第2話

「これは何なんだ…?」


戸惑いながら尋ねると、ゆきなちゃんは兄とよく似た雰囲気の人懐こい笑顔で答えた。


「これはですね、お兄ちゃんの女性の好みをひたすら列挙したノートです。データにもしてるので、あとでお二人に共有いたします」

「どうやって文月くんの好みとか調べたの?」

「ファッション誌を見せて好感触なものだったり、普通に生活してて気づいたことを書いたりしてます」


すごい熱意だな…。

割と引き気味の私に対して、天桃は感心したように唸っている。


「表紙にも書いてますけど、それ、極秘なので。お兄ちゃんにはバレないようお願いします。後で私の部屋に返しに来てください。では!」


ゆきなちゃんは音もたてずに姿を消し、部屋にはノートだけが残された。

天桃が興味津々といった様子で手に取って、熱心にそれを読み始める。


そういえば、いつの間にか文月の早口言葉の詠唱が止まったな。

ベッドの方に目をやると、気絶からそのまま睡眠にシフトしたのか、文月がふやけた顔で幸せそうに寝ている。

…こうやって見ると、女の子みたいな顔立ちしてるな。


文月を眺めていると、スマホが揺れてメッセージが来たことを伝えた。

ポケットから取り出して、画面を見る。

送り主は…。

…文月…?

目の前で寝息を立てている男の顔を注意深く見る。

いや。間違いない、こいつは本物だ。


私は訝しみながら画面のロックを解除して、内容を確認する。


『ノートの共有URLと私のアカウントです。このメッセージは後で消すので、リンクを保存しておいてください!』


…なんでゆきなちゃんが文月のアカウントで送れるんだ。


色々と言いたいことはあったが、当の言う相手がいないので結局何も口にはせず、天桃の隣で胡座をかく。


「お、見てこれ!文月くんパーカー好きなんだって!つくねちゃんいっつも羽織ってるじゃん!」

「あ、ほんとだ…」


あいつのタイプに当てはまってたからと言って、反応に困るな…。


「あ、なんかめちゃくちゃ強調して書いてるよこれ。人の髪の毛触るの大好きなんだって」

「そんなことまで書いてあんのか…」


自分の趣味まで周りに筒抜けとは気の毒だな。

文月に同情しつつページをめくっていると、何やら雰囲気が変わった。


「こっからは好きじゃない要素みたいだな」

「これに当てはまってたらマイナスってことかー。でも少ないね」


そこに書かれている単語は、たったの三つ。

二人でそれに目を通す。


一つ目に、「目立つ人」。

二つ目は、「距離が近い人」。

三つ目は、「スキンシップが激しい人」。


…この三つか。いやに具体的だな。

私はすぐ隣にいるマイナスコレクターに視線をやる。


「…これ、私のせいで書き足されたページだったりしないよね?」

「…さあな」

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