人とあやかしだから割り切れない事、人とあやかしだからと言いきれない事

時は戦国時代。
妖山の領主である白澤家当主が、後継者を指名せずに死んだ。残るは未婚の姫のみ。
そこで選ばれたのが、国主の異母弟である剛厚(つよあつ)。彼は雪音姫を娶り、妖山の領主となることに。

「いや、しかし人間の妻など、可哀想です。我らは人食い鬼なのですぞ」

そう、国主たちは妖、それも人食い鬼なのだった。
『あやかし三箇条』で生きた人間は殺して食ってはいけないと取り決めているものの、理性が本能を抑えられるかはまた別だ。

ところが、その人間の妻というのも中々の曲者。妖がたむろう山で育った雪音姫は、剛厚を見て、
「最高ですわ」
「何て可愛らしいのでしょう」
と心中で呟くのであった。
しかし、雪音の心の底には、ある諦観があった。

ところで、剛厚には兄が二人いるが、少し確執がある。
国主である長兄とは母親同士がいがみ合い、次兄は母親が失踪したことで人食い鬼の血を憎んでいた。

一方であやかしが人間の子を育て、自身をあやかしだと定めたものもいる。

違う種がよき隣人として接する世の中でも、絶えず憎しみをいだく個としての存在。
弱き者でありながら、強き者の領分から搾取していく人間。あやかしとして人間に干渉されないよう、そして『あやかし三箇条』を破棄して生きたい者。
そんな中で、剛厚と雪音が、愛し愛される関係を築くことはできるのか。