第11話「未来を拓く時」
肌がピリ付くような緊張感が、空間全体に響き渡っている。
エレノアとテラ、そして二人の(剛尾の)刺客。
これより、過酷な戦闘が繰り広げられるのだと、拘束されながらメディスは目を見開いていた。
(エレノア……、テラ…………)
今の自分では、何も出来ない。
せめて、この拘束さえなければ、あの情報を伝えることが出来れば―――――。
とにかく今は、ただ二人を見守るしかない。
「さあ、いつでも掛かってくると良い」
「ちょ、テラ! 何、挑発してんのよ!」
「問題ないさ、エレノア。なんせボクは―――――」
次の瞬間、テラの胸に刃が突き刺さった。
男の方の刺客が、目で捉えられない程の動きで、先手を繰り出したのだ。
「―――――まず一人」
「テラァ!」
だが、テラは一切動じない。
それどころか、出血の一つもなく、
心臓部を刺されたにも関わらず、何も変化を起こさない。
男の刺客は、改めてテラの「異常」を思い知った。
「馬鹿な! 貴様、何故平気で立っていられる?」
「キミたちにもわかるように、丁寧に説明してあげよう」
刺客が後ろへ退くと、そのままテラが語り出す。
「僕の身体は、有り体に言えば“不死身”だ。ただ、その表現は適切ではない。正確に言うならば―――――、僕は“自己完結”した存在だ」
「自己完結、だと?」
「嗚呼。ボクは常に、生成、成長、劣化、破損を繰り返している。この身体を形成する全ては、常に僕の中から生まれ、そして崩れていっている。それはつまり、生物における生と死の輪廻を、独自に巡り続けていると言える」
「―――――何を、言ってるんだ?」
言葉の意味をまるで理解できない二人の刺客。
対して、エレノアだけは、彼が発する言葉の意味を理解した。
「なるほどね。つまりテラ、貴方は、貴方という存在は―――――」
「そうさ。分かり易く言うと、僕の身体は“再生”する。絶え間なく、常に、今この瞬間さえも――――」
「なんだと!?」
その証拠に、テラの胸に空いた傷が塞がっていく。
更に、テラの纏っている衣服まで再生されていき、やがて全て元通りとなる。
どうやら、その衣服もまた、彼の肉体の一部から作られたのだろう。
「オフィリアは、ボクを“大いなる生命”と称したが、それはあながち間違ってはいない。ボクは確かに、生物の中で最も巨大な質量を有している。そう、敢えて名を冠するなら―――――」
―――――――『
それが、テラという存在の持つ異質さ、その正体だった。
然し、エレノアは納得した。
『不老不死』なんてもの、原理的に不可能だと、ずっと思っていた。
だけど、テラの不死性には摂理があって、定められた秩序が存在している。
だからこそ、彼という存在は「巨大」なのだろう。
(テラ。どうやら貴方は、私の想像を超える存在みたいね)
「いや? キミもある程度、想像できてたんじゃないかな?」
「だから心読むな、
つまりは、テラに対して攻撃を行っても、全てが無意味。
何かしらの弱点が仮にあったとしても、純粋な物理攻撃ではどうしようもできない。
だとすれば、目的を果たすことが最優先だと、刺客たちは判断する。
「よくわかった、化物。どうやら、貴様と争っても無意義なようだ」
「ならば、此方は人質を使わせてもらうぞ」
男の方はオフィリアを掴んで、その首筋に刃を向ける。
女の方も、転がるメディスに銃を向けて、「撃つぞ」と脅す。
「テラ! 私は良いから、あの二人を!」
「それも心配いらないさ。既に策は用意してある―――――」
ドゴンッと地響きが鳴り響いた。
すると、壁から岩の柱が盛り上がって、そのまま男の方を弾き飛ばした。
「ぐはっ!」
「兄上!」
すると、今度は女の方に向かって、圧の乗った風が吹き出す。
とても立っていられる勢いではなく、そのまま刺客とメディスは吹き飛ばされる。
「エレノア、メディスを救出するんだ!」
「わ、分かった!」
壁に激突する直前に、メディスをキャッチしてエレノアがテラの元へと連れて行く。
一先ず、メディスを助けることには成功した。
