第十一集:覚悟
「
「全く騒がしい……、おい、これはどういうことだ」
診療室へ入ってきた
「
「
「そんな!」
「
親友のすがるような目に、
「
「わかっています」
身体を動かさなければ、不安で押しつぶされそうだからだ。
例え、治療の成功確率が低くても。
「私と
近くにある
「叔父上、
悲痛な顔をした甥に、
「私はこの天下で
ただ願うことしかできない自分を恨むように、
「
過去に思いを馳せるように話し始めた
「特に、あの封印の力に目覚めてからは、それを良いことに使おうと、
小さな
それならば、
万が一
これが残酷な優しさなのかと自嘲しつつ、
「
「きっと
何かが自分の中で繋がりたがっていることを感じ、鼓動が激しくなる。
「
自身の腕を見て、血管に流れている血を感じる。
いっそう速くなった鼓動は、心を苦しめていく。
言葉が出ない。
その時、診療室から強い光が漏れ出した。
立ち上がろうとする
「本当なのですか、叔父上。
「そうです。十七年前、私が
「『私に万が一のことが起こった時は、子供を連れて逃げてほしい』と、
「
「すべて知っています。自身の母親のことも、
「だからあの時、
「それは関係ありません。でも、今は違うでしょうね」
「家族でなくとも、大切な友のために同じ決断をしたはずです」
それから数時間。
そこへ、慌てた様子で書生が速足で歩いてきた。
「
「叔父上、どうなさったのですか」
「これは兄上からの文。緊急事態以外では送ってこないものです」
印を割り、紐を解いて中の文に目を通す。
「
中にはこう続いていた。
――誘拐犯が悠王府に残していた脅迫文にはこう書かれていた。『皇太子が持っている三つの宝玉と共に、四つ目の宝玉を探し出して持ってこい。さもなければ、
――『最後の一つは
「兄上を取り返さなければ」
立ち上がり部屋を出て行こうとする
「そんな危ないところへ行かせるわけにはいきません」
珍しく声を荒立てている
「
泣きたくなるほどの不安を押し込めながら、
動揺を悟られないように。
「一命はとりとめたってところ。目覚めるかは、
嘘は言っていない。
でも、
「そうか……」
安堵していいのかわからないほど混乱している
「待ちなさい、
「
「行かなければ、兄上が……」
「言葉で止めたって無駄だ。わかるだろ、
それでも引き下がらない
「
「
叔父の真剣な眼差しをまっすぐ見つめ返しながら、
「許可は求めていません。叔父上、
その背を見つめる
「
「だから心配なのですよ」
空が橙に染まり始めた。
「ほら、若者に任されたんだから、二人で仲良く
一方その頃、
「ねぇ、
「なんだ」
「
「見ていればわかるよ。だって、私は二人の親友だもの」
緊急事態にはそぐわないほどの穏やかな風が、二人を包む。
「もし……」
「もし、一目見てしまったら、その場から動けなくなってしまうと思ったのだ」
「
「ああ……、その通りだな」
世話の焼ける親友だなぁ、と、
「そういえば、あの密書だけど……。最後の
「あいつに聞けたら……」
「あいつって?」
「
「ああ、そうか。
その時だった。
眼下から声が聞こえた。
「こっちですよー。私をお呼びですかぁ?」
「お二人とも高貴な割には野蛮ですね。ふう、間一髪でした。不老不死と言えど、それは寿命では死なないだけで、怪我や
ああ、左腕が骨折してしまいました、と、
ぶつぶつと文句を言いながら立ち上がった
それを
「商売ですよ」
「相手は」
「あなた方です。……おや? あの病弱な青年はどうしたのです? 死んだのですか」
「黙れ。聞かれたことだけに答えろ」
「わかりました。皇太子殿下」
気持ちの悪い笑みを浮かべる
「なんで私達と商売が出来ると思ったの?」
「だって三つ
「なぜ三つ集まったと知っている」
「私の依頼主が教えてくれたのです」
「依頼主は誰だ」
「守秘義務で言えませんし、殺されても言いません」
聞くだけ時間の無駄だと悟った
「四つ目の
「お代はこちらです」
