第10話「先達者の軌跡」

———長らく時を共にしていても不思議なものだ




『今俺の前に立っているお前は、俺や我々が想像するものの何よりも遥かな存在なんだからな』


『そんな事はないさ。キミらは常に世界を広げ、今やこうしてこの地に立っている。キミと、この状況そのものが、その証左だ』


『……いや、俺はそんな大層なものじゃない。仮にそうだとしても、それは俺に限らんな』


『"熱を追い越すほどの歩幅"、か……なるほど、進歩史観の観点は甚だ疑わしかったが、其処にコミットメントさせて考えれば、確かにそれは"真実"だね』


『なんにせよ、この行き詰まりは何の否定にもならん。むしろ、次は"お前の番"だぜ?』


『———ボクの?』


『ああ』


『………』







◇ ◆ ◇

 

「テラ?」

「―――――え?」

「何よ、ボーっとして。らしくないわね」

「嗚呼、すまない。なんだか、懐かしい気分になってね」

「ふーん」


 遂に、星々を翔ける船を発見したエレノア一行。

 メディスは来て早々「解体するか!」と工具を取り出すが、エレノアに全力で止められてしまう。

 一先ずは、辺りの文献や資料を一通り読み通してみることにした。


「―――――これは、古代エーフィル文明の歴史書ですね」

「こりゃすげぇ! ここにあるの使えば、もれなく新型の機装作り放題だわ」

「へぇー、凄いね」


 あまり、関心がないような態度を取るエレノア。

 ただ、それ以上の感動を、エレノアは既に心の奥底に感じていた。

 だからこそ、もう驚くことなんて然程ないのだ。


「さてと、どうしたもんかな」


 部屋の中央にあるのが、目当ての『星穹船』。

 これを持って帰れば、自分の夢に一歩、いや十歩も百歩も近づく。

 

 ただその前に、もう少しだけ此処にいたい。

 ここにはきっと、自分の先祖が遺した「想い」や「願い」が沢山詰まっている。

 『未来』へ進むのは、『過去』を振り返ってからでも遅くはない。


「さて、私でも読めそうな書物ものはないかなっと」


 すると、オフィリアがこちらに迫って、何かを手渡す。


「でしたら、此方など如何でしょう?」

「これって?」

「この造船基地を作った方々、その日記だと思われます」

「―――――日記!」


 早速、エレノアは日記の中を開いてみた。

 びっしりと、見たことのない文字が綴られており、全く読めない。


「これは…………」

「これは―――、私たちの言語とも違いますね。どこの星の言語でしょうか?」

「さあ?」


 頭を悩ませる二人に対して、テラが間からそっと顔を覗かせる。

 すると、何の躊躇いもなく、すらすらと文章を読み始める。


「―――――記録三日目。この星に不時着して、既に三日が経過した。その間、我々にとって有効となる物資は一切獲得できず、食料も底が見えてきた。このままでは…………」

「ちょっと待って!? テラ、貴方読めるの?」

「うん、まあね。」

「テラさん。この日記に書かれてある文字は、どこの星のものなのでしょうか?」

「それは―――――、わからない」

「はぁ?」

「ただ、僕の記憶の奥底に、これと同じ言語が存在する。だから辛うじて読める、それだけさ」


 相変わらず、得体の知れない奴だ。

 そう思いながらも、エレノアはテラに「解読」を依頼する。


「じゃあ、続きを読んでいこう―――――」




 

 記録5日目。

 乗組員の一人が、行方を晦ましてしまった。

 今日、私と部下との二人で、捜索に向かうことにした。

 

 幸い、この星の大気は我々の身体に適応する用で、装置なしでも可能だと、昨日の実験で検証された。

 これにより、一つの「仮説」が生まれた。

 

 この星には―――――、我々に近い生物が存在するのかもしれない。

 

 いよいよ、本格的に調査を始めていくことになったのだが…………。

 果たして我々は、無事に帰還できるのだろうか。





「なるほど、この時初めて―――――」

「ご先祖様も大変だったみたいね。でもそっか、先祖たちの星も、ソルティアに近かったんだ」

「どうだろうね」


 感心するオフィリアと、納得するエレノア。

 そして、ひたすら読み進んでいくテラ。





 記録7日目。

 行き倒れていた我々は、この星の民に救われた。

 言葉は一切通じなかったが、手振り身振りで意思の疎通を図り、なんとか友好的な関係を築くことに成功した。

 