キツイ拘束を解くと、メディスは即座にエレノアに抱きついて、泣き出した。
「ひ、姫ぇ~。怖かったよぉ~!」
「大丈夫、大丈夫だから」
とてつもない安心感に包まれて、思わず涙を零す女子二人。
その間に、テラは気絶したオフィリアを回収して、なんとか四人全員揃う。
そして、謎の攻撃を前に、刺客二人は一か所に集まって、体勢を立て直す。
「貴様―――、今度は何をした?!」
「大地と風を、操ったのか?」
「その言い方は少し語弊がある。ボクはただ、生み出したのさ」
すると、テラの周りに植物が生えてくる。
更には、彼の周囲の地面が浮き上がって、彼を護る防壁の様に辺りを浮遊する。
オフィリアの用いる術式とは、まるで次元の違う芸当だった。
「ボクの中には『種』がある。その種は、芽吹くことで自然そのものを生み出す。大地も、大気も、植物も、炎だって生み出せる。それらを組み合わせることで、様々な事象を起こしているのさ」
「なんだそれは、
「エーテルによる自然現象の生成とは、少し違う。ボクのこれは、純粋な生命の創出さ。これが、ボクの持つもう一つの力―――――」
―――――――『
「不死身なうえに、自然を司るって…………、アンタ神様か何かなの?」
「違うよ、メディス。ボクはただ、自然を愛し、自然に愛されているだけの、ちっぽけな生命さ」
「だとしても、どうして今まで使ってこなかったのよ」
「それはすまなかった、エレノア。ボクは争いを好まないからね、長らく使ってこなかったから、忘れていたんだよ」
「ったく、やっぱりこの
圧倒的に、生物として格が違う。
それを証明する二つの力、「不滅の肉体」と「自然の創出」。
これならば、この刺客を退けることなんて容易いだろう。
だとすれば、自分達が今やるべきことは何か。
「一先ず、メディスはオフィリアを連れて、部屋に隠れてて!」
「わかった! 姫はどうすんの?」
「私は―――――、残るよ!」
そうやって、ダガーを取り出して、戦闘態勢を取るエレノア。
だが、この場はテラに任せてしまえば、わざわざ危険を冒す必要性もない。
それでも、戦う理由が彼女にはあった。
「どうやら、今の君に何を言っても、引いてはくれないみたいだね」
「当然でしょ。そもそも、アイツらをぶっ飛ばしたいのは、私なんだから…………!」
「では、僕はあくまで支援に回ろう。こう見えて、直接的な戦闘は苦手でね」
「知ってる。じゃあ――――任せたわよ、相棒!」
今こそ、己の手で未来を切り開け。
エレノアは、誰よりも心強い相棒と共に、最後の戦いへと挑む。
「舐めるなよ、小娘! 我々には、果たさなければならない責務がある!」
「そこの怪物諸共、叩きのめしてやるぞ」
そして、一瞬の静寂が訪れる。
四人善人が息を吞み、真っ直ぐの相手の方に視線を向ける。
そして―――――、数秒の硬直があった直後。
「―――――行くよぉ!」
「―――嗚呼。全力で戦おう!」
「参りましょう、兄上!」
「全員此処で、八つ裂きにしてやろう!」
未来を懸けて、少女は駆け抜ける。
◇ ◆ ◇
「あれ…………、ここは――――」
「あ、やっと起きたか。お嬢!」
「メディスさん!?」
造船基地にて、メディスは何かの資料を読み込んでいた。
意識を取り戻したオフィリアは、今の状況について彼女に伺う。
「エレノアさんと、テラさんは?」
「大丈夫。あの二人なら、外で元気に戦ってるから」
「え、御二人でですか?! それは危険なのでは―――――」
「大丈夫だって、我らがテラさんは無敵すぎるし、姫はメラメラ燃えてるし、絶対負けないって」
「は、はぁ…………」
何を言ってるのかさっぱりだったが、取り敢えず納得するオフィリア。
何故なら、メディスの表情が思いのほか穏やかであったからだ。
「それよりさ、オフィリア」
「はい、何でしょう」
「アンタ、神薙なんだって? あの刺客二人が言ってたけど」
「え、それは―――――」
「あれでしょ? 神薙って、特殊な力を使えるもんから、狙われる危険性が高いって。だから、普段は誰が担っているのかを秘匿しているって」
