家畜ヒモ野郎はヴァンパイアレディの夢を見ない⑧
「しかし……あれだな。お前って意外とノリが良い方だったんだな」
「……黙れ」
「いや、だってあれはさぁ……」
「それ以上口にするな。さもなくばお前の喉を潰してでも阻止するぞ」
「……マジトーンやめろ、怖ぇよ」
口を塞ぐとかなら分かるけど、喉を潰すとかシャレにならんから止めてくれ。実力行使レベルマックスじゃねーか。そんなのされたらしゃべれなくなる前に死ぬわ。
てか、相手の喉を潰して言葉を封じるとかさ、ファンタジー世界とかで用いる手段なんよ。魔法使いに対して詠唱阻止する方法としてさ。現実世界では禁じ手ですからね、絶対にやめましょうね。
「いいか。さっきのことは忘れろ。お互いの為にもな」
「まぁ……了解」
顔を真っ赤に染めながら、必死な形相を見せる九十九に対し、俺は不承不承ながら了承することにした。あんな反応をされてしまっては、これ以上からかうわけにはいかないだろう。
けど、忘れるっていうのは残念ながら無理だと思うよ。さっきの思い出、絶対にセフィロスばりにじっとしてくれないと思うぞ、あれ。 絶対にどこかで蘇ってくるって。
「んん……むにゃ……」
そんなことを考えていると、後部座席にて眠っているエリザが身じろぎをしながら小さく声を漏らす。起きたのかと思い視線を向けるが、どうやらそうではないらしく、相変わらず寝息を立てたままだった。
「……あれだけ騒いだり、盛り上がってたのに、それでもやっぱり目を覚まさないんだな」
普通なら目を覚ましてもおかしくないのに、本当に凄いと思うよ、この寝つきの良さは。俺だったら、絶対に目を覚ます自信しかないぜ。アーイ! バッチリ開眼! 俺! ってな。エナドリを補給することで闘魂ブーストになれるぜ。
「あぁ……エリザ様、申し訳ございません。本来なら一刻も早く、家まで送り届けなければならないというのに、私は……」
そして俺の隣では、助手席に座る九十九が申し訳なさそうにそう呟いていた。うん、まぁ、さっきまでノリノリで車の機能について解説してたもんな。まるでオタクばりの饒舌っぷりだったよ。
でも、九十九にもそういった可愛げがあるんだなって思うと、なんだか微笑ましくなってしまうよ。普段のクールビューティーな感じとは違って新鮮だし。あと、普通におもろい。真面目な奴がボケたら破壊力高いよね。
「まあまあ、別にそこまで気に病むことでも無いと思うぞ。エリザもこんなスヤスヤと寝てるわけだし、特に何かを言ったりはしないと思うぜ?」
「……諸悪の根源は、わがままを言い出したお前なのだがな」
「……ひゅー、ひゅひゅー」
「誤魔化せてないぞ」
とぼけるように視線を逸らし、下手くそな口笛を吹いていた俺だったが、九十九は容赦なく、鋭く睨みつけてくる。まぁ、なんてアウトレイジ的な目。久瀬拳王会の人かな?