 この星の民は、実に美しい瞳を持っている。

 しかも、姿も我々に非常に近く、集落と思われる場所の雰囲気も、まるで故郷を思い出すかのようだった。

 とにかく、彼らと友好的な関係を築きつつ、この星の脱出を目指したい。


 それにしても、僕を救ってくれた彼女は、誰よりも美しい瞳をしていた。





「これって―――、当時の宝眼のことでしょうか」

「多分ね。ていうかこれ、もしかして異星の放浪者が、宝眼の誰かと恋に落ちて、それが私のご先祖様ってオチじゃないの?」

「それは、少々短絡的過ぎないか?」

「じゃあさ、少し飛ばして読んでみてよ」

「わかった」


 そうやって、少し頁を飛ばして、テラは解読を再開する。





 記録30日目。

 彼らの言語を少しずつだが、理解してきた。

 我々がこうして生き延びてこられたのも、彼らによる協力があったからこそだろう。

 特にミーシャ、彼女はずっと私を気遣ってくれた。

 異なる星で生まれ、異なる生を辿ってきた私を、彼女はずっと受け入れてくれている。

 もしかして、私は彼女のことが―――――。





 ぱたんと、エレノアが頁を閉じてしまった。


「ええ、なんで閉じたんですか!」

「なんかこう、恥ずかしくなってきた!」

「素晴らしいじゃないか。異なる星の者同士が結ばれて、その結果として、こうして子孫である君に伝わっている。まさに、を感じるよ」

「二人共、単純に恋物語を楽しんでるだけでしょ」


 それから読み進めてみると、先祖たちの営みが鮮明に明かされていく。

 どうやら、『異星の民』と『宝眼の一族』は、その後も互いの技術と知恵を用いて、様々な文化や研究を進めていったのだという。

 特に、異星の文化はかなり高度なもので、宝眼も特性上、それを理解する能力が非常に高く、独自で高度な道具や武器を幾つも生み出していったという。


 やがて、私の先祖と思われる「ミーシャ・ルティーゼ」は、異星の民の一人と結ばれて、その間に生まれた子供が“両目とも霞眼”だったとか。

 このことから、他の宝眼は異星の民と結ばれることに恐れを抱き、互いに結ばれることを禁じたという。

 尚、どうしてそんな子供が生まれたのかは、最後までわからなかったという。


「さてと、そろそろ日記も終わりだね」

「死ぬ間際まで書き続けるとは、誠実な方だったのですね」

「んー…………」


 こうして、自分の原点を知れたのは、確かに良い事なのだろう。

 ただ、なんだか黒歴史を知られたようで、さっきから耳が熱くなっていた。


「あれ? 最後は少し破れているね。取り敢えず読んでみるよ」





 これが、最後の記録となるだろう。

 どうやら、我々は星の終焉に立ち寄ってしまったらしい。


 数ヶ月前に観測した、巨大な隕石。

 それがどうやら、もう時期この星に降り注ぐらしい。

 

 最後の瞬間、私は何をすればいいのだろう。

 愛する家族たちと共に、穏やかに終焉を見届ければ良いのか。


 私には、その答えが出せない。

 もし、彼ならば何を思い、何をするのだろうか。



 教えてくれ、ガ





 文章は、其処で途切れていた。


「これは、一体…………」

「巨大隕石、ですか……」

「そんなのが昔、この星に―――――」


 巨大隕石の落下。

 それが本当だとすれば、自分たちがこうして文明を築き上げているのは、奇跡に等しいだろう。

 おそらくだが、星の終焉はかによって阻止された。


 それが何なのかは、この日記ではわからない。

 最後の「ガ」とは、一体なんの意味を持つのだろうか。



「ちなみにさ、オフィリア」

「はい?」

「貴方は考古学に詳しそうだから聞くけど、この星に隕石が降ってきたって言う、明確な記録とか、存在するの?」

「御座います」

「そっか、じゃあ…………、いやあるの!?」

 

 てっきり、大昔の出来事である為に、記録はないものとエレノアは考えていた。

 ただ、この事象に関しては、どうやら情報があるらしい。


「妖耳の王家に伝わる伝承です」

?」

「あー、いえその! 有名なので、妖耳であれば皆知っているのですよ!」

「………ふうん?」


 とにかく、オフィリアの話を聞いてみることにした。


「我々の星はかつて、未曽有の大災害によって、終焉を迎えようとしていました。ですが、大いなる大地の化身が、空からの巨石を受け止めて、その身を犠牲にして地上を守り抜いた、と」