「はい。ですが、私は―――――」
「謝ったりとかしないで良いから、とにかく聞いて!」
すると、メディスは本を抱えて、星穹船へと近づく。
側面に付着していた入力機に番号を入れると、そのまま船の扉が開いていく。
「―――――これは! メディスさん、貴方まさか!」
「うん。ちょっとだけど、船の解析が出来た。といっても、説明書を読んだだけだけど」
「ですが、アレは古代語によるもので、一般の方では…………」
「アタシを誰だと思ってるのよ! 学院一の天災発明家、メディス・オデュネラちゃん様よ!」
「――――――!」
間違いなく、彼女は「天才」だ。
それを思い知ったオフィリアは、思わず言葉を失くした。
ただ、今はそれどころではない。
「そんなことより、神薙様!」
「は、はい!」
「貴方様に、この天才一般市民のアタシからお願いがあります」
「はい、私にできることであれば何でも!」
「それじゃあ、此処にある―――――」
少女と青年は、今を懸けて戦っている。
だとすれば、自分達は『未来』を護る為に、最善を尽くさなければならない。
二人の少女は、自分達の役目を果たすべく、それぞれ動き出す。
◇ ◆ ◇
「行くよ!」
「嗚呼、存分に暴れるといい!」
そうやって、走り出すエレノア。
二人の刺客はエレノアとテラ、それぞれを仕留めようと襲い掛かる。
「―――――舐めるなよ、小娘が!」
「アンタもでしょうが!」
女の刺客は、銃を持参していた。
即座に銃を取り出して、エレノアの顔面に向けて発砲する。
然し、四発ほど打ったが、弾はまったく当たらない。
「なにっ!?」
「無駄よ! 何度撃ってこようと、私には当たらない!」
「馬鹿な、どうなっている?!」
もう一発、銃弾をエレノアに繰り出す。
その時、彼女は目撃した、銃弾が無力化される、その理屈を―――。
「今のは―――――!」
小さな岩の破片が、一瞬で現れて、即座に弾丸を弾いた。
そう、エレノアの周囲には、他にも幾つもの小さな岩が浮いていた。
「テラの力が、私を護ってくれてるのよ!」
「くっ、この女―――――!」
エレノアの素人同然のダガー裁きでも、相手が銃使いなので、互角に
あとはただ、どちらが先に一撃を決められるかだ。
一方で、テラともう一人の刺客も、戦闘を繰り広げていた。
「この化け物が! 貴様は何としても、私が仕留める!」
「失礼だな。ボクはただの、純粋たる生命体さ。そう思えるのは、キミの既存の知識が不足しているからじゃないのかな?」
「黙れぇ―――――!!!」
縦横無尽に動き回る男の刺客。
ただ、その動きを地殻変動や植物の生成によって、悉く妨害していく。
壁や天井に足を付けても、即座に隆起し、或いは沈降される。
つまり、この狭い空間全てが、テラの
「あまり私を――――、舐めるな!」
「――――――!」
剛尾特有の、『人』というより、『獣』に近い柔軟な動き。
それによって、一気に間合いを詰めて、そのまま二本のダガーでテラを切り裂く。
だが、当然ながら損傷は一切なかった。
「だから言っただろ? 無駄だって」
すると、テラが刺客の腕を掴んで、そのまま壁に向かって投げつけた。
手加減されているようだが、それでも十分な威力だった。
「くはっ!」
これで、此方の刺客の動きは一度、封じられる。
今のうちに、もう片方の刺客とケリを付けようと、テラは考えた。
「エレノア、一気に攻めるんだ!」
だが、銃撃が無効だと知った途端、刺客は肉弾戦で迎え撃っていてた。
剛尾と宝眼、その戦力差は圧倒的であった。
「くっ! 流石にキツイって…………」
「私たちは、此処で引き下がるわけにはいかないのだ!」
「それはこっちだって、同じだっつーの!!!」
すると、テラがエレノアに向かって叫ぶ。
「エレノア、地面に屈むんだ!」
「えっ?」
言葉の意図はよくわからない。
ただ、今は相棒であるテラを信じて、言う通りに行動する。
「今更這いつくばっても、もう遅いのよ!」
そうやって、刺客がかかと落としを繰り出そうとする。
だが、その瞬間であった。
「なっ!?」