「とにかく、これ以上ここで無駄に時間を浪費する訳にはいかない。早急にエリザ様を家までお連れするぞ」
そして九十九はそう言うと助手席から降りて、それから視線を俺へと移す。その瞳からは『さっさと降りて私と替われ』という無言の圧を感じた。
もう少しこのシートの感覚を堪能したかったのだが、仕方ない。という訳で俺は安全確認(これ大事)をした上で運転席のドアを開け、助手席側に回る為に外へ出た。
すると、俺と入れ替わりで九十九が運転席へ乗り込み、手馴れた手付きでエンジンを掛ける。再び車内全体に重低音が響き渡り、メーター類やモニターのライトが順々に点灯していった。
しかし、九十九のハンドルを持つ姿、メーターやモニターのライトに照らされる横顔、凛々しすぎて凄く絵になっとるな。イケメンすぎるだろ、こいつ。
「おい、何をしている。お前も早く乗れ」
「へっ? あ、あぁ」
ぼーっと見惚れていると、準備万端の九十九にそう声を掛けられてしまった。いかんいかん、俺としたことがうっかりしてたぜ。
「悪い悪い。すぐに乗るわ」
俺はそう言いながら助手席のドアを開き、車に乗り込む。……ここでもし、九十九が座ってた助手席のシート、あったかいナリぃ~とか言ってふざけようものなら、今度こそ本気で殺されるかもしれない。ここは自重しよう。
そしてシートベルトを締めた後、俺は顔を九十九の方に向け、サムズアップして準備が整ったことをアピールする。それを確認した九十九は小さく頷く。
「よし、では行くぞ。しっかりと掴まっておけよ」
その言葉と共にアクセルペダルが踏み込まれた瞬間、車は加速を始める。エンジンが唸りを上げ、スピードを増していき、風を切り裂いて突き進んでいく。
周りの景色は瞬く間に変化していき、速度は新たな境地へと達していく。高速を越え、光の速さを越えて、時間すらも置き去りにする速度で駆け抜け、やがて俺たちは地平線の彼方へ―――
「……なぁ」
「なんだ」
「ちなみにだけど、今って時速何キロ出てるの?」
「40キロだな。ちゃんと制限速度内だぞ」
「……なるほど」
はい、ごめんなさい。嘘を吐きました。さっき説明した感じのことは一切ありません。俺たちは現在、普通に法定速度と制限速度を厳守して走っております。
せっかくのスポーツカーなんだから、湾岸をミッドナイトしたり、掟破りの地元走りみたいな感じで、夜の街を爆走したかったんですけどねぇ。残念なことにそれは法律が許してくれませんので。
「どうした、浮かない顔をして」
「いや、なんていうか……もっとギリギリのレベルで、速く走るところを見たかったなーって」
「は? 何を馬鹿なことを言っているのだ。そんなことをすれば、エリザ様に危険が及ぶでは無いか。ふざけるのも大概にしろ」
うん、知ってた。てか、無理なのは分かってるから、マジレスしないでね。俺もそんな法を犯せなんて言わないからさ。ちょっとふざけただけだから。
「冗談だよ、冗談。ほら、運転に集中してくれ」
「……ふん」
不満げに鼻を鳴らしながらも、九十九は淡々と車を走らせていく。そして目的地であるエリザの家へと安全運転で向かっていくのだった。
******
「……見つけました」
社たちが去っていった風俗街の一角にて。遠ざかっていくスポーツカーのライトを見つめながら、一人の少女は静かに呟いた。
「……ずっと。ずーっと、心配してたんです。急にいなくなって、どこに行ったのかも分からなくて、私……すごく不安だったんですよ?」
風に靡かれながら、赤みがかった髪を揺らす彼女の表情は寂しげだった。瞳には薄っすらと涙が浮かんでおり、それが月明かりに照らされて煌めいていた。
「……でも、ようやく見つけることが出来ました。良かった、無事でいてくれて」
彼女は安堵するように胸を撫で下ろし、深くため息を吐く。その様子はまるで恋焦がれていた相手に出会えたかのような反応に見えた。
「もう絶対に、見失ったりしませんから」
呟くような声でそう言い放ち、少女は小さく笑った。その表情は可憐であり、どこか儚げで……そして悲愴に満ち溢れていた。
「ね、私の騎士様?」
その言葉と共に、少女の周りを風が吹き抜けていく。それは少女の長い髪を揺らし、前髪の隙間から覗かせた宝石の如き碧色の瞳を輝かせる。
そして風が止んだ頃にはすでに少女の姿はなく、ただ静寂のみが残されていたのだった。
******
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最後の少女の登場シーン、内山田教頭式の車のボンネットに落ちて
現れるプランも考えていたけど、結局はこういう形で落ち着きました。
さて、長くなりましたが、これにて2章が終了となります。
ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます。
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ヴァンパイア ♰ ラプソディ ~無邪気な銀髪ロリ美少女吸血鬼に血を吸われ続ける社畜の俺。気づいたら何故か彼女と同棲(軟禁)することになった件~ 八木崎(やぎさき) @yagisaki717
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