「大いなる大地の化身? それって…………」

「我々にもわかりません。ただ、この伝承を知る者たちは皆、敬意をこめて“大いなる生命”と呼んでいます。いつか再開した時、その者にを伝える為に」

「感謝、か。まったく、とんでもない時代があったものね」

「―――――――」

「どうしたの、テラ?」


 オフィリアが初めてテラと会った時、彼女は彼を「大いなる生命」と呼んだ。

 おそらくだが、彼女はとある推測に至ったのだろう。

 

 そして、もしその推測が正しければ―――――。


「オフィリア。はっきりと答えて欲しい」

「はい」

「ならば何故、キミはボクをそう呼ぶんだい?」

「―――――は?」

 

 言葉の意味がよくわからなかったエレノア。

 ただ、テラは何時にもなく真剣な眼差しで、オフィリアに問いかけていた。


「ちょっと待って。大いなる生命って、テラのことそう呼んでたの?」

「えぇ。こうして出会うまでは―――、ずっと」

「じゃあ、なに?! テラは森の主どころか、この星を救った大地の化身ってこと?」


 その言葉だけを聴けば、納得するどころか失笑していただろう。

 ただ、「テラ」という未知の存在を間近で見てきた自分になら、その言葉にも納得がいく。

 自然と一体となって、あらゆる生物と心を通わせて、その肉体は鉱物に近い。


 テラが一体、何者なのか―――――。


 その答えがはっきりとわかったわけではない。

 ただ、その断片が今、はっきりと見えたように、エレノアは思えた。


「テラ、どうなの? 答えてよ」

「それは―――――」


 テラは、ずっと自分を探していた。

 それまで、生物として長けているが故にそう呼ばれていると考えていた。

 だがこうして、「大いなる生命」の意味を知って、彼女の目的も鮮明になった。

 今こそ、自分が何者かを知る時だと、そう思った。


「―――――オフィリア。その伝承があったのは、今から何年前のことだい?」

「えーっと、確か3000年以上前のことだと、伺っております」

「そうか…………」

「テラ?」

「皮肉だね。ボクの記憶の限界地点も、丁度そこまでなんだ」

「限界…………地点?」

「ボクがこうして、ボクとなったのは、丁度3000年ほど前のことで、それ以前の事は、何も覚えていないんだ」

「それって―――――」


 つまり、テラ本人はその出来事に対して、何も覚えていない。

 それどころか、当時者かどうかでさえ、はっきりと判別できないのだ。


「でもそうか。ボクはかつて、この星を―――――」

「あくまで、私のでしかありませんが、もしかしたら」

「いや、有り得ない話じゃないと思う。テラの言動や特徴は、とても普通の生物と同じだとは思えないもの。それに、長い時間を生きてて、とんでもない力も持ってて、ただ…………」

