第7話 クライムファイト: 埼玉戦記
埼玉県、午後の晴れた空の下。
「よし、始めるか」
彼の心には不安と期待が入り混じっていた。これはただのゲームじゃない。街を巡り、実際の人間と戦い、その力を吸収することで、自分を強化していくゲームだ。龍造寺は、昔から格闘技の才能があり、腕っぷしに自信があった。しかし、このゲームが現実世界と連動しているとなると、話は別だ。
画面には、彼の現在位置が表示されていた。最初に目指すべき場所として、近くの公園がマークされている。龍造寺は、迷わずその場所に向かって歩き始めた。
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公園に到着した龍造寺は、広い芝生の上に立つ一人の男を見つけた。その男は、ゲーム内のプロフィールに『クライムファイター No.1』と表示されている。龍造寺はすぐにその男に近づき、声をかけた。
「おい、やるか?」
男は無言で頷き、構えを取った。その瞬間、周囲の風景が一変した。視界がぼんやりとモヤがかかり、街の喧騒が消えていく。彼らは今、ゲーム内の戦闘エリアにいるのだ。
「来い」男が低い声で言った。
龍造寺は体を低く構え、素早く突進。男はそれを受け止めることなく、軽やかにかわしてから反撃に転じる。次の瞬間、鋭い蹴りが龍造寺の顔をかすめた。彼はその攻撃をギリギリで避け、素早く間合いを取る。
「やるな、だが……」
龍造寺は気合を入れて再び攻撃に転じた。今度は男の動きを読む余裕ができていた。数分間の激しい打ち合いの末、ついに龍造寺が一撃を決める。男が後ろに倒れ込み、戦闘が終了した。
「ふん、意外とやるじゃないか」男が地面から立ち上がりながら言った。その瞬間、画面に新しいメッセージが表示された。
「新しい技「雷撃蹴り」を習得しました」
「新しい武器「鉄パイプ」を獲得しました」
「新しい魔法「風の刃」を覚えました」
龍造寺は笑みを浮かべながら、もう一度男を見た。「ありがとう、いい戦いだった」
男はただ無言で頷き、姿を消した。
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次に向かう場所は、近くの廃墟。かつて工場だった場所だ。龍造寺はスマートフォンの地図を見ながら、暗くひっそりとした通りを歩いていった。周囲は静まり返り、まるで時間が止まったかのようだった。
廃墟に足を踏み入れた途端、空気が変わった。空間が重く感じられ、遠くから不気味な音が響いてくる。突然、建物の影から現れたのは、黒いジャケットを羽織った男だった。
「クライムファイトに挑戦するのは、お前か?」
その男の目は冷たい光を放っていた。龍造寺は構えを取る。
「お前こそ、何者だ?」
「俺はこの場所の守護者だ。倒すことができたら、次のレベルに進める」男は挑発的に笑いながら言った。
戦闘が始まると、相手は予想以上に手強かった。廃墟の不安定な地面を利用して、男は瞬時に龍造寺を引き寄せ、強烈な打撃を加えてきた。だが、龍造寺は一度だけその攻撃を受け、すぐに反撃。技と力を駆使し、男を倒すことに成功した。
「新しい魔法「闇の波動」を習得しました」
「新しい武器「鋼のナイフ」を獲得しました」
画面に新しいアイテムとスキルが追加される。龍造寺は肩で息をしながら、戦いを終えたことを実感した。
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その夜、龍造寺は自室でゲームの進行状況を確認していた。次の目的地は、さらに危険な場所、埼玉県内で最も荒れたエリア「廃村」だった。ゲーム内で得た新しい技や武器が増えるたびに、彼の力も増していく。しかし、同時にその力を求める者たちも増えていく。
「次はどんな戦いが待っているんだろうな……」
龍造寺は呟きながら、スマートフォンを握りしめた。その手には、これまでに得た力を象徴する数々のアイテムが光っていた。
だが、彼の心の奥底で、ひとつの疑念が湧き上がる。このゲームに隠された真の目的は何か、そして、彼はどこまで進むべきなのか──。
その答えを知る者は、まだ誰もいなかった。
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続く
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