急にバランスが取れなくなって、刺客は体勢を崩してしまう。
そして、よく見ると足場に水が張っていた。
「貴様―――――、水も出せるのか?!」
「少し地面を覆う程度だけどね。―――――エレノア!」
「わかってるわよ!」
そうして、エレノアは決めに掛かった。
ダガーを下から上に向けて振り翳し、刺客の左腕を浅く切り裂いた。
「あぁああああああ!」
「悪く―――、思わないでよね!」
刺客の一人は、左腕を抑えながら、一度後ろへと下がる。
これで、彼女は戦闘不能だろう。
「取り敢えず、一人!」
だが、その一瞬の油断が、次の一手へと繋がってしまった。
「よくも―――、私の妹を!」
「な、コイツっ!」
完璧に殺しに掛かっていた。
それは、使命に殉じる刺客の姿ではなく、大切な妹を傷つけられて怒り狂う、『兄』の姿だった。
だとしても、自分達が負けるわけにはいかない。
「ぐぬっ!」
「ありがと、テラ! 助かった!」
風圧の
すると、刺客は足に力を思いっきりため込んで、突進しようとする。
そのあまりの勢いに、風圧ごとエレノアが押し返された。
やはり、兄の方の刺客、彼は油断できない相手の様だった。
「だからって、負ける訳にはいかないのよ!」
「そろそろキミにも退場して貰おうか!」
すると、刺客は部屋の中心へと移動し、その場で立ちすくむ。
「よくも、よくも私の―――、俺の妹を傷つけたな!」
「えっ…………」
「この、ゴミ共がぁああああああああああああああ!!!」
雰囲気が、一気に変わった。
更には、体格が少し良くなったように見え、尻尾の先が逆立ってきた。
これが―――――、
「ガルゥルルルルルル!」
「正真正銘の獣になったって訳ね……!」
「エレノア、油断しないように」
その動きは、目で捉えることは困難で、エレノアはテラの傍によって、次の攻撃に備えようとしていた。
だが、彼が繰り出す攻撃は、彼女の思考の速度を超えていた。
「グルゥラアアアアアアアアアアア!」
無数の連撃が、テラの身体をズタズタに切り裂いていく。
そのあまりの攻撃速度に、テラの再生が追い付いていない程であった。
「テラ!」
「エレノア、僕の後ろに居るんだ!」
「でも―――――!」
思わず反撃をしようと、エレノアは少しだけ前に出ると、そのまま刺客がエレノアの胸倉をつかんだ。
そして、彼女の溝にケリを入れて、そのまま天井にたたきつけた。
「―――――かはっ!」
「エレノアッ!」
「貴様を倒せなくても、あの小娘が死ねば、貴様の負けだろう?」
「確かにその通りだ。だからこそ、僕は―――――!」
渾身の拳を、刺客に叩き込んだ。
だが、攻撃はあまり効いているように見えず、そのまま逃げられてしまう。
「エレノア、無事かい?!」
「ごほっ、ごほっ―――――、なんとか…………」
「ボクが最後まで支援する。だから、キミが奴に止めを刺すんだ」
「でも、どうやって…………!」
今はどうやら、テラが植物で固定してくれているらしい。
天井に張り付いたまま、呼吸が整うまで待機させてくれているといったところだ。
ただ、相手は剛尾だ。その驚異的な跳躍力で、すぐに止めを刺しに来るだろう。
だからこそ―――――、考えるんだ。
テラの持つ『自然』と、自分の持つ『知識』を組み合わせて、全力で。
きっと、テラは全てを理解してくれる。
「―――――テラ、お願い!」
「嗚呼、わかったとも!」
そして、テラは部屋全体に向けて、命令を告げる。
「―――――大地よ、震えろ!」
部屋全体が強く震えて、更にはあらゆる箇所が隆起、或いは沈降していく。
このまま、足場を不安定にして、動きを封じようという作戦なのだろうか。
「―――――小癪な真似を!」
刺客は、即座にテラの方へと接近し、再び連撃を繰り出す。
殴られ、引き裂かれ、蹴られ、テラは何度も攻撃を喰らい続けていた。
すると、刺客の身体に何かの胞子が付着していく。
気が付くと、彼の纏う衣服全体に、胞子が付着していた。
「なんだ、これは?」
「それただの、植物の胞子さ。でも、ボクの力であれば、その胞子を一気に成長させることが出来る」