「―――――?」

「流石に、今のテラが“巨大隕石を防いだ”ってのは有り得ないなって」

「そうですね。もしかして、でもしたのでしょうか?」

「それが出来ても、ボクはきっとやらないだろうね。この大きさだからこそ、自然と共に歩めるから」


 推測や憶測なら、幾らでも出る。

 ただ、どれも「核心」には決して至らず、個人の考えの域を出ない。


 このまま調べれていれば、エレノアのことだけでなく、『テラ』に関しても色々と判明する事があるかもしれない。

 とにかく、三人は他の文献にも目を通していく。




 そして、数分が経過した頃。

 妙にメディスの気配が大人しいので、エレノアは気になりだした。


「あれ、うちの家臣は?」

「さあ、どちらに行かれたのでしょう?」

「この部屋の外は、あの空間だろ? なら、部屋の何処かに居るんじゃないのか?」


 そうやって、三人はメディスを探しだす。


「おーい、メディスぅ~!」

「メディスさん、どこですか?」


 意外と部屋が広く、物も多い。

 もしかしたら、何処かに埋もれて居るかもしれないので、三人は割と真面目に探していく。


 すると、テラが一つの違和感に気付く。


「おや? 扉が開いているようだね」

「え、ホントに? じゃあ、外に出たってこと?」

「外に…………、ですか。先程のゴーレムの残骸でも採取しに行ったのでしょうか」


 一先ず、エレノアがテラに「行って見てきて」と頼む。

 そしてテラは、部屋の外へと向かっていく。




「ねぇ、オフィリア」

「はい……?」

「アンタってさ、ホントは何?」

「何、と仰られても…………。私は、最初に申した通り観測局の―――――」

「嘘なんでしょ、それ」

「――――――」


 オフィリアは、否定をしなかった。

 それどころか「やはり」と言わんばかりの表情で、素直に答えることにした。


「えぇ、そうです」

「ずっとさ、考えてたんだ。貴方が一体、誰なんだろうって」

「…………」

「目的を話さなくて、身分を偽って、歴史に詳しくて、妖耳で―――――」

「………………」

「何より、テラをって、最初に言ってたよね」


 これまでの会話や行動を、エレノアは全て見てきた。

 そして、ここに来てようやく確信が得られた。


 これらの条件を持ち合わせた存在が、この星には一人だけ存在する。

 それも―――――、「貴族」や「為政者」よりも高位の存在であり、何よりも秘匿されなければならない存在。


 つまり、オフィリアの正体は…………。


「エレノアさん…………」

「オフィリア。貴方は、この星の―――――」









「―――――ぐぁあ!」


 部屋の外から、テラの声が聞こえてきた。

 しかも、これまでとは打って変わって、鬼気迫るような、何かに攻撃されたかのような声を上げていた。


「――――え、何っ?」

「行きましょう!」


 慌てて部屋の外へと飛び出した二人。

 すると、そこには倒れているテラと、黒衣に身を包み、仮面を付けた何者かが居た。




「ちょっと、テラ! どうしたの…………」

「くっ―――――」


 声を発する事も困難な様で、苦しそうな表情でエレノアを見つめる。

 そして、謎の二人組の内、背の高い方が喋り出す。


「エレノア・ルティーゼ。貴様の得た物を、我々に明け渡せ。さもなくば――――」


 もう一人の人物が、拘束して口を塞いだメディスを、連れてきて見せつける。


「黙ってろ」

 

 腹に一発、その者がメディスに拳を叩き込む。


「ちょ、何してんのよ!」

「騒ぐな。妙な真似をすれば、この人質の息の根を止める」

「何なんですか、貴方たちは!」


 オフィリアが、術式を行使しようとした瞬間だった。


「貴様も大人しくしていろ―――――、よ」


 首元に回し蹴りを入れて、オフィリアを失神させる。

 そして、倒れる彼女に足を置いて、そのまま踏みつけていく。


「オフィリア…………! アンタら、なんなのよ!」

「もう一度言おう。お前が得た物を此方に寄こせ。さもなくば―――――」


 足の力が強めて、オフィリアの背中に食い込ませる。

 流石の状況に、エレノアは両手を上げて抵抗することを諦めた。


「わかった! 私は何もしないから、皆を傷つけないで!」

「それで良い。我々としても、手荒な真似は控えたいところだ」

 

 自分の仲間を拘束して、散々痛めつけておいて。

 エレノアは今、過去最高に腹を立てていたが、同時に冷静でもあった。


「聞いてもいい?」

「言ってみろ」

「アンタら、一体何者なの? 私が得た物……って、船とか資料とか、あれ全部の事?」

「そうだ。そうすれば、人質は全員解放しよう」

「それをあげたとして、どうするつもり?」


 もしも、彼らが古代文明の遺物が狙いだとすれば。

 一度彼らに渡しておいて、後で取り返しに行けばいいと、エレノアは考えた。

 そうすれば、一先ず三人の身の安全は保障される。


 どんなに大切な遺産でも、人の命には代えられない。





―――――「処分する。一つ残らず」


「……なんですって?」

「我々は、星外への進出する手段を排除するべく、それを可能とする装置を探し、その破壊を命じられている」

「エレノア・ルティーゼ。貴様については、色々と調べさせてもらった。特殊な混血で、その身にはが混ざっているらしいな」

「――――――」

「この星の秩序を保つために、異星との繋がりは一切絶たなければならない」

「よって、この三人を渡した後、貴様には投降してもらおう。もし仮に、貴様の存在が危険だと判断すれば、我々の方で監禁させてもらう。その代わり、此処にいる三名の安全は保障しよう」


 おそらく、この二人の刺客は剛尾の民ディラスだろう。

 この星に住まう種族の中で、最も戦闘に長けた種族だ。

 かつては、妖耳と剛尾による大規模な戦争により、星が灰燼に包まれたとされる。

 

 つまり―――――、戦っても勝ち目なんてない。













 だったら、全部諦めるのか?

