第1話ー③

「では、ご用件をどうぞ」


フフンと足を組みながら天桃が促す。

こいつ、私と同じで今日初めてのはずなのにやけに図々しいな。

文月ちょっと引いてるぞ。


「えっと…実は、前から部長さんに相談させていただいてて。そのおかげで、好きな人とお付き合いできることになったんです」

「おー!すごい!よかったね!」


上から目線キャラには一瞬で飽きたのか、すぐに足を崩して前のめりに小さく拍手をする。

相談に来た生徒は、照れくさそうに笑ってからぽつりと話し出した。


「そ、それで、何度かデートをしてるんですけど…。その、まだ、手も繋げてなくて。どんな風に距離を縮めたらいいのかなーって」

「ふむ。ちなみに、最終的にはどこまで行きたいの?」


こいつ、ちょっと鼻息が荒い。

天桃が下心半分で尋ねたのに気づいていないのか、聞かれた彼女は言いづらそうに答えを口に出した。


「えー…まあ、いつかは…キスとか?」

「おー、ピュアだね~」


天桃が唸るように声を上げながら頷く。

お前が汚れてるだけではないのか。

天桃は指をピンと立てて、ドヤ顔で説明を始める。


「まず、デートは水族館がおすすめだよ。『暗いからはぐれないように~』とか言って手を繋いじゃうの。そして、照明とかもない一際暗い所とかあるよね。いい雰囲気になったらそこ行って、ムードに任せてキス!これだよ!」

「な、なるほど…!参考になります」


凄いな、こいつにしては比較的まともなことを言っている気がする。

文月も関心したのか、控えめながら感嘆の声を上げている。


「す、すごい具体的ですね…」

「そうかな?まあ、水族館の暗いところでキスするカップル見るのが趣味だからね」

「え」

「…コホン」


一瞬で冷え切った場の空気を咳払いで誤魔化す。

相談に来た女生徒は引きつった顔で汗を垂らしながら言った。


「あー…すいません。やっぱ部長さんに相談したいので、今度いるときにまた来ますね」

「あ、そっか~。進展あったら私にも話してね!」

「え…はい…」


自分のせいで相談者を逃がしたことに気づいていないのか、天桃は能天気な様子で見送ろうとしている。

相談者が席を立って、部室の扉へ向かう途中。


「いてっ!」

「わ、危っ―」


机の脚に足をぶつけて、相談者が倒れこむ。

近くにいた文月が、それを支えるように身を出した。


抱き合うような形でソファに倒れこむ。

まるでラブコメのような展開だ。


私が他人事のように眺めていると、彼女はすぐに文月から離れた。


「あ、ご、ごめんなさ――えっ」


彼女は急に言葉を失った。

私と天桃が気になって彼女の様子を伺うが、何もない。

続いて文月の様子を見る。

…ソファに転がった文月は、目から光が消えて、泡を吹いて気を失っていた。

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