金銭恋愛マッチング04

「よお、シロクロ姉妹。元気だったか」


「ソウさん! お久しぶりです!」


 

 クロは相変わらず寡黙で物静かだった。しかし嬉しそうにしているから俺のことは覚えていてくれたようだった。



 ふたりは新聞販売店に勤めていた。深夜と夕方にスーパーカブを走らせ、日勤の日には営業回りと集金に奮闘する。俺は所長さんにも挨拶をし、二人の話をかるくきいたところとても真面目で一生懸命に向上心を持って働いてくれていると教えてくれた。それだけでも涙が出そうになる。出会った時には高校生の制服を着ていたが、年齢としては二十歳を超えていたのだ。きっと免許も頑張って取ったに違いない。



 あの父親とはその後一切連絡を取っていないという。それがいい。親も大人もいないが、今は味方になってくれる仕事仲間がたくさんできたと嬉しげだった。俺はふたりの仕事が終わるのを待って、夜の七時に退勤した二人をファミリーレストランで食事をしながら話を聞くことにした。仕事の話や近況報告など、世間話を最初にして会話が温まった頃に本題を切り出した。もちろんふたりは今でもリバーサイドガールズを続けている。今の仕事をふたりに斡旋したのは成哉だ。戸籍を作って住民票を手に入れたのもリバーサイドのメンバーたちが頑張ってくれたに違いない。なかなかグレーな手段を使ったので早く取ったのだと想像した。仕事ができるようになった恩をリバーサイドの仲間には大いに感じていることも口にした。



「さっそくだけど、俺は今新聞配達員を探しているんだ。そいつはストーカの可能性がある。わかることがあれば教えてほしい」



 俺はユイから借りてきたイタズラの手紙の実物を見せた。そしてそれが新聞販売店がポスティングで配っている試読しませんか? と一週間の試読のお誘いカードではないかと俺は推測していることを付け加えた。A4のサイズと材質、印刷文字のかすれ。印刷前の無地を大量に盗んで自分でパソコンを使って印字しているではないかと。


「なるほどですね。言われてみれば似ているかも」


「俺のポストにも似たようなものが入っていた。かなり似ていると思うんだ。まずはこれが新聞販売店で使っていて、ポスティングもしくは新聞配達の際に寄って投函したのではないかを確定させたい。犯人の仕事が特定できれば探す難易度が下がる。どうかな」


「あっ、間違いないですね。うちの販売店のカードじゃないですけど、きっとそうだと思います。犯人は販売店の名前のスタンプが押された紙を何らかの手法で消したつもりだと思いますが、ここに。ここに新の跡が。これは新聞配達店の新です。競合他社の新聞販売店です」



 ビンゴ。やはり頼れるのは俺のことを信じてくれる仲間だよな。昔助けた女の子が恩返しをしてくれるみたいな話なかったったけ? あっ、それは亀か。ぜひとも竜宮城に連れて行って欲しいものである。



「もうひとつ聞きたいことがあるんだが、大丈夫か」


「はい」  


 

 俺はハンバーグを、姉妹はパスタを注文して食べながらの会議であった。大盛りで食べる二人を見て俺はまた泣きそうであった。あのとき、二人は食うに困っているわけではなかったが、贅沢ができる環境ではなかった。母親が抱えた負債を全額返済し、その後の姉妹の生活のために死をもって残してくれた金があった。しかしそれもいつまでも持つわけじゃない。日本でも、生まれの国にも存在を認められない。それが助けを得ながら今ではこの国のこの街で仕事をしてお金をもらって生活している。奇跡と言う言葉はあまり好きじゃないが、別の誰かがこの物語を知ったのならば、そのほとんどの人が奇跡だと言うだろう。絶望と不可能に立たされた人間の逆襲とか、逆転とか、復活とか頑張りみたいなのがみんな好きだからな。ほら、災害からの復興とか。だから誰にも話してやらない。見せ物にされるために頑張ってきたわけじゃないんだ、俺たちは。



「その競合他社の販売店に連絡は取れないか。ストーカーが販売店の正社員ならアルバイトの休みに応じて柔軟に全ての区域を走れるから走るだろうけど、アルバイトなら自分の区域が決まっていて同じところをずっと配っているはずだ。販売店側は内部の人間のことを無条件に信用していて多少無警戒なところもあると聞く。モノが無くなっていても何かのミスだと気にしないかもしれない。該当マンションの区域を配達しているアルバイトが見つかれば、そいつは何かしら知っている可能性がある」



 二人は所長に聞いてみると言ってくれた。俺たちは改めて現在の連絡先を交換して別れた。この時は自分で食べた料金を各々自分で払った。俺は連絡を待つことにした。



 


 



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