「おお、皇太子殿下は太っ腹ですね」
「最後の
「どんな王だ」
「人間にはとても好意的ですよ」
「食料として、ね」
「良いお取引でしたね。ではまた」
「
王の人間に対する態度を
「当然だ。向こうが敵意むき出しで来るのならありがたい。気兼ねなく首を斬り落とせるからな」
二人は再び空へと飛び立つと、地図に示された場所へ向かって飛行を始めた。
目指す場所は西にある廃鉱山。
三百年ほど前に大きな事故があり、その後は誰も寄り付かなくなった山。
鉱山夫は常に死と隣り合わせの環境で働いている。
雇い主が
事故で両足を失ったり、見分けがつかないほど破損してしまったりした遺体は自走が出来ないため、
それに、鉱山で働いていたのは何も地元民だけではない。
そこはかつて罪人の流刑地でもあった。
救われなかった命はやがて土地や人々の怨念を吸い上げ、悪霊や悪鬼、
ほとんど休むことなく丸一日飛び続け、やっと廃鉱山へたどり着いた二人。
「
「うん。私体力には自信あるからね」
「
「これは……、
「そう。劇では喜怒哀楽を面の違いで表現するでしょう? でもこれは違う。面で種族を誤魔化せる呪具なの。呪具って言っても、別に心身に害はないから安心してね」
「わかった。ちなみにこれは何の種族なんだ? 鱗のような模様が入っているが」
「龍神族だよ。彼らは……、まあ、色々伝統があって、よく面を使う種族なの。だから
準備を終えた二人は瘴気の濃い方へと歩いていく。
眼前が歪んで見えるような、不快な感覚。
少しずつ周囲の温度が上がっているようだ。
背に汗が伝う。
「……あった。扉を隠すつもりがないみたいだね」
「威嚇か蛮勇か。何者にも負けない自信があるのだろう」
「……うわあ」
黒い岩肌に煌々と照り付ける溶岩の滝。
空という概念がないのか、上空と呼べる場所にもはるか遠く岩肌が見える。
流れ続ける溶岩の灯りと石造りの灯篭のおかげで周囲の光量に問題はなさそうだ。
「……
「本当?」
「ああ。規模は小さいようだが、目の前の道も、その奥に見える城の一角も、既視感がある」
一番大きな通りに並ぶ家屋や
活気は十分にあるようだが、闊歩するのは
よく目を凝らして見てみると、屋台で売られている料理には人体の一部が。
「彼らはあえて生活様式を似せているのか」
「どうだろう。
「あまりに
不穏な空気を感じ取りながら街中を歩いていると、水音のようなものが聞こえてきた。
「こんなところに水が?」
鉄製の桶を運んでいる鬼が三人、液体が揺れる音を立てながら通り過ぎていった。
「……いや、あれは違う。
「教えてくれ。あいつらが運んでいるのは何なんだ」
「においからして、血液とか体液の
「奴らは水の代わりにそれを飲んでいるというのか」
「違うと思う。水はあるんじゃないかな。冷たいかはわからないけれど。あの血液は……、たぶん、お酒として飲むんだと思うよ。
「血が酒に……?」
「本で読んだことがあるんだけど、人間に大量にお酒を飲ませて血中の酒精濃度を上げ、その血をお酒として飲む鬼がいるんだって」
「そんな……。では、あの血液は……」
「生き血じゃないかな。血液を採られた人は生きながらにお酒の材料にされているんだと思う」
「言っておくけれど、助けには行けないよ」
「何故だ」
「私、覚悟はあるかって聞いたよね。それは
「だが、見過ごすわけにはいかない」
「私だって彼らのしていることは許せない。でも、ここは
精神的な打撃が大きかったのだろう。
指の間から血がしたたるほど。
「行こう、
「……そうだな。すまない、
普通に生きていれば気付かずにいられたものを、彼は知ってしまったのだ。
二人は再び
その足取りは重い。
二人が通り過ぎた後、
地面に落ちている数滴の赤い液体。
興味本位で舐めた小鬼は、その持ち主の種族に気付いてすぐに城へと飛び立った。
自らの王に知らせるために。
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