第6話【リメイク・ザ・イルミネーション】

 イルミネーションを見ると、冬が来たんだなって感じる。街を飾る寒色系の光を見てもそう思うし、家々で楽しんでいる温かい灯りを見てもそう思った。クリスマスに沸く世の中を割とサバサバしながら眺めていた私は、この光景にワクワクするとか素敵だとかいう感情を持っていなかった。ここの電気代は気にしないんだなとか、冬は電力需給率が低いから槍玉に上がらないんだなとか感じてしまう。

 もしかしたらそんな感情は、やり込み癖のある自分へのブレーキだったのかもしれないと、パン屋さんのバイトになって思った。

「ヤマノさんが戻ってきてくれて助かったわ。でも病み上がりだからあんまり無理はしないでね」

 インフルから戻ってきた私に、店長は優しい言葉をくれた。ですが店長、私をクリスマス飾りの担当に再任命したってことは、そういうことですよね。

 商店街のパン屋さん「ブーランジェリー・ジュワユーズ」の簡素なイルミネーションは、私が休んでいる間に飾り付けが終わっていた。その時点ではいつも店長から振られる面倒な仕事を回避できてラッキーぐらいに思っていた。「バイト募集」の貼り紙以来、いつの間にか筆耕係にされていたこともあり、雑用の指令には敏感になっている。

 休んでしまった負い目を感じつつ、万全の体調になった私は、年末に向けて、さあやるぞ! という気持ちでお店に出勤した。

 久しぶりのバイト先、商店街の角を曲がって、いざ店の外観を一目みると、飾られたイルミネーションの「これじゃない感」に気づいてしまった。店の前でほんの一瞬、ほんの一瞬だけフリーズしただけなのに、店長は私のその仕草を見逃してはくれなかった。

 私の姿を認めた店長は、店の奥から外に飛び出してきて休み明けの私に静かに言った。

「さすがヤマノさん、わかってしまったみたいね」

 クリスマスの飾り付けなんて、イルミネーションなんて、自ら買って出るような人生じゃないと思ってた。でも自分がいる店が、ダサい外観をしているのがこんなに嫌なものだとは思っていなかった。別にやってくれた人たちを責める気はないけど、もうちょっとやりようがあるだろうという気がする。私と店長はすぐに緊急ミニ会議を開き、問題点を洗い出した。

 その矢先の「あんまり無理しないでね」だからあまり説得力はない。

 いざやり直すとイルミネーションの奥深さがわかってくる。ライトの配色から付ける角度、ツリーならどれくらい幅を空ければいいか、調整しては離れて確認を繰り返す。ガーランドのたるませ方にも気を配る。「MERRY」と「CHRISTMAS」の間隔はどうか、白い綿だってちゃんと雪が積もってる風にしなきゃほら。・・・やばい、楽しくなってきた。

 脚立を使って店内の装飾もやり直すと、冬なのにひと汗かいてしまった。まったく、病み上がりには堪えるぜ。出来上がりを見ると妙な達成感がある。

「やっぱりヤマノさんに任せて正解だったわ。来年もよろしくね」

 バックヤードに戻ると店長がコーヒーを入れてくれていた。お茶菓子はお店で出しているスイーツの切れ端だ。

「あ、はい、もちろん…」

 何故か息を切らしていた私は、答えてからコーヒーをグイと飲んだ。

 あれ? いつの間にか来年もここにいることになってる。…ま、いっか。

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パン屋のバイトのヤマノさん 与太ガラス @isop-yotagaras

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