「なっ―――――!」
たちまち、辺りを漂う胞子は、彼を拘束する蔦へと成長する。
だが、このような事をしても、ほんのわずかな足止めにしかならない。
「これしきの拘束、力づくで―――――!」
すると、天井からエレノアが降って来て、風により軽やかに着地する。
そして、刺客の前に立つと、そのままダガーのスイッチを押して、そのまま繰り出していく。
「待て! 貴様、その
「ご名答!」
エレノアの
そのダガーには、刀身に属性を付与する機能がある。
エレノアは今、コマンドを入力する事で、刀身に「電動」の効果を与えた。
つまり―――――――!
「全身蔦だらけのアンタには、これがよく効くって話よ!」
「なんだとっ!?」
エレノアが蔦を切り裂いたことで、蔦から電導して刺客を感電させる。
「ガヌアアアアアアアアアアアアアァァァ!!!」
「よっしゃ!」
本来の威力であれば、もう少し軽いとこだっただろう。
ただ、全身が植物に覆われたことで、通常以上の電気を流し込まれた。
あまりの威力に、刺客は思わず気絶する。
「あ―――――、兄上ぇ!」
男の刺客は、感電して気絶した。
もう一人、女の刺客の方も左腕を負傷している。
もはや、戦うまでもなく、エレノアとテラの『勝利』であった。
「馬鹿なっ、こんな事が…………!」
「もう観念しなさい! 言っておくけど、正当防衛だから、罪に問われるのはそっちだからね!」
「このまま、キミたちを拘束して、然るべき機関に引き渡すとしよう」
「くっ…………!」
【そこまでだ、下がりたまえ】
二人の刺客の姿が消えた。
まるで何かに吸い込まれたかのように、一瞬で消えた。
「なっ!?」
「おや、まだ誰か居るのかい?」
【どうやら、キミたちの相手をするには、この二人では分が悪かったようだ。ここは一度、撤退させてもらうとしよう】
どこから聞こえてくるのだろう。
この遺跡からの声とも違う、低くて不気味な声が、部屋全体に響き渡っていた。
「――――――」
「ようやく負けを認めるって訳ね」
【否、どのみち君たちは此処で終わる。あくまで私は、計画を行いに来ただけだ】
すると、目の前に謎の装置が置かれた。
物凄い質量の様で、地面に深く突き刺さるかのように落下した。
そして、地面に落ちた瞬間、謎の時刻が表示された。
「―――――ちょっと、これって…………!」
「まさか、時限爆弾かっ!?」
【そうだ。言っておくが、爆弾の解除は不可能だ。外部からの刺激によって、即座に爆発する仕組みにしている】
「お前ら、そこまでして…………!」
「エレノア……」
【さらばだ、エレノア・ルティーゼ。そして、また会おう―――――】
――――――『ガイアの触覚』
「――――――!」
「ガイアの、なんだって…………?」
すると、気配が完全に消えたのを感じた。
このままでは、遺跡ごと爆弾に吹き飛ばされて終わりだ。
ただ、残された時間はあと五分、この爆弾を解除することは不可能だという。
「―――――くそっ!」
「エレノア、今はとにかく逃げるんだ!」
「嫌だ!」
「―――――え?」
エレノアは、地面に膝を付くと、そのまま力強く地面を殴った。
そして、その胸に宿る思いを言葉にしていく。
「どうして、どうして私の夢を邪魔するんだ! やっと、やっと此処まで来れたのに―――――!」
悔しくて、辛くて、思わず涙を流すエレノア。
それを、テラはそっと傍で見守っていた。
「もし、ここで全部失うぐらいなら、いっそ私も―――――」
すると、テラはエレノアの手を優しく包んだ。
そして、苦しむ彼女に向かって、優しく語りかけた。
「エレノア、キミの気持ちは理解できる。ただ、ここで命を犠牲にすることが、本当に
「…………」
「キミが生きて、此処で見たこと、感じたことを、外へと持ちだすこと。それが一番、彼らが望んでいることだと、僕は思うよ」
「…………テラ……」
わかっている、ここで死ぬことに意味がないことなんて。
だからって、何もせずに逃げることも、今の自分には出来ない。
