第5話【療養中のおともに】

 ピピピ、ピピピ。音が鳴って体温計を引き抜くとデジタル表示は37.3℃。

「うーん微熱だ」

 体に怠さはあるものの、平気で動けるレベル。さりとてこのご時世で、ましてやパン屋さん、食品を扱うお店だ。休むしかない…か。欠勤が収入に直結するのがパートタイムアルバイターの苦しいところだ。

 店長に連絡を…。だいぶ早い時間だな。電話で起こすのも申し訳ない。欠勤時の連絡ってすごく気を遣うな。まずはメッセージ送って、いつもの朝礼の前ぐらいに電話してみるか。

 メッセージを送って1分も経たないうちに返信が来た。

『ヤマノさん!』『大丈夫?』『一人暮らしよね?』『食べ物あるの?』

 うはっ。店長から怒涛のお母さんラッシュが繰り出される。起きてたんスか。あ、パン屋さんだもんな。

『微熱なんで、大丈夫です。ご心配おかけします』

『動けるなら病院行きなさいね』『この時期インフルも大変なんだから』

 動物病院なんか行かないって。インフレは政府がなんとかするやつでしょ。店長こんなときにボケてこないで…ってあれ? 店長がそんなこと書いてくるわけ…?

 あ、これ、熱上がってるな…。

 街が動き出す時間になったらなんとか起き出して病院に向かった。病院に着いたときには悪寒がひどくなっていて、歩くのもやっとだった。39.3℃ 。診断はインフルエンザだった。

 病院からの帰り道、商店街を通り過ぎると、後ろから呼び止められた。

「ヤマノさん、全然大丈夫じゃないじゃない」

 わ、店長。ジャナイジャナイは陽気すぎるよ。なんか私、お笑い感度も上がってるな。違うか。

「店長、ご心配おかけしてます」

 お互いマスクはしている。

「あ、とぉ、インフル、でした」

 合ってるよな。インフレって言ってないよな。

「ほら、ちゃんと病院行って良かったでしょ。よくなるまでしっかり休みなさい。年末にはしっかり働いてもらうんだから」

 そのお心遣い、痛み入ります。

「あ、それとこれ、お店終わったらあなたのお家に行って渡そうと思ったんだけど、いま会えてよかったわ」

 店長の手にはレジ袋。中にはどっさりレトルトのお粥が入っていた。

「そこはパンじゃないんですね」

「弱ってるときは消化にいいお粥が一番。こんなときにパンなんか勧めたらパンを売る資格ないわよ」

 さすが店長、リアリスト。推せるわー。

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