水晶玉の門番
「ァァァァァァァァァァァァ!!」
動け! 動け! 動け!
走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ!
「ったあ!」
振り下ろされる死を、触れる直前で回避した。抱え込んだサルを背中に乗せ、立ち上がる。
地面に思いっきりスライディングしたからか、右肩を擦っている。痛い。
ただ、今はそれどころでは無い。
「……何だよコイツ!?」
左腕に魔素を込める。『コード』を使うんだ。極限下にいるからか、ラットは一発で出現した。
「『絡め取れ、憎しみの怨嗟よ』!」
トビが教えてくれた言葉を呟く。
それに合わせてラットが疼き、力へと変化していく。左手をかざす。機械の拳が振り下ろされる。
(間に合わない!)
咄嗟に横へと飛んだのは正解だった。
拳の跡を見れば一目瞭然。人1人がすっぽりと埋まる大きさのクレーターが生まれていたのだから。
(あ……あれ当たったら……死ぬ!)
勝てない。その四文字をようやく理解できた。
ただ、だからと言ってどうする?
出口は機械が完全に封鎖している。
外に出るなら奴の足元を潜り抜けるしか無い。
ただ、それができるのか?
(いや、やるしかない!)
サルはまだ息がある。弱々しいが、まだ死んで無い。意識も失ってる。でも、脈はある。
ポロポロと、小雨のように岩の粒が欠け落ちた。そこから漏れ落ちた光に、赤く光る水晶玉が視界を微かに照らす。
(完全詠唱まで約10秒。アレが全力で攻撃してきて、躱しながらコードに集中しろって?)
ふざけている。
異常な難易度だ。子供も大人も関係ない。
たった10秒を稼ぐ為に、何をすればいい?
『───────────』
機械の怪物は身体の至る所から蒸気を出してその身体を赤く膨張させている。
出口までの微かにあった隙間が無くなってしまった。
(逃げる、はダメ。倒すしか……無い)
こんな時、トビならどうした?
仰向けになったサルを見て、更に絶望は加速する。
「未開なる其よ、我が傀儡の怨叉となれ」
一つ。
「親愛なる我が神よ、其を拓く導きを示せ」
二つ。
「純粋なる目よ、その真意を確かめろ」
三つ。
緑色の光に自信を持たせる。自我を失わぬように覚悟を胸に。
「ォォォォォォォ!!」
左手が熱い。今なら使える。
「行くぞ!」
『───────────!!』
水晶玉がギロリと覗く。
古びた摩擦音が鳴り響く。鉄パイプだろうか。筒状のそれからボクを怨む声が聞こえた。
ボクの走り出した同時、怪物は腕を伸ばした。
その腕は鉄筋でできており、その周りを環状コイルがコーティングしている。
「うぉぉああ!」
転げそうになった。
振り下ろされる拳にボクは怯むことはない。
落ち着いて左手を当てる。
その瞬間、舞う埃と共に左手に激痛が走った。
「!?」
視界が塞がれる。岩埃は全身を小さく痛めつけて世界をプレゼントした。
広がる世界。苦悶の表情の中、ボクの口角は上がっていた。
「へ、へ、へへ。は!」
敵の腕が、バラバラに分解されていた。
神さまが転生させてくれるって言ったので全力で応えてやりました 讃岐うどん @avocado77
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