第十二集:鬼魄《きはく》の王
「おい、そこで止まれ」
城門まで来た二人は、二体の鬼に
「お前達、見ない顔だな。城に何の用だ」
二人は顔を見合わせると、
「私達は
「軽々しく名前を呼ぶな、小娘。陛下に何の用だ」
門番にまで「陛下」と呼ばせているあたり、帝位に相当な憧れや執着があるのかもしれない、と、
「おい、こいつは男だ。お前の目は節穴か」
「なんだと、こいつ」
鬼同士が言い争いを始めてしまい、話が進まなくなった時、金属が擦れるような不快な音を立てながら門が開かれた。
「門番、何をしている」
黒い
「さ、宰相殿……」
「すみませんでした」
門番達が頭を下げている間、黒衣の鬼の視線は
「お前達、彼らを見てなぜわからないのだ。龍神族と神仙の者だぞ。丁重に出迎えるべき身分の客人だ」
門番達はさらに頭を下げ、二人が通れるよう左右に下がった。
「ご迷惑をおかけしました。あなた方のような種族がいらっしゃることはそうそうないもので。門番への教育が足りず申し訳ありません」
美しい所作で
「気にしておりません」
「おそれいります。自己紹介がまだでしたね。私は宰相の
二人は警戒したが、ここで嘘をついても仕方がないので、答えることにした。
「私は
「私は龍神族の
素性に関して余計な質問をされないよう、
「本日は
横で
「ほう、
一瞬だったが、
「我らが所有しておりますのは、人間の村でございます」
「地主か
「いいえ。祟り神の伝承を利用し、定期的に生贄を得ることが出来る村を二十ほど確保してあるのです」
「それは素晴らしい。
二人は
衛兵と共に戻ってきたのは、おそらく
下品なまでの豪華絢爛な大広間。
玉座の前まで来ると、
「
「立ち上がり楽にせよ」
想像していたよりもずっと軽やかな声。
眩しいほどに赤い
宵闇を流れる川のような黒髪は凄艶で、形のいい唇は深紅に塗られている。
「陛下の麗しさに眩暈が致します」
「
笑った顔は戦慄するほど綺麗で、美の理想を集めた人形のよう。
薄気味悪い、と二人は思った。
「
二人は
代表して
「左様でございます」
「何でも、自由に収穫可能な人間の村を持っているとか」
「はい。管理が行き届いているおかげで皆健康そのもの。質のいい人間だけをお届けできる準備がございます」
「それはいい。もし
「噂を耳にしたのですが、陛下は珍しい宝玉をお持ちとか……。村二十をその宝玉と交換ではいかがでしょうか」
「それは、この
「はい。かつて
「いいだろう。では、
大広間に百を超える鬼の兵が現れた。
「ああ、面白い。俺がそう簡単に騙されるとでも思ったのか、小僧共」
兵達は武器を持ち、その刃は
「その完璧に近い変装は神仙の力だな。仮面を取れ、
「これで満足か、王を名乗る下劣な鬼よ」
「食料にするにはもったいない美貌だな。そうだ、俺の愛玩人形として傍においてやろう」
二人は
「何故お前は皇帝の真似事をしている」
「真似事だと……?」
「俺はかつて、
広間に静電気が通ったように声が響いた。
「お前は人間だったのか。ならば、何故人間を……」
「俺は遥か昔、
玉座の近くに飾ってある宝剣を手に取ると、鞘から引き抜いた
「いずれ
灯篭の灯りが刃の中で揺れ、
「俺は偽の密書を作り、奴が謀反を試みていると奏上した。そして指揮権を得るとすぐに奴の封地へ攻め込んだ。戦況は上々。三日も経たずに勝てる算段だった。それなのに、それなのに!」
「奴は俺に気付かれることなく近隣の城へ救援を求める書状を送り、それを受け取った城主達が皇宮へ押し寄せたのだ。『謀反は誤報の可能性が高く、即刻討伐軍を後退させ、調査を行うべし』と」
ゆらりと宝剣を床から引き抜き肩に担いだ
「すぐに行われた調査で密書が偽物だと露見し、主犯は俺だと特定された。そこからはまさに電光石火の転落劇。禁軍大統領が三万の兵を率いて俺を捕えに来た。圧巻だったよ。純粋な武人に敵うはずもなく捕まった俺は、皇帝の前へと引きずり出された」
「例え俺が皇太子であっても、王爵を持つ者を陥れたのだ。廃嫡され、死罪にはならなくとも、重い罪が科せられることになった。流刑だよ、流刑。それが
手延ばせば届く距離まで近づいた。
「かつて皇太子だった俺が一夜にして転落し、囚人となった。どうやって死んだと思う?」
「俺は苦役中に死んだんだ。可燃性の
「だから人間は大嫌いだ。特に、皇族の連中はな」
「血のにおいですぐにわかったさ。お前が俺と同じ
凍霧含紅《とうむがんこう》 智郷めぐる @yoakenobannin
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