何か、何か出来ることは残ってないのか…………。
「姫ぇえええーーーーー!」
「え、メディス?」
「今すぐこっちに来て! ようやく船が起動した!」
「えっ、は!?」
「今から、アンタの先祖が遺した大事な船で、此処を脱出するから―――――!」
どうやら、先程の戦いの最中、メディスとオフィリアは何かを行っていたらしい。
ただ、それが「船の起動に挑んでいた」とは、エレノア自身も思ってなかった。
「ちょっと、どういうことよ?!」
「説明なんて後々! とにかく、早くこっちに来て!」
そう言われて、エレノアとテラは、造船基地のある部屋へと入っていく。
すると、そこには起動して光を放つ『星穹船』があった。
どうやら、本当にメディスは解析して、この船の起動に成功したらしい。
「これは驚いた。どうやって動かしたんだい?」
「別に。いつも使ってる
「じゃあ、どうやって起動したの?」
「そりゃ簡単、その辺に置いてあった説明書をちゃちゃっと読んだだけ」
「メディス、貴方…………!」
あの戦闘していた短時間で、それら全てをこなしていた。
そこで思い出した、メディスが如何に『天才』として恐れられていたを。
「凄い、メディス! 天才! 私の親友! もう大好き!」
「おうおうもっと褒めておくれ。
「ホントありがとう。帰ったら絶対に御礼するから!」
すると、オフィリアが慌てた様子で此方へやって来る。
「メディスさん! こちらも準備出来ました!」
「よくやった、神薙様! これで、アタシらの大勝利だ!」
すると、オフィリアは一冊の本をエレノアに渡す。
そして、真剣な眼差しで彼女に告げる。
「エレノアさん―――――」
「オフィリア。貴方、やっぱり神薙だったんだね」
「えぇ。そして今、その力の全てを、貴方たちの夢を護る為に、使わせて頂きました」
「力って……、じゃあこの本は何?」
「説明は後で致します。ですが、一つだけ申し上げます」
「…………」
「この一冊は、貴方を夢へと導いてくれます。ですから…………!」
本当なら、この場にある全てを持って帰りたいところだ。
だけど、そんな時間はきっと許されていない。
それを知ったうえで、オフィリアはこの一冊を選んで、エレノアに託した。
「わかった。取り敢えず、貴方を信じる」
「エレノアさん……!」
「その代わり、聞かせてよね。貴方の本当の目的や、その本心を―――――」
「えぇ、勿論です」
そして、テラが外にいる二人に向かって呼びかける。
「二人共、もう時間がない。急いで船内へ!」
「了解!」
「かしこまりました!」
船内は、それこそ航空機の中を連想させるようだった。
ただ、複雑な仕組みの様で、様々なボタンやらレバーやらが細部に組み込まれていた。
そして、前面には巨大な画面が合って、外の様子を映していた。
「よっしゃ、エネルギー充填率、現在89%!」
「ちょ、それ間に合うの!?」
「安心しなさいや! あと数十秒もすれば、ビューンって飛ぶから!」
すると、機体が徐々に浮き出した。
このまま出力を上げれば、無事に脱出できるだろう。
ただ、一体どこから脱出するつもりなのだろうか。
「メディス、どこから外へ出るの?」
「此処の天井、地上に通じてるっぽいでしょ? だから―――――!」
真上に向けて飛び出す、そういうことだろう。
少しでも遅れれば、爆発の餌食になって一巻の終わりだ。
それでも―――――。
「よーし皆、カウントダウンよろしく!」
「え、それは必要なのですか?」
「こういうのは、勢いが大事だからね! 良いからノって来い!」
「ったく、付き合ってあげるわよ! 親友!」
爆発まで、あと10秒。
星穹船の発進まで、あと―――――――。
『サン!』
皆で見つけた夢を、無駄になんてしたくない。
『ニィ!』
一人では辿り着けなかった。
だからこそ、この冒険には大きな価値があって、意味があった。
『イチッ!』
どれだけ馬鹿にされても、否定されても。
今日という日まで、ずっと夢を忘れないで、抱き続けてきた。
そして今―――――、私たちは夢の先へと飛び立っていく!