 




「…………けんな」

「なんだと?」

「ふざけんなって―――――、言ってんのよ!!!」


 魂の籠った叫びを響かせて、エレノアは訴える。

 その右目は、いつかのように紅蓮に輝いており、まるで彼女の「憤怒いかり」を表しているかのようだった。


「全部渡せって? 全て排除するって? なんで、そんなことされなきゃならないのよ!」

「要求を拒むのか、であれば―――――」

「アンタらに、何がわかるって言うのよ!」


「あそこにある物全部、私の先祖が、ずっとずっと大切に守ってきた、私だけの宝物なんだ。ずっと、誰かに託したかった。ずっと、誰かに伝えたかった。ずっと―――――誰かに繋いでほしかった! そんな沢山の願いが、あそこには詰まってた。それを全て奪われて、全て壊されるぐらいなら―――――!」






―――――――今ここで、私を殺せばいい!



「貴様―――――、死ぬ気か?」

「全部アンタらに獲られれば、死んだようなもんよ! 私はもう、この夢を諦めないんだから!」


 エレノアは、持ち前のダガーを構えて、鋭い眼差しを刺客に向ける。


「来るなら来なさいよ、全部失って生きるぐらいなら、最後まで守って死んでやるわ!」

「―――――愚かな。これほどまでの阿呆だったとはな」

「兄上、此処は私が―――――」


 メディスを床に投げつけて、刺客の一人が前に出る。

 もう一人の刺客は、そのまま様子を窺うようで、一切動く気配がない。


「―――――!」

「心配するな、楽に殺してやる」


 このまま、何もしないで後悔するぐらいなら。

 最後まで自分らしく生きて、正々堂々と死んでやると、エレノアは誓う。


 もう―――――、未来なんて考えない。


 ただ、今この瞬間を、自分らしく――――――――。















「―――――――そこまでだ」


 一瞬、途轍もない気配が、全身に響き渡った。

 殺意や敵意ではない、ただ強大な「存在感」を、その場にいる全員が感じ取った。


「ボクの、ボクらのを―――――、キミたちに奪わせない」

「テラ?」


 テラ―――――、なのか。

 確かに、その言葉を発して、立ち上がっていたのはテラだ。


 ただ、明らかに何かが違った。

 これまで接してきた「どこか人間離れした何か」ではなく、まるで「自然の化身」を相手にしているような、そんな感覚だった。

 

 眼前に居る存在は、生物と呼ぶにはあまりにも強大に見えた。


「貴様――――、何故動ける?! あの麻酔針は、大型の爬虫類すらも失神させる――――!」

「―――――静かにしろ」


 刺客の一人が、思わずその場から後ずさりする。

 もう一人の方も、途轍もない気配を前に、自然と体を震わせていた。


「大丈夫だよ、エレノア」


 しかし、その声音と眼差しは、いつもの青年のものだった。


「キミはボクが守る、いつでも、どんな時も」

「―――――」

「だから、どうか頼む。最後まで、一緒に戦ってくれ」

「戦う、の?」

「嗚呼。そうしなければ、何もかも失う。そう言ったのは、キミだろ?」


 まるで、大気を纏っているかのような。

 

 まるで、植物と大地に覆われているかのような。


 まるで、生物としての最高地点に到達したかのような。


 今のテラからは、そんな印象を受ける。

 一体、彼の中で何が起こったのか。


「少々驚いたが、我々も此処で引く訳にはいかない。抵抗するなら、完膚なきまでに叩き潰すだけだ」

「兄上の言う通り。我等はもう―――――、戻れない」


 二人の剛尾。

 一人は男で、一人は女、そしてどうやら兄妹らしい。

 

 『二人』対『二人』の戦闘。

 先程のゴーレムとの戦いを考えれば、圧倒的に分が悪い。


 だけど―――――。


「テラ、勝算はあるの?」

「勿論さ。実は、さっきの君の雄姿を見て、今しがた思い出したんだ―――――」









―――――――ボクの『本来の力』を

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