第12話 彼の微笑み

 静かな夜の西浦和の街。月明かりが窓から差し込むアパートの一室で、カズキとユウナはソファに寄り添いながら笑い合っていた。彼らはお互いに、誰よりも愛し合っていると信じて疑わなかった。周りの目など気にせず、二人だけの世界に浸っていた。


「ユウナ、君といると、本当に楽しいよ」

 カズキが笑いながら言った。

 ユウナはその言葉に甘えたように微笑んだ。「私も、カズキがいれば何も怖くない」

 だが、その微笑みの裏に、二人の運命を変える者が潜んでいた。


 カズキの携帯電話が突然鳴り響く。表示された番号は見覚えがない。彼は一瞬ためらいながらも、電話を取った。


「もしもし?」彼の声に、少しの不安が混じる。

「お前、ユウナと一緒にいるんだろ?」

 電話の向こうから低い声が響く。

 カズキの心臓が一瞬で跳ね上がる。「誰だ、お前は」

「いいから、今すぐユウナを放って一人で出てこい。お前の命は、あと10分が限界だ」


 カズキは電話を握り締めたまま、ユウナに目を向けた。ユウナは心配そうに彼を見つめている。カズキは冷静さを取り戻そうと深呼吸した。


「誰だ? 何を言っているんだ?」カズキは問い詰めた。

 だが、答えはなかった。ただ、電話越しに響く無音の中、次第に息が荒くなっていく。カズキは電話を切り、すぐに立ち上がった。

「ユウナ、ちょっと待ってて。」

「カズキ、何が起きているの? 怖い…」

 ユウナが心配そうに言ったその時、窓の外から見えた影に、カズキの目は瞬時に引き寄せられた。

「…誰だ?」彼の声は震えていた。


 そこに立っていたのは、冷徹な表情を浮かべた男だった。黒いスーツを着て、手に持つナイフを月光に反射させながら歩み寄ってきている。

 男の目は無表情でありながら、その瞳の奥に深い闇を感じさせた。彼の名前はダイスケ。冷徹なサイコパスであり、彼の遊び相手として選ばれたのは、カズキとユウナの二人だった。


「お前たち、こんなにも幸せそうだな。でも、俺のゲームには参加しなきゃならない」

 ダイスケの口元がゆっくりと引き締まる。

 カズキはユウナを守ろうと必死で立ち向かおうとするが、ダイスケの冷静な態度とその圧倒的な存在感に圧倒され、動けなくなってしまう。


 ユウナが恐怖で震えながら呟く。「お願い、カズキ…お願い、守って」

 その言葉に、カズキは必死に拳を握りしめたが、ダイスケは一歩踏み出し、あっという間に距離を詰めてきた。

「怖がらないで」ダイスケは無表情で言った。「君たちの命は、俺が決める」


 カズキは怒りと恐怖で動けなくなった。しかし、その時、ダイスケの顔に微かな笑みが浮かんだ。それは、まるでゲームの始まりを告げるかのような、冷ややかな微笑みだった。



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