『――――――ゼロ!』
そうして、猛烈な勢いで星穹船は飛び出した。
その直後に、時限爆弾が爆破したようで、爆炎がこちらに迫って来る。
「やばっ! 勢いが足りないかも!」
「このままでは、爆発に巻き込まれてしまいます!」
だけど、もう絶対に夢は諦めない。
「テラ! 最後に一つ、お願い!」
「―――――任せろ!」
テラは、船全体に風圧の結界を張った。
これによって、船は押し出されるかのように天井へと昇っていく。
そして、猛烈な勢いのまま、天井を貫いて、遂に―――――。
「やった…………!」
目の前には、これまで冒険してきた禁足域の森が、どこまでも広がっていた。
かなりの高度まで登ったので、星穹船はそのままゆっくりと地上目指して降りていく。
ただその間、四人は空からの景色を目に焼き付けていた。
「凄い…………!」
「よっしゃあ! 任務完了、私天才!」
「これは、見事な絶景ですね」
それぞれが、それぞれの思いを抱く中。
テラはエレノアの傍で、そっと心からの言葉を贈った。
「―――――エレノア」
「なぁに?」
「キミと出逢えて、キミと運命を共に出来て、ボクは誇りに思っている」
「なぁーに言ってんのよ。寧ろ、これからでしょ?」
「え?」
「私の目標は、今よりずっと高い、この更に上の
「そうか。いや、そうだったね」
これは、『夢の始まり』に過ぎない。
こうして先祖たちが遺した船に乗って、空へと飛び立てたことも。
仲間たちと共に、この星の過去について知ったことも。
そして、テラという唯一無二の相棒に出会えたことも。
「これから忙しくなるわね」
「というと…………?」
「この船をもっと研究して、一ヶ月後に世界に見せつけるの!」
「エレノアさん、それって―――――!」
「そうよ! 研究披露会で、この星穹船と、あの場所で見たこと、感じたことを全てぶちまけて、世界に思い知らせてやるのよ!」
―――――あの星穹には、無限の可能性があるんだって!
「それは、とても素晴らしいです。エレノアさん!」
「どこまでも付き合いますぜぇ、姫!」
そうして、長い旅は終わりを告げていく。
高度を下げながら、禁足域の一口へと船はゆっくりと降りていく。
本当に、長くて、辛くて、だけど最高に楽しい冒険だった。
「さあ――――、エレノア。ボクたちに見せてくれ、キミの夢の果てを!」
「当たり前よ!」
長い旅路が幕を下ろす。
だけど、それはエレノアにとって、始まりの瞬間でもあった。
ここから歩き出そう――――――。
――――――『
―――――――
作品のクオリティアップの為、しばらく休載します
再開の目途が立ち次第、近況ノートにて報告いたします
星穹のオルフェノア ―Prototype― 黒崎雄斗 @Xero_LastStory_69
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