概要
森が焼かれ死んだ人間たちの傍に大きな獣が座っていた。
獣はいつも下界を見下ろしてはいいなあと呟いた。あのキラキラ光るものが欲しいなあ、ときどき風に乗ってくる旨そうな匂いも。朝から晩まで森の一番高い木に登ってはぼうっと眺めていた。ある晴れた晩、森の中へ人間が入ってきた。男と女のつがいのようで仲睦まじそうに体を寄せ合っている。おれは一人だけどあいつらはいいなあ、少し羨ましくなって手の届く木の枝をゆすってやった。大きな音を立てて木々がこすれ、人間たちはひいと声を上げて辺りを見回した。だれだ、だれかいるのか。男のほうが叫んでいる。きゃあと女は体を縮めている。少し面白くなって木の枝を折り人間たちへ放り投げた。ざくっと地面に枝が刺さり人間はいやあと声を上げて森を駆け出して行く。なんだあ、つまらんなあ。人間の後姿を見ながら鼻を鳴らして高い木のうえに登っていった。