金銭恋愛マッチング05

「そうか。わかった、ありがとう。メッセージアプリに簡単な情報と画像を送ってくれ。仕事頑張れよ、また飯行こうな」



 シロクロ姉妹のおかげでストーカーの犯人と思われる人物の情報を手に入れた。結構年を取っている女性、おばさんと呼ばれてもおかしくないかもしれない女の人だった。俺は若い女性か、もう少し上の女性の二択で予想していたので驚きはなかった。若い男性や中年男性の妄想がエスカレートした結果としてのストーカーが一般的だが、今回は歪んだ愛情や独占欲を満たすための行為にはどうにも思えなかった。斜めに外した予想をしたのはそのため。さて、と。



 俺はリバーサイドグループの秘密の掲示板を使って情報を求めた。頼もしい仲間に聞いて回り、それをまとめる。それが今のオーガナイザー。画像と氏名があれば特定はすぐだった。住所も電話番号も家族構成、同居家族もまるわかり。エスエヌエスは見つからず。やっていないのでは、との情報。ネットに疎いのかもしれない。



 容疑者の家に突撃して「ストーカーですか!」って聞けば、黙秘しても逃げても自白してもそいつがストーカーかどうかはすぐに分かるだろうけど、相手の行為が終わるとは限らない。より過激になって攻撃的になったら意味がない。ストーカー行為を辞めさせ、今後一切やらないことと関わらないことを誓わせないときっと今回の事件は終結しない。あの美少女は意外とお金持ってるかもしれないからな。さすがにヤクザからお金はもらえないから、あの胸の大きな美少女から貰うかゲーマーオフィサーの優勝賞金を貰うか。最悪ボランティアでもいいけど、今後の情報提供者になるか紹介してもらえると嬉しいな。もちろんオフィサーはもう抑えたも同然。これで氷永会に人脈が二人できた。同時にリスクが二倍になったことのほうがヤバいけど。



 その日の昼、安いパスタ屋さんに入った。その店は若い男女が多かった。なんとなく自分がアウェーというか場違いな感じを感じてしまった。店員はとても良く接客してくれたけど。メニューを開いて注文を決めながら、せっかくなので周りを少し観察した。それで分かった。俺にはもうドリンクバーで時間を潰していた時のような若さはないことを。大人を目指していた頃の鮮度がない。そして金がなくて行き場を見つけられない奴らを助けるのが大人なのだとも思った。パスタの店を選んだのもシロクロ姉妹がパスタを食べていたからだった。あの二人のためにも、決して邪険にしたり、見下したり、若い子たちを、ガキ共を大人の都合に都合よいように扱うのは大人とは呼ばない。未来を遮ってはいけない。未来を作る若者を助ける環境を作るのが大人だ。そうでなければいけない。ヤクザに身を投じたプロゲーマーも巨乳美少女も若くて未来のある少年少女だ。困っている時は助けなくちゃ。お互い様だろ、こういうのは。



 俺はオフィサーとユイに事件の進展と報告をしたいと連絡をした。ユイは忙しいとのことで、オフィサー、山本を呼び出した。あいつはもう俺の子分かもしれない。そんなことを冗談でも言った時点で、地獄耳の皆様方にその夜道で殺されるだろうけど。



「なるほど、この女がストーカーですか」


「まだ決まったわけじゃないが、可能性は高い。作戦を立てた。全部で三つ。どれがいいか、全部駄目か、意見が欲しい」


「はい」



 俺たちがいたのは夜のアウトサイドパーク。喫茶店に出すお金も惜しい時、長居するのにうってつけ。木々に囲まれて人を拒み、ベンチが個室になる。ほら、バカな大人がバカみたいに探す隠れ家の飲食店だよ。ここは都会のオアシス、かくれんぼにうってつけの隠れ家。ほら、都会のオアシスとかも好きだろ? 都会に森が! 緑が、自然がって。自分たちから全てぶっ壊して己に都合の良い便利で暮らしやすい街を作ってきたくせに失ったものを取り戻したいだなんて。チンパンジーも手を叩いて大笑いするだろうよ。この街だって同じだ。人間の歴史と共に作られ、発展して時代を表してきた。誰かにとっては、この街も都合が良くて便利で使い勝手が良いんだろうよ。俺たちはみ出し者には関係ないけどな。若者はいつだって邪魔者だ。オリンピックで金メダルを取ったらまだ若いのにすごい! って言った次の日には今の若者はこれだからって都合の良いことを言う。だから俺は自分の意見だけでは動かない。最終的に判断し、タカや成哉やメンバーに作戦を実行させる役目ではあるが俺の独断と偏見で決めてはいけないことを俺は分かっている。人間は自分を正当化し、都合よく捉えて、思い込んだことを正しいと思う。自分が間違っていると、これまで生きてきて得た知識や経験が無駄になると、何も信じられなくなることを恐れているから。当然だ。人間だから。俺も同じ。都合よく自分を正当化する。これまでの大活躍を武勇伝として語る老害。常に他人の意見は聞かないといけない。悪い言葉も、いい言葉も。



「作戦壱、この女の住所を張り込んで突撃。または被害者女性の家を張り込んで現行犯で捕まえる。制裁し、今後の接触禁止を恐怖で植え付ける。作戦弐、ストーカーの職場にビラを撒いて社会的に攻撃する。死に物狂いで助けを求めるか、はたまた自分を攻撃した俺たちを探して逆恨みするか。どちらにしてもおびき出せる。その後は壱と同様。作戦参、何もしない」


「えっ、参の何もしないってどういうことですか?」


「文字通り、何もしない。ストーカーを攻撃することも、ユイを助けることもしない。俺たちから直接関わることはしない。別のことはひとつだけするけど」


「何をするんですか」


「カスハラ」



 ゲーム大好き新入りヤクザには分からない言葉だったかな。もったいぶらずにちゃんと説明したら分かってくれた。オフィサーの意見は聞けた。できればユイの意見も聞いておきたかった。オフィサーに頼むこともできたが、人を介すると言葉が変わって伝わってしまう。作戦立案者の俺が言わなければ。連絡先を聞いたからそこに書きたいけど文字にして渡すと何がある変わらない。山本のことはだんだんとわかってきたけど、正直あのグラビアアイドルおっぱい美少女の正体を、真意を掴みきれていなかった。単なるストーカー被害者であればそれで済むのだが、この世の中に普通の女の子などいないからな。百人いれば百通りの人生を生きている。少なくとも男が抱く幻想に当てはまる女の子はこの世にひとりもいないと確信している。だから俺は依頼人も協力者も犯人も疑う。信じられのは娘だけ。娘に裏切られるのならそこに後悔は無いし、きっと無条件に受け入れて敗北を宣言する。あの日、娘とする覚悟を持つことを選んだあの日に俺は自分を捨てたのだ。この街のトラブルに毎日首を突っ込んでいるのも、きっと親代わりもまともに務まらない無力さを嘆いているだけ。俺は知らないところで活躍しているヒーローになりたいのではないかと自己分析している。本気ではないはずだが。だからせめて恥じない生き方を、胸を張って隣で手をつなげる存在に、俺はなりたいと神に祈っている。










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すすきのアウトサイドパークッ!! 小鳥遊咲季真【タカナシ・サイマ】 @takanashi_saima

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