第24話 廃ゲーマー

 ヘルゲートアヴァロン。


 地球型惑星アーススリーのベンチャー企業が開発した最新のフルダイブVRMMORPG。


 シンプルなゲームデザインながらも操作性の良さやリアルなグラフィックで評判を呼び、その人気は銀河中に広がる。


 地球でもローカライズされるほどの人気があるタイトルだが、本国であるアーススリーでのみ最新バージョンのコンテンツを遊ぶことが出来る。

 故に、物好きな地方の人間はお金を出してでもアーススリーの最新バージョンを遊ぼうとする。


 恒星間通信等の高額な有料サービスに手を出してでも、最新版を遊びたいというのはオタクの中では常識である。

 それ故にコアなプレイヤーの人口が多いのもアーススリーサーバーの醍醐味と言える。


 その中でも、一日の大半をゲームで過ごすコアゲーマー達に対しては、人々は尊敬と侮蔑を込めて廃ゲーマーと呼ぶのだ……。



 ――霧がかった廃墟の都市にて。


 今まさにエンドコンテンツ攻略中のパーティーが居た。


 現バージョン最強のボスモンスター『アポカリプス』。


 半透明の骸骨の姿にフード付きの黒いマント、両手には巨大な鎌を持っている。

 腰のあたりから下は全て霧につつまれ、そこから下半身はない。


 さしずめ宙に浮かぶ半透明の死神といった風貌だ。


 それに対峙するプレイヤー達。

 テンプラー、プリースト、ソーサラー、ローグ、モンスターにマシーンのフルパーティー編成である。


 廃ゲーマーと呼ばれる彼等にとってはエンドコンテンツのボスとて単純作業に過ぎなかった。


 今回も、いつもの通り。


「さてと、ではまあサクッといきますか!」


【マスクドライダー・ナイトウ がスキル『狂信者』を使用しました。パーティー全体の攻撃力及び状態異常耐性が向上しました】

【マスクドライダー・ナイトウ がスキル『聖騎士の誓い』を使用しました。パーティー全体の防御力が向上しました】

【マスクドライダー・ナイトウ がスキル『巡礼者の導き』を使用しました。パーティー全体に悪魔、ゴースト、世界系モンスターへの特攻効果が付与されました】


「バフサンキュー! よーし、じゃあ次はアタクシの番ね! 行くわよ! ……極大火炎魔法、最終戦争序章第三幕『選別の炎』!」


 ソーサラーの放つ最強クラスの火炎魔法『選別の炎』。

 それはレーザービームの様に青白い光を放ちアポカリプスを貫く。


 霧の死神はその半身が吹き飛ぶも、再び霧は収束し、より巨大な姿に変わる。

 所謂、第二形態である。


『ふぅ……愚かな人類よ。その強大な力、なぜ平和の為に使わなかったのだ! やはり滅ぶべし! 『アシッドレイン』!』


 アシッドレインとはアポカリプスが使う酸属性の全体攻撃スキル。

 金属装備を使う全職業にとっては特攻ダメージありのボスキャラ特有の凶悪スキルである。


「おっと、アシッドレインがくるっすね! 姉さん、魔法ぶっ放す前に合図してくれって言ったっすよね、……まあ準備してたんっすけど」


 ローグが薬の瓶を手に取ると栓を開け空高く投げる。 


【★MrマリックJr★ がスキル『薬の知識』を使用しました。パーティー全体に酸耐性(大)が付与されました】


 初見殺しと言われる強酸性の雨は彼らにとってはただの霧雨である。


「ひゃっはー。喰らえ! ドラゴンランス!」


 間髪入れず、モンスター、ドラゴニュートが上空からアポカリプス目掛けて槍の一撃を喰らわせる。


「さてと、後は即死攻撃対策だけど……今回はどうかしら?」


 プリーストはアポカリプスの動きをじっと見ている。


 そう、アポカリプスは死神を模したボスモンスター。

 ランダムで即死攻撃を仕掛けてくるのだ。


「……来るわね、インフィ! 任せたわ! 『インダルジェンス』!」 


 死神の鎌の横なぎ、回避不可能の即死攻撃である。だがプリーストの最高スキル『インダルジェンス』は一度だけ死を無効化できる。


 死を回避したインフィはビームソードを展開しアポカリプスに斬りつける。


『おのれぇー、許せぬ……。 

 愚かな人類よ、我はお前達が生み出した害悪の子。

 親であるお前達の全ての罪を……我は浄化しようとしていたのに……。ルシファー様……お許しください。我がはらからは愚かなままです……』


【おめでとうございます。クエストボス『アポカリプス』の討伐に成功しました。…………上級武器強化パーツをドロップしました】


 …………。


「ちっ、今日は随分しょぼいなー。ドロップ率調整されたんじゃね?」


「たしかに、運営は今イベントで忙しいだろうし?

