第1話ー④

「ねーねー、つくねちゃんもうきついでしょ?私が代わりにおんぶするよ」

「いや、良い…お前にさせたら碌なことにならなさそうだからな」

「む、ひどいなぁ、ちょっと感触を確かめるだけだって」


私と天桃は、部活を途中で打ち切って、ダウン中の文月を家まで送り届けに来ていた。

野球部の所に行って部長に確認した限り、文月の家はここら辺らしい。


てか、こいつ軽いな。

私とほとんど身長変わらないとはいえ、不安になる軽さしてるぞ。

そして何故か、倒れてからずっと微かな声でブツブツ何か呟いている。

何をしゃべってるのか気になるので、一度立ち止まって注意して聞いてみる。


「…東京…特許…きょきゃきょく…」


…めちゃくちゃゆっくり早口言葉言ってる…。

しかも噛んでるし…。

意味が分からない文月の様子に私が困惑していると、先に進んでいた天桃が駆け足で戻ってくる。


「つくねちゃん!文月くんちの表札あったよ!」

「ん、おぉ…」


私は適当に返事を返して、家の前へ軽い足取りで向かう天桃の後を追った。





「あー…これはまあ、刺激の受けすぎですね」


文月の家の中には、義理の妹を名乗る、中学生のゆきなという子がいた。

兄が倒れたというのに至って冷静な調子で、彼女は文月の部屋で私と天桃に文月の容態を説明しだした。


「刺激の受けすぎ?」

「はい。お兄ちゃん、女子とかそういう知識とかに耐性がないんで、過剰に干渉されたりするとこうなっちゃうんですよ」

「なんだよその仕様…」

「まあ、私にもなんでこうなるのか分かりませんけど、気絶する前の記憶をちょっと忘れるだけなので、心配しなくて大丈夫です」

「あ、そうなんだ?良かった~」


天桃が大げさに胸を撫で下ろした後。

ゆきなちゃんはコホンとわざとらしく咳ばらいをして、急にトーンを上げて話し出した。


「ところで!お二人は、兄とはどういったご関係で?」

「え?いや、部活が同じだけでただのクラスメイ――」

「友達だよ!ね、つくねちゃん!」

「え…お、おお…そうだな」

「へ~」


彼女は見定めるような目で私たちを見て、どこからともなくメモ帳を取り出してサラサラと書き始める。


「…何書いてんだ?」

「あ、お二人の特徴を書き出してみて、お兄ちゃんとの相性はどうか見てみようかなーって」

「え、なにそれ!相性とか分かるの?教えてよー!」


最近占いにハマり気味の天桃が、ゆきなちゃんの発言に食いつく。

彼女は待ってましたと言わんばかりに、一際元気そうに口を開いた。


「じゃあ、持ってきますね!待っててください」

「はーい」


トタトタと軽やかに小走りをして、部屋を後にしたと思ったら、何やらノートを手に持って一瞬で戻ってきた。


「こちらをどうぞ」

「おー、これで占うんだ」

「いえ、占うんじゃなくて、共通点を探してください」

「え?」


ゆきなちゃんはくるりとノートをひっくり返し、表紙を露わにする。

女の子らしい字体で書かれた「㊙お兄ちゃん分析ノート」の文字が、私たちを出迎えた。

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