第2話ー④

「じゃあ、お邪魔しました。服は今度洗って文月に返すんで」


小鳥遊さんが天桃さんを引っ張って、玄関の戸を開ける。


「ふ、文月くん!ほんとに違うから!悪気は無かったんだよ!」

「は、はい…」


必死に先の事件の弁明をする天桃さんに、僕はゆきなの背中から返事をする。

…妹の後ろにすっぽり隠れられるというのは、兄としてどうなのか。

自身の貧相な身体つきを情けなく思いながら、ゆきなと一緒に小さく手を振って見送る。


パタンと音を立てて扉が閉まったのを確認して、鍵をかける。


ようやく、終わった。

あり得ないくらい長い一日だった。

特に学校が終わってからが。


流石に毎日気絶したりはしないだろうが、あの二人に慣れるまではしばらく苦労しそうだ。

僕は大きくため息をついて、リビングのソファへ飛び込んだ。


ゆきなが隣に座ってくる。


「いやー、二人ともかわいい人だったね…眼福眼福」


随分と気分が良さそうにスマホをスワイプしている。

僕の知らない間に写真でも撮ったのかな。

身体を起こしてゆきなのスマホの画面を覗き込む。


そこに映っていたのは、寝顔を無防備に晒す僕と、笑顔でピースをしている天桃さんのツーショットだった。


なんだこの写真。

何となく感じてたが、やっぱ天桃さんはやばい人な気がしてきた。

…いや、この写真を撮ってるゆきなも十分やばいか。


考えれば考えるほど嫌な気持ちになりそうなので、とりあえず脳を省エネモードにして再びソファに沈む。

何か普段使わない分野の脳が疲れている気がする。

ゆきなはひとしきり写真を見終えると、スマホをポケットにしまって僕の顔を覗いた。


「お兄ちゃん、あの二人だとどっちが好きなの?」

「え…」


どっちが好きって…。

今のところどっちのこともほとんど知らないんだけど。

授業以外でちゃんと会話したの、今日が初めてな気がするぞ。

僕が答えに迷っていると、ゆきなは何かを察したように言う。


「うんうんうん。なるほどね。どっちも可愛いし、二兎を追いたくなっちゃうよね。分かるよ。私応援するから」

「うん…うん?」


なんだかよくない誤解を生んだ気がする。

僕の心配はつゆ知らず、ゆきなは軽くスキップをしながら自分の部屋へと戻っていった。

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