 そっちにてんてこ舞いってところじゃねっすか? 俺達もイベントボスにいってみるっすかね?」


「そうだなー、あんまし欲しいアイテムは無いんだけどなー。

 俺、和風のアイテム嫌いなんだよ。

 西洋風の騎士であるテンプラーにカタナとか無理。いくら性能が良くても世界観っていうかなぁ。インフィさんもそう思うだろ?」


「うーん、そうだね。でもテンプラーなら今回のアイテムはかなり良いと思うよ? スサノオさんはずっとイベントクエストに付きっきりだしね」


「なに! そうなのか! ……でもあの人、独特のロールプレイをしてるからなぁ、和風装備にこだわりがあるだけだろう……。

 いや、でもランカー1位のスサノオさんだしなぁ。

 ……よし! 今から俺達もイベントクエストに行こうぜ! インフィさんも行くよな!」


「あー、ごめん。私は遠慮しとく。今回のイベントアイテム。マシーン専用装備は遠距離のみらしいから、残念だけど興味が無いよ」


「そっか、ならオーケー。

 じゃあ報酬の上級武器強化パーツはインフィにやるよ。

 ……ふっふっふ、次こそは上がるといいな!」


「そうだね、そっちも良い狩りになるように祈ってるよ」


 今回のボス討伐のドロップアイテムである上級武器強化パーツは機械系装備の性能を一段階上げることが出来る。


 強化が成功するたびに武器の名前の後ろに+1と表示され性能が若干上昇するものである。

 更に強化を重ねることで+2、+3と数字が増えていく。


 だが+4以上の強化には一定の確率で武器破損のリスクが伴う。


 つまり武器強化は廃ゲーマーにとっても最後の遊びであり、引退覚悟の儀式ともいえる。


 しかし、上には上がいる。

 真の廃ゲーマーはそれすらも楽しむのだ。


「さてと、今回はどうだろうか……」


【おめでとうございます。GE02A1-ハイゲイン・ビームソード(+20)の強化に成功しました】


「うそ……。 まさか、最大強化レベルになるなんて……」


 武器強化の最大値は+20である。


 成功するときはあっさり成功するものだと少し溜息を吐くも。

 目標達成の喜びに少し興奮を覚えた。


「ステータスオープン!」



 名前:インフィニット・プロヴィデンス

 職業:マシーン

 レベル:0

 HP:2441

 力:1942

 素早さ:3891

 防御:2890

 魔力:0


 右手装備:GE02A1-ハイゲイン・ビームソード(+20)【new!】

 左手装備:GER1000-プラズマショットガン(+6)

 背面装備:NASA2001-高機動ブースター(+19)

 オプション装備:BTS2-近接戦闘アサルトアーマー



(……さてとこれからどうするか。

 イベントクエストには興味は無いし、何か適当なサブクエストでも受けるとしようかな……)


 そう思ったインフィニット・プロヴィデンスは帰還スクロールを開くと始まりの街へと戻る。


【人類最後の都市アヴェンジャー】



「ちょっと、いい加減しつこいんですけど?」


「いいじゃん、いいじゃん。 君達学生でしょ?

 今度さ、俺達とデートでもどう? せっかくパーティー組んだ仲じゃん?

 ゲームもいいけど、リアルで遊ぶのもアリっしょ? せっかくの夏休みっしょ? 海とか行こうぜ! YO!

 夏の思い出、俺達と作っちゃおーYO! クルマもあるしSA、ハイパーエースだZE! 広いし車内で寝れちゃうし、完璧じゃね? YO!

 夜は星空見てSA、キャンプでまったりとか最高じゃん! 絶対楽しいから、どーよ、NE?」 



 男性のアバター二人と女性のアバターが二人、どうやら揉め事のようだ。


 ちなみにヘルゲートアヴァロンのアバターは性別を偽ることはできないので、ネカマやネナベは存在しない。

 故にたまにこういうナンパ野郎が出現するのだ。


 もちろん、あからさまに悪質な付きまといは規約違反によってアカウント停止の処分が下されるのだが。


 それでもこういったナンパ行為は稀にあるのだ。


「ほんとしつこいっての! 通報するよ!」


「いやいや。俺達マジだって。それにたかがゲームじゃん。俺達と遊んだほうが絶対楽しいってNA?」


 ……たかがゲーム。その言葉はインフィニット・プロヴィデンスにとっては聞き捨てならない言葉だった。

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