第2話ー②

「おーい――文月――」


どこかから声が聞こえる。

僕は重い瞼と闘いながら、返事にならない返事を返す。


「ん~…んんん…」

「いい加減起きろよ」


覚束おぼつかないまま気合と力を込めて、瞼を一気に持ち上げる。

と同時に、ゆっくりと活動を始めようとした脳が再び停止する。


「はっ!?え!?た、小鳥遊さ…え、うち、なんで、部活は!?」

「ちょ、ちょっと落ち着け。部活はもう終わったよ。色々あってお前が倒れたから家まで連れてきたんだ」

「そ、そう…なんですか、ありがとうございます」


なるほど、いろいろあったのか。

それで理解できたら苦労はしないけど。


と、その時。

階段を駆け上がる足音がした。

ゆきなかな?

足音はそのまま部屋の前まで来て、扉を勢いよく開け放った。


「ふー!つくねちゃーんお風呂空いたよ~。あ、文月くん起きてるじゃん!」


入ってきたのは、天桃さんだった。

しかも、何故か風呂上りのようだ。

ゆきなの私服を綺麗に着こなしている。


「え…あ、天桃さん、ど、どういう…」

「おー。じゃあ私入るわ。あ、飯あと三十分くらいで出来るらしいぞ」

「はーい」

「いや、ちょっと、なんで勝手に…」


何が起きているかを整理するのに必死な僕を無視して、小鳥遊さんは部屋を出ていった。

ベッドのへりに腰かけた天桃さんに説明を求める。


「な、何でうちのお風呂勝手に入ってるんですか。それに飯って…」

「あー、ゆきなちゃんが是非ってさ。ほんとは文月くん届けたらすぐ帰るつもりだったんだけど、ゆきなちゃんと話が盛り上がっちゃって」

「は、はぁ…」

「私一人っ子だからさぁ、下の子欲しかったんだよねー!ゆきなちゃん妹みたいで楽しかったよー」

「それは…よかったですね」

「うん。そういえば、親御さんはまだ帰ってこないの?」

「あ、うち両親は東京で働いてるのでここ住んでないですよ」

「…ん?」


天桃さんの顔が固まる。


「え、聞き間違いかな?ここ、福岡だよ?九州だよ?」

「は、はい。だから、東京で働いてるからここには居なくて…」

「じゃあ、文月くんとゆきなちゃんで二人暮らしってこと?」

「まあ、今はそうですね。お父さんが単身赴任になって、お母さんが4月くらいにお父さんロスになって向こう行っちゃったので」

「…なんというか、自由なお母さんだね」

「それは…そうですね」


自嘲気味に小さく笑っていると、台所から嗅ぎ慣れた美味しそうな匂いが漂い始めてきた。

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