ここまでテンプレなチンピラ野郎が現実にいるなんて……」

「そうだね……。シズカちゃんがよく読んでる漫画にいるよね……」


 あまりの雑魚キャラムーブで、実はナンパ男たちには中の人などいなくて、NPCだったのではと疑問を持たざるを得ないシズカとシズネであった。


「やあ、君達大丈夫だった?」


「は、はい。ありがとうございました。

 ……あいつらマジでしつこくって。

 あたし達がリアルJKだと知ったとたんに、じゃあリアルで会おうよって、もう話にならなかったんですよ。

 まさに盛りの付いた猿って感じで、しかも韻が踏めてない謎のラップ口調、マジでキモかった……」


「うん、ほんと怖かったよねー。オバケよりも話が通じない人間の方がよっぽど怖かったよー」


「ふふ、大変だったね。今度なんかあったら私に連絡してね。えっとそうだ、自己紹介がまだだったね。私はインフィニット・プロヴィデンス。見た通りマシーンをやってる」


「あ、こちらこそ、えっと、サイレントフラワーです。プリーストやってます」


「シズネッチです。えっと、モンスターやってます。助けてくれて本当にありがとうございました」


「どういたしまして。じゃあ、いつでも連絡してね、また会いましょう」


 インフィニット・プロヴィデンスはランカーとして当然のことをしたまでと、その場を去ろうとする。


「あ、あの! せっかくですし私達とフレンド登録してくれませんか?」


 シズネは引き留める。

 折角の出会い、ぜひ友達になってほしいと思ったのだった。


「え? いいの? 私だってナンパ男と同類かもしれないよ? もっと警戒しないとだめでしょ?」


 まったくその通りだ、だがシズネがそう思ったのだ。

 親友であるシズカは助け船をだす。


「いえいえ、ナンパ男ならそう言う事は言いませんし、それに失礼ですけどインフィさんって女性ですよね?」


「…………なんでわかったの?」


 少し警戒をするインフィニット・プロヴィデンス。


 だがシズカは笑いながら答える。


「だって、ねー。男の人だったら股間を蹴るなんてしないと思うし。

 ふふふ、もう一人の男の顔、かなり引きつってたから、同性ならありえない行為だったんじゃないかなーって」


「だよねー。かなり痛そうだったし。シズカちゃん小学生の時、同じことやって先生に怒られてたよねー」


「馬鹿、あたしはあそこまで酷いことはやってないっての。ちょっと足が当たっただけっしょ。そもそもスカートめくりをしてる奴が大前提悪い!

 あれは大げさに痛がってただけだって……たぶん?」


「……ぷっ。あはは! 二人は仲良しなんだね。

 うん、いいよ、フレンド登録しましょう。

 それにまだあいつ等、あきらめてないかもしれないから、しばらく一緒に行動しましょうか」


「ほんとですか? やったー。実は普段パーティー組んでる奴らがリアル事情で居なくてですね。オタクのくせに……ほんと困ってたんですよ!」


「ああ、なるほどね。それであんな奴らに付きまとわれてたってことか。それは災難だったね。

 それなら、ゲームを愛する一人の人間として君達をぜひとも接待させてもらおうじゃないか!」

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