第28話 モロキューの思惑
クロザワが目撃した「戦艦オッシュ」の登場は、単なるタイムスリップの結果ではなく、時空の歪みが生み出した異常事態だった。彼が立ち向かうべきは、ただの兵器ではなく、歴史を改変しうる巨大な力だった。それに直面したクロザワは、その兵器を止めるか、利用するかという決断を迫られることとなる。
この状況を前にして、クロザワの選択は容易ではなかった。もし兵器を破壊してしまえば、未来における戦争を終結させることができるかもしれない。しかし、それは同時に、目の前に広がる歴史の流れを一度きりのチャンスで覆す危険も孕んでいた。戦艦オッシュがもたらす力が、ただの歴史的アノマリーに過ぎない可能性もあれば、未来を揺るがす重大な役割を果たす可能性もあった。
クロザワが思案していると、突然、背後から冷徹な声が響いた。
「お前がその機械を止めることができると思っているのか?」
振り返ると、そこにはモロキューが立っていた。彼は過去と現在、そして未来を巧妙に操る男であり、その存在自体が時空を越えた謎のようなものだった。モロキューは自分の孫の復讐にこだわり、その復讐を全ての力を使って果たそうとした。
「君の意志を読み取った。君が迷っている間に、この兵器の力を利用する方法がある。私が協力しよう」
モロキューの提案は魅力的だった。彼が持つ情報と技術は、今やクロザワにとって不可欠な要素となりつつあった。だが、その裏には恐ろしいリスクが伴っていることをクロザワは感じ取っていた。
「君は何を求めている?」
クロザワが冷たく尋ねると、モロキューはにやりと笑って答えた。
「復讐を果たすことだ。そして、その力で世界を変えること」
クロザワは深く息を吐きながら、心の中で選択を繰り返す。彼の前に広がるのは、過去と未来を繋げる無限の可能性だ。それにどう向き合うかが、彼の運命を決定づける。
クロザワはモロキューの言葉をしばらく黙って聞いた後、深いため息をついた。その場の空気が一瞬にして重くなる。モロキューの目は鋭く、だがどこか狂気を孕んだ光を放っていた。彼の背後に立っている戦艦オッシュが、巨大な陰のようにクロザワを圧倒する。
「復讐か」クロザワはつぶやくように言った。「君が言う『復讐』って、ただの個人的な感情に過ぎないんじゃないか?君の孫がパワハラに苦しんでいることに、戦艦を使う正当性がどこにある?」
モロキューの笑みが一瞬消え、目の前のクロザワに冷徹な視線を向けた。彼の表情が歪むと、いっそうその不気味さが際立つ。
「君はわかっていない。孫が受けたパワハラ、それは単なる一例に過ぎない」モロキューは語気を強めた。「後醍醐工業という派遣会社では、上司の圧力や権力に屈せざるを得ない状況が続いている。だが、それは氷山の一角に過ぎないんだ。これからの世界は、どこにでもこのような不正と圧制が蔓延する。私が戦艦オッシュを使うことで、全てを変えることができる。世界を、未来を」
クロザワはその言葉に一瞬耳を傾け、そしてふと足元の戦艦を見つめた。モロキューが言う通り、戦艦オッシュの力を借りることで、彼が目指す世界を変えることができるのかもしれない。しかし、それには代償が伴うことも、彼は十分に理解していた。
「君の目的が正義だと思っているのか?」クロザワは再び冷徹に尋ねた。「それにしても、君の復讐心は、どこまで人々を巻き込むつもりだ?戦艦オッシュを使えば、君の孫だけでなく、無数の命が犠牲になるかもしれない」
モロキューの顔が歪み、怒りを露わにする。「君はまだ理解していない!私の孫は、後醍醐工業で無理に我慢を強いられ、精神的に壊れていった。私はそれを許すことができない。私の力で、その無力な人間たちを救い、復讐を遂げる。これが私の使命だ!」
クロザワは目を閉じ、深く考える。モロキューが言うように、彼の孫のような弱者がどれほど酷い目に遭っているか、実際には痛いほどわかっている。しかし、目の前にある兵器、そしてその利用による未来の変動が引き起こす可能性は、単なる復讐の枠を超えたものだった。
「君が戦艦オッシュを使えば、歴史そのものを変えることができる。未来の戦争を終わらせるために」クロザワは低い声で言った。「でも、それにはリスクがつきものだ。君の孫の復讐にすぎないものが、世界を終わらせる力を持つかもしれないんだ」
モロキューはしばらく黙っていたが、やがて冷静に口を開いた。「確かにリスクはある。しかし、君もわかっているだろう。今のままでは、この世界の不平等や理不尽は終わらない。力こそが、全てを解決する唯一の方法だと」
クロザワはその言葉に反論しなかった。ただ、深く息を吸って、再び戦艦オッシュの方を見た。それが一時的な力の象徴であり、また同時に、世界の歴史を破壊しかねない爆弾でもあることを、彼は心の中で知っていた。
「君の復讐心を満たすために、この力を使ってしまえば、後戻りはできない」クロザワは静かに言った。
モロキューの目が輝き、今度は少し柔らかな笑みを浮かべた。「それでこそだ、クロザワ。君もわかっているだろう。戦艦オッシュの力を使えば、この世界を根本から変えることができる」
クロザワはしばらく無言で立ち尽くしていた。背後の戦艦オッシュが微かに揺れ、その巨体が歴史の歪みを象徴するかのように輝いていた。彼が選ぶべき道は、もはや単なる復讐や戦争の終結ではない。時空を越えた選択、そしてその先に待つ無数の未来を決めることなのだ。
「君の言う通り、歴史を変える力を持っている」クロザワはついに口を開いた。「だが、その力を使うには、俺の覚悟も必要だ」
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