第1話ー②

「…聞いたよね」

「……はひ…」


部室に引きずり込まれて、天桃さんにゼロ距離で詰め寄られている。

怖い。

僕が冷や汗をだらだらと流していると、天桃さんはパッと手を離してソファにうなだれた。


「最悪だ~…見られたくないとこ見られた、しかも文月くんに…」

「ま、まあ…文月の話してる時じゃなくて良かっただろ」

「…あれ聞かれてたら死んでるよ」

「ぼ、僕の話…?」


陰口か何かか?

…まさか、はしたない話じゃないよな…?


少し鳥肌が立つのを感じて、天桃さんから距離を取りながらソファに腰かける。


「と、とにかく。文月くん、これは三人だけの秘密だからね!誰にも言っちゃだめだよ。いいね!」

「は、はい…」


天桃さんが力強く僕に念を押してきた、丁度その時。

ドアノブがガチャリと音を立てた。

部室の扉が勢いよく開いて、爽やかな印象の男子生徒がずかずかと部室へ入り込んでくる。


「おーっす。お!みんないるんだ」

「あ、部長、おつかれさまです」


部長、桐谷きりたに 明太あきた先輩だ。

部長は慌ただしく部屋の隅に荷物を放り投げると、僕の肩に手をのせて言った。


「もう言われたかもしれないけど、文月は女子苦手だからよろしくな」

「あ、それは知ってます。同じクラスなんで」

「あ、そうなの!?じゃあ大丈夫か。俺は野球部の手伝い行ってくるから、なんかあったら文月に聞いて。仲良くなー」


それだけ告げると、部長は足早に部室を走り去っていった。

相変わらず忙しない人だ。

足音が聞こえなくなってしばらくすると、小鳥遊さんが口を開く。


「私天桃に誘われたから入っただけなんだけど。具体的には何する部活なんだ?」

「具体的に…。まあ、頼まれたことをしたり、相談に乗ったりするだけですよ」

「私恋バナとか結構好きなんだけど、そういうのも来るの?」

「まあ、来ますよ。ただ、僕は部長に流してるので対応したことは――」


僕の言葉に被るように、扉が大きく唸るように音を出した。

部長と入れ替わるように入ってきたのは、以前も相談に来た覚えのある女子生徒。

噂をすればというやつだ。

彼女は僕たち三人の顔を順番に見た後、ゆっくりと話し出した。


「あの~…れ、恋愛相談がしたくて来たんですけど~…」

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