【短編小説】光と影の禅堂　―影を見る黒猫―（約6,700字）

「色即是空、空即是色――」

　古刹・昂源院に棲む一匹の黒猫がいる。
　開山以来五百年、代々の僧侶たちの生死を見守り続けてきた不思議な存在。
　人の言葉を理解し、死の予兆を見通すその瞳は、今、若き尼僧・月輪詠子の周りに漂う黒い影を捉えていた。
　親友である円庭咲夜との深い絆、迫り来る運命、そして悟りへの道程――。
　生と死、光と影が交錯する禅寺で、一匹の黒猫が見守る魂の遍歴が始まる。
　量子物理学と仏教思想が交わる現代の寺院を舞台に、永遠の時を生きる者の視点から描かれる、幻想と現実が溶け合う魂の物語。
　あなたの中の影に、この物語は何を映すのか。