違う街の図書館の本
雛形 絢尊
東京→
あまり仲良くない友人の彼と
連絡がつかなくなってしまった。
特に悪い別れ方ではなかったが、
彼は一向に返事を寄越さない。
数日前に私の自宅に招き、談笑をした。
呑み食いしたのちに彼は一晩うちに泊まった。
その果てに彼は一冊の本を
うちに忘れていった。
しかもだ、しかも図書館で借りたものを。
飛んだ災難だ。私も図書館に借りには行く。
しかしながら市内であることが必須である。
他の町で借りる考えなんて毛頭ない。
そのうえ寝相が悪いったらありゃしない。
高校が一緒だっただけで
たまたま駅で会ったのだ。
それを口実に私の家で飲むことになった。
彼は地元を離れ、
どこで衣食住をしているのか?
地元と言ってもそれほど離れてはいない。
彼はどこにいる?どこに住んでいる?
恐る恐るその本を開いた。
あー、これたまげた。
この本の住所は島根、出雲の方だ。
おいおいおいおい、勘弁してくれ。
なぜ東京の街に出雲の本がある。
そうだ、あれだ。
図書館配達サービス、あれは市内だけか。
いや、たまげた。どうすればいい?
私は気が動転しているのか。
見間違えか?目を擦り再び目を向ける。
やはり島根県出雲市。
生憎この土曜日初日、今週は三連休だ。
そのうえ、有休消化で火曜日も休み。
旅行も久方行けていない。
いく?
いや待て待て待て、急すぎる。
急だ。急中の急だ。
手元にある本を見た。
一人旅、ふう。行こう。
私は東京駅からサンライズ出雲に乗った、
この本を横になりながら読み、
時に風景を眺めながら、12時間の旅に出た。
窮屈ではない、とてもいい空間だ。
途中の駅で、ウイスキーや村上春樹の本を
いくつか手に取った。我ながら有意義な時間を過ごしていると思った。念願だった
色んな観光地を素通りし、私は眠りについた。
翌朝、気がつけば岡山県に辿り着いた。
こんな日曜日の朝も清々しい。
そこで私のメールアプリに一つのメッセージが届いた。
「お父さんとお母さん、明日会えるかな」
しまった!ずっと先延ばししていたことだ。
どうする。しかも彼女に内緒で
出雲に行っている。
もしかするともしかしたら不倫を
疑われるかもしれない、
これは如何にしてこの出雲旅行を隠すのだ。
理由が理由だ。後で話せばわかる。
いやいやいやいや、問題はそうじゃない。
親御さんに顔を見せなければ。
よし、決めた。明日には朝に帰ろう。
本を返すだけ、(あと出雲大社
それで、東京に戻ろう。
私は車両が出雲方面に
向かっていることを確認し、
携帯の地図アプリで図書館を探す。
目的地を出雲の図書館で設定する。
ようやく地面に足をつけた。
ここが出雲か、
私は真っ先にその場所へ行く。
そう、図書館に。
自動ドアが開き、一目散に向かうは受付。
返却ですかと女性が言う。
はい、東京から返しに来ました!
違う街の図書館の本 雛形 絢尊 @kensonhina
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