最悪の上塗り
四
授業が終わる度に、渡良瀬川知美を中心とした女子グループは、私に対して嫌がらせを仕掛けてきた。
勿論、大人である私は、彼女達を相手にしなかった。同じ土俵に上がるのは、彼女達と同じレベルまで自分を貶めることになる――そう思ったからだ。
だが、それがよくなかったのだろう。
私の反応が気に食わなかったのか、彼女達の嫌がらせは、回数を重ねる度により過激に、より陰湿になっていった。
「なんで……なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないのよ……!」
学校の帰り道。私はビシャビシャに濡らされたスニーカーで歩いていた。
「渡良瀬川知美……あのクソガキ……絶対に痛い目見せてやる……!」
渡良瀬川知美に対する怒りを呪詛のように呟きながら歩いていると、突然横から「こんばんは」という柔和な男性の声が聞こえて来た。
顔を上げ、声のした方を確認すると、そこにいたのは優しそうな、眼鏡を掛けた青年だった。
年齢は二十代前半くらいだろう。僅かに茶色く染められた髪は軽いパーマが掛けられており、耳には銀色のピアスが着けられている。雰囲気といい、着ているジャケットといい、いかにも遊んでそうなインテリ大学生といった感じだ。
「……何か用ですか?」
「いや、別に用って用はないんだけど、なんか凄い辛そうな顔をしてたから、つい」
「辛そうな顔? 私が? もしそうなら、眼鏡の度、合ってないんじゃないですか?」
イライラしていた私は、そう言って青年を振り払おうとした――のだが、青年が私の右肩に手をやったことで阻まれてしまった。
「離してください。警察呼びますよ?」
私が警告すると、何故か青年はニヤリと笑った。
「良い目だ。気に入ったよ。今回は君にしよう」
「は?」
何言ってんだこいつは?
そう思った次の瞬間、バチンという音と衝撃が身体を駆け抜け、私の視界は真っ暗になった――
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時獄の沙汰も時次第〜時は金なりとは言いますが〜 千秋亭楽市 @sensyuteiraku1
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