作品名「かわいそうな子」

笹 慎

第1話

 ボクは色々あって、今はとある現代美術館で


『かわいそうな子』


 という作品タイトルで飾られている。


 来館者たちはボクの前で立ち止まり、ある者は胸を痛め、また憚られる嗜好のある者は股間を熱くしていた。


 確かに、思い返してみると、ボクの人生は「かわいそう」なのかもしれない。


 今までは比較対象がいなかったので、自分がことさら不幸だとは感じなかったが、幼い来館者が両親に連れられているのを見ると、初めて劣情というものを感じた。


 次のブースには、この美術館の目玉であるロダンの彫刻が展示されている。ボクを見て「かわいそう」と思った後で、人々は本物の芸術に触れるわけだ。


 確かに、ボクは「かわいそう」だな。ロダンの前菜なんだから。


 ふと。ボクを最初に「かわいそう」と言った男性ひとのことを思い出す。


 あの男性ひとは今どこで何をしているのだろうか。


 ボクの身体が保護用の樹脂ではなくて、まだちゃんと血液と水で満たされていた頃のことを、ぼんやりと回顧し始めた。

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