第3.5話 小鳥遊つくねの泣き所

私、小鳥遊たかなしつくねも、この一週間でもうすっかり見慣れたお悩み相談部の部室。

相も変わらず部長は野球部の手伝いに行っているらしく、今は一年生の私たち三人だけ。

私がスマホをいじる横で、天桃あまおう文月ふみつきに数学を教えてもらっているようだ。


「で、ですから、これはさっきの公式で…」

「いやだから、それは分かったんだよ?分かったんだけど。なんでその公式を使おうって思えるのかな?」

「なんでって…見たら分かりません…か…?」

「それで分かったら苦労してないよ~」


悪戦苦闘している二人をぼんやり眺めていると、不意に部室の扉がゆっくりと開いた。


入ってきたのは、素朴な印象の女子生徒。

確か隣のクラスで見た気がする。

彼女は天桃にハッキリと視線を合わせてから、その口を開いた。


「あ、あの…天桃さんにご相談があって」

「え、私名指し?そんな有名人になってたかな?」

「まあ、学年で言えば名が知れてる方じゃないか」


顔良しスタイル良し性格良しだからな。

世間に知られていないダメな所は多々あるが。


入ってきた彼女は視線を流して文月の服装を見ると、申し訳なさそうに話す。


「あの…あんまり男子には聞かれたくない内容なので…」

「あ、ほんと?じゃあ文月くん」

「あ、はい。部室の外にいますね。終わったら教えてください」

「はいはーい」


文月が廊下に出て扉がパタンと閉まる。

それと同時に、彼女はソファに腰を下ろして天桃と私に向き合った。


「さっき呼んでたから知ってると思うけど、私は天桃ね!こっちはつくねちゃん」

「あ、お願いします…私は早瀬はやせです」

「で、ご相談って何かな?」


早瀬は何度か口元まで出た言葉を飲み込んだ後、観念したように口を開いた。


「その…私、ちょっと身体に自信がなくて」

「身体?」

「は、はい…その…言ってしまえば…ここです」


彼女は自身の胸を手で軽く抑える。

ふむ。

自信がないとな。

目の前にそれ以下のサイズの私がいるのにか?


私の殺気を感じてか、早瀬は決して目を合わせずに、下を向いたまま語りだす。


「私の友達結構大きい人が多くて…夏になったら海とか行くことになるから、それまでに何とかできないかなって」

「それで、私に聞きに来たんだ」

「は、はい…何かこれしたらいいんじゃ、みたいなことってあったりしませんか?」


天桃は少し考える素振りを見せると、指をピンと立てた。


「そうだね~…牛乳は昔からよく飲んでたかなぁ」

「私もよく飲むな」


「…」

「…」

「…」


「…あ!私結構いっぱい寝るタイプだから!それはあるかも!」

「私も大体七、八時間は寝てるな」


「……」

「……」

「……」


「じゃ、じゃあ!私はやったことないんだけど、バストアップの筋トレみたいなのは――」

「あれ大して変わんなかったぞ」


「………」

「………」

「………」


天桃と早瀬が、同情と憐れみの目で私を見つめてくる。


「…つ、つくねさんも、まだ成長する可能性はありますから…」

「…つくねちゃん、泣いていいんだよ」

「…うるせえよ…」




● ● ●


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内気で女子が苦手だけど、肉食系美少女やその友達に好かれて迫られるラブコメ。 カカオオレ @02kare

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