第3話 生者の救済
「えっと、誰かな? それに、『幾らで俺のものになる』って、どういう意味?」
「
「そっか。それで僕の独り言を聞いたんだよね。何が望み? お金?」
「そうだな。俺は金が欲しい」
「じゃあ口止め料は百万でどう? 高校生には結構多めのお小遣いだと思うけど」
「へぇ、言いふらされたくないのか」
「うん。僕は優等生で通ってるからね」
しかし百万ね。
たとえそれがドルだとしても……
「全然足りないな」
「じゃあ今ここで死ぬかい? 幸いここはダンジョンだ。君一人死んだって、不思議がる人間はいないし、調査もされない」
「こっわ、けどそれでこそ……。なぁ、優等生の御曹司様がなんで探索者なんてやってる? お前の目的はなんだ?」
「どうしてそんなことを君に言う必要があるのかな?」
まぁ確かにそりゃそうか。
初対面の人間に自分の目的なんか普通語らない。
初めて喋って初めて関わった時、あの世界で俺はどうしたっけ。
あぁ、そうだった。
「〈
『アサシン』がスキルによって俺は自身の速度を強化する。
周囲を取り囲むアンデッドの群れへ飛び込み、その身体に手を添える。
「〈
プリーストのスキルは治癒術とかなり似ている。
対象にプラスの力を注ぎ込むことで傷を癒すその力は、マイナスの力で稼働するアンデッドを対象にした場合、その活力を奪い去る。
触れた箇所に白いエネルギーが注ぎ込まれたその瞬間、その部分の骨が一気に砕け散った。
さらに高速移動で敵の攻撃を掻い潜りながら、どんどんスケルトンに触れてその身体を砕いて行く。
アンデッドに対して特攻効果を持つ〈
それに触れるのは掌じゃなくてもいい。
その箇所からスキルを発動できるなら、膝でも肘でも指先でも頭突きでも問題ない。ただ触れることさえできれば、俺はアンデッドを一撃で倒せる。
「全身でスキルを……それに加速した状態であの身の熟し……何より、回復スキルで敵を倒すなんて」
「知らないのか? アンデッドは〈
「それは知ってる。でも、普通の『プリースト』はそんな接近戦闘をしない。それに、膝や肘に回復スキルを込めたり、接近戦闘中に連続的に身体のどこでそのスキルを使うかなんて取捨選択は普通できない」
まぁそうだ。
遠距離攻撃系の『ソーサラー』も動画で見た限りでは掌からしか炎や氷を飛ばすスキルを使ってなかった。
けど『プリースト』の〈
けれどほとんどの探索者がそうしないのは『集中力』と『慣れ』がないから。
それに近接戦闘をしたいなら『ウォリアー』をやればいい。
わざわざ『プリースト』や『ソーサラー』などの遠距離クラスを選んで近接戦闘しようとする奴なんて一般的じゃない。
それは分かる。
けど、この程度のことで驚いてもらってちゃ困るんだよ。
そう思っていると倒したスケルトンが白い靄を発生させ、それは上空へ抜けていく。
「なんだ?」
「あぁ……輪廻の輪より外れし哀れな子羊たちよ、その魂が主の光輝へと帰還できんことを願いましょう」
俺は引導僧ではないから簡易的ではあるが、両手を胸の前で組み祈祷を済ませる。
それにこれは日本語に直してはいるが異世界のやり方で、ここに出るアンデッドに意味があるのかは分からない。
それでも最早これは俺の記憶にこびりついたクセであり、習慣だ。
周囲にはもうスケルトンは一体も残っていない。
静かにしていればこれ以上湧くことは、本来ならないだろうが……
もう俺は治癒術を使えないはずなのに、感覚的に分かってしまう。
まだここには、葬送を願う魂が存在していると……
グラグラと大地が揺れる。
俺たちの前方が大きく盛り上がり、一際巨大なアンデッドがその姿を現す。
妖怪『がしゃどくろ』を彷彿とさせるその姿。
俺が元いた異世界で言えば『ジャイアントスケルトン』に酷似している。
体長五メートル強。上半身しか土の上にでていないのにこのサイズだ。
完全に土から起き上がれば歩くだけで人を殺せる化け物になる。
サイズ以外の見た目は他のスケルトンとほとんど変わらないが、左手の薬指に印象的な指輪を嵌めている。
死者は生者の声を嫌う。
それは俗世を捨て、未練を消し去り、成仏を果たすため。
だが、俺が大量のアンデッドを〈
「なぁ西園寺……俺は金が欲しい」
「危ない!」
成仏を願っていたとしても魔獣の性を捨てられる訳じゃない。
生者を羨み憎むその心は、理屈でどうにかなるものじゃない。
「〈
六角形の青い半透明の板が、俺の頭上に出現し振り下ろされた腕を遮る。
しかし、その結界も叩き付けの威力を殺し切れずにヒビが入り、割れる。
だからもう一枚、いやもう三枚追加した。
「同一スキルの、多重発動……」
握りしめて振り下ろされた
シールドを解除したことで、俺の隣の地面に落ちた白骨の腕に触れる。
「〈
がしゃどくろの拳が砕ける。
しかしそれだけ、完全な消滅には至らない。
流石に上位種か、幾ら神聖の力でも一撃で倒せはしないらしい。
「〈
巨体な分機敏さには欠けるようだ。
蚊を叩くような動きで迫る左腕もジャンプして回避、そのまま左腕の骨に飛び移り、肩の上へと更に走る。
「死者を幾ら救済したって、そんなのは後の祭りだ。俺は目の前で悩む大切な生者を救いたい。そのためには金が要る。そのためには力が要る。そのためには仲間が要る!」
プリーストのレベル5のスキル。〈
「俺の目標は【一兆円】! それがこの目に映る全ての不浄を癒すことができる唯一の力! お前の目的は、お前の悩みは、幾らで達成できる!? 幾らで解決する!? 俺と来い。そうすれば、お前が望む全てを買わせてやるよ!」
そうだった。
俺は初対面の患者に信用してもらいたい時は、決まって自分の話をした。
自分がどういう人間なのか知って貰おうとした。
今だって同じだ。
「〈
「レベル5のスキル。僕と同じ年でプリーストを最大レベルまで極めてるのか……」
がしゃどくろの肩の上から頬骨に触れて発動した俺のスキルは、その頭蓋を一片残らず消失させる。
頭蓋はスケルトンの核であり、その魂を封じ込めるための牢獄だ。
故に、それが消滅すれば残るのは剥き出しの魂。
もう俺が何もせずともその魂は〈
残りの骨も消失を始め、意志を失った遺骨は倒れていく。
それと一緒に俺も地面に降り立つと、光に包まれて消失していくがしゃどくろの骨の中に、指輪が一つ転がっていた。
大きさは普通の人間サイズまでかなり小さくなっているが、がしゃどくろがつけていた物とデザインが酷似している。
これも魔道具……遺品って訳か。くれると言うなら貰っておくとしよう。
「……君は、何者なんだ?」
「まだ何者でもない、ただの高校生で新米探索者だ。だが、守銭奴、銭ゲバ、生臭坊主、なんと呼ばれようが構わない。俺は一兆円を手に入れて、満足のいく人生を手に入れる。俺と組め。お前も仲間を探しているんだろ?」
そう言って俺は、西園寺良太に手を差し出す。
西園寺は眉間に皺を寄せ、悩まし気に俺を見る。
「少し、考えさせてくれ」
そう言い残し、西園寺は〈
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