『ボク』の欠落を埋めたもの

非常に興味深い作品でした。

作者である笹慎さんの書く小説はいつも驚きと意外性満ちていると思っていましたが今作はとびっきりの問題作であるように思います。

読了後の「なんだこの感情」「自分は何を思った?」と恐ろしくなる、とても「面白かった」なんて言葉では言い表せない読後感がありました。

題材が反道徳的だからでしょうか? 違う気がしますね。

結末まで読んだとき、作中のある少年の境遇を『かわいそう』とは思えませんでした。それどころか『よかったね』と思い、また『美しいまま永遠に、完全になれたね』『彼の願いもかなえられたね』とすら思えました。

物語の中でシリアルキラー、スケアクロウは何も感じない少年に足らないのは「かわいそう」だと考え、少年が望みを得た瞬間に命を奪いました。それは、自分の思想を相手に押し付けるただ身勝手なものでした。
一方、からっぽの少年は、死ぬ事を最初から許容しきっており、美術館に行きたいという願いすらも、

>ブリキの木こり役のボクは早く心を手に入れないといけない。
>ちゃんと欠けているものを見つけないと。彼のために。

とあるように、彼の望みを受けての事でした。

かくして、からっぽの少年は剥製となり、スケアクロウは最後の作品を作りあげ自死しました。

残ったのはロダンの彫刻を見つめる永遠になった少年。彼の望みもまたかなえられたのです。すべては収まる所に収まりハッピーエンド。

『彼』の母親はまぁ、ですが。

この話が、完全無欠のハッピーエンドと感じるように書ける作者のセンスが恐ろしい。

少年の剥製、実際にあったら、かなり見てみたい気分になりました。倫理的には間違っているはずの剥製。見れば『良かったね』と思えてしまう気がしてなりません。

すごい。