第6話 道の駅クエスト: 伊織とモンスター

 伊藤沙莉に似た伊織は、大学生活に少し飽きが来ていた。講義が終わると、友達とのランチやカフェ巡りが日常となり、特に新しいことに挑戦するわけでもなく、なんとなく過ごしていた。そんな時、SNSで「道の駅クエスト」という位置情報ゲームの広告を見かけ、面白そうだと思って試しにダウンロードした。


 道の駅クエストは、全国の道の駅を巡って特産品を集め、クエストをクリアしていくゲームだ。伊織は、普段の生活にちょっとした刺激を求めていたため、すぐにそのゲームにハマっていった。ゲーム内で訪れるべき「道の駅」をリストアップし、次々とクリアしていく中で、少しずつ全国各地にある道の駅の存在に魅力を感じるようになった。


 ある週末、伊織は友達に誘われて、ゲームでポイントを稼ぐために茨城県、栃木県を巡ることに決めた。彼女は、神崎、思川、常総という道の駅を訪れることにして、朝早くから車を出した。


 神崎: 予期せぬ出会い


 最初の目的地は、神崎にある「道の駅 神崎」。伊織はゲームの画面を見ながら運転し、着いた頃にはすでに昼過ぎだった。道の駅には、地元の新鮮な野菜や特産品が並び、観光客もちらほらと訪れている様子だった。ゲーム内でも「神崎の名産品」が手に入るというクエストが出ていたので、早速アイテムを探し始めた。


 その時、彼女のスマホに通知が入る。「新たなエピッククエスト発生!神崎の道の駅で出会うモンスターを倒せ!」


「モンスター?」伊織は思わずスマホの画面を確認した。ゲーム内でモンスターといえば、プレイヤー同士が競って倒すようなイベントだが、実際の道の駅にはそんなものはないはずだ。だが、ゲーム内の指示に従って、彼女は道の駅内を歩き回り、地元の名産品を求めていると、ひときわ目を引く奇妙な店があった。


 その店の前には、「妖怪ビンゴ」と書かれた旗がひらひらと揺れていた。店の中に入ると、ガラスケースに入った様々な形をした怪しい置物や、古びたお札が並んでいた。店主は不気味な笑顔を浮かべながら、「この道の駅に伝わるモンスターに興味はありませんか?」と声をかけてきた。


 伊織は戸惑いながらも、「モンスター?」と尋ねると、店主は「そう、モンスター。あなたが倒せるか、挑戦してみますか?」と続けた。


 ゲームのクエストに従って、伊織は一か八かでその店主が勧める「妖怪ビンゴ」を試すことにした。店主が差し出したビンゴカードには、「神崎のモンスターを倒せ」や「隠された宝を見つけろ」などの指示が書かれていた。ゲームの仕様とリンクしているように感じた伊織は、興味を引かれ、そのままビンゴを進めることにした。


 思川: 不気味な現象


 次に向かったのは、思川の道の駅。伊織はその後、車を走らせ、次の目的地に到着した。思川の道の駅では、いくつかの地元特産品が並んでおり、観光客も賑わっていた。しかし、ゲームのクエストの指示に従うと、またしても「モンスター」との遭遇が待っていた。


 スマホに表示されたメッセージ:「思川の道の駅近くに現れるモンスターを倒せ」


 伊織は驚いたが、彼女の好奇心は抑えきれなかった。道の駅を歩き回っていると、突然、空気が重く感じられ、周囲が薄暗くなった。奇妙な音が聞こえてきて、伊織はその音の方向に足を向けた。草むらの中から現れたのは、見たこともない巨大な影だった。


 それは、まるで伝説の「化け物」のような姿をしており、伊織は一瞬、目を疑った。だが、ゲームの画面には「モンスターに遭遇しました!戦闘開始!」というメッセージが表示された。伊織は心臓がドキドキしながらも、すぐにスマホを取り出し、ゲーム内の指示に従ってモンスターを倒し始めた。


 モンスターはゲーム内で選ばれたアイテムを使って攻撃してくるが、現実世界では伊織が見たものはただの幻影のようなものだった。どうやらこのゲームは、現実とゲームがリンクして、まるで現実世界にモンスターが現れたかのように錯覚させる仕掛けが施されていたようだった。


 常総: 予想外の結末


 最後に訪れたのは、常総の道の駅。ここでもまた、ゲーム内で「モンスター」を倒すクエストが発生した。しかし、伊織が道の駅に到着した瞬間、彼女のスマホに「危険です、すぐにゲームを終了してください」という警告が表示された。


 伊織は急いでゲームを終了しようとしたが、スマホの画面がフリーズしてしまい、突然異常な現象が起こった。スマホから異様な音が鳴り響き、画面が真っ白になり、周囲の景色も歪んでいく。


 その瞬間、伊織はようやく気づいた。この「道の駅クエスト」は、ただの位置情報ゲームではなかったのだ。ゲームの中のモンスターは、単なるバーチャルなものではなく、現実世界に何かしらの影響を及ぼす力を持っていた。伊織は恐怖を感じつつも、ゲームを再起動し、無事にゲームの世界から抜け出すことができた。


 ゲームを終了した後、伊織は振り返ってみると、道の駅には何も変わらず、普通の風景が広がっていた。だが、彼女の心の中には、あのモンスターや不気味な現象が今でも鮮明に残っていた。


「このゲーム、ただの遊びじゃないかもしれない」と伊織は思った。その後、彼女はしばらく道の駅クエストから離れることにしたが、心のどこかであのモンスターが再び現れるのではないかという不安を抱え続けていた。


 道の駅クエストは、ただの位置情報ゲームではなかった。伊織は、その背後に隠された謎に、少しだけ触れてしまったのだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る