金銭恋愛マッチング03

 あれからいろいろ調べた。時代遅れの探偵は知らないことばかりだったからな。恋活、婚活は創成川リバーサイドボーイズ、ガールズの集会に顔を出した時、メンバーも皆常識のように話してくれた。恋だ愛だの好みの異性同性誰と誰がくっついた離れたみたいな話はよく耳にした。マッチングアプリの話は欠かさず、必ず話題に含まれていた。



 調べた結果を話そう。歴史的な話ては、八十年代はテレフォンクラブ、伝言ダイヤル、プリクラの裏にポケベルの番号を書いて公衆電話に貼って、みたいなやつもあったらしい。さらに遡ると始原は千九百二十年代のパリの結婚斡旋とか売春斡旋とかが始まりだとどっかに書いてあったけど本当のことは分からない。俺は歴史家でも専門家でもないからそれ以上は分からなかった。どれもウィキペディアレベルだ。なんにせよいつの時代でも不特定の男女の交際を、交流を求めていたということが分かる。ほら、内地にも有名なところがあるだろ。家を飛び出してきたりお金に困った女の子が集まっているところ。でもそんなところは探せば全国各地にある。あそこだけが問題なんじゃない。あそこが問題として取り上げられてしまっただけだ。見に行けば誰でもそれをあっさりと見ることができるから好奇心で集まってそそのかしていることのほうが問題なのだ。関西の一番でかい街にも若者が多く集まっていて社会問題になっていると聞いたことがある。もちろん、この街も例外じゃない。金と居場所を求めて街をうろつき、特定の場所に集まって声がかかるのを待つ。アナログマッチングタウンのほうが実はれない。だけど、この街には成哉がいる。普通の学校生活からはみ出した若者たちの八割ぐらいは成哉が支配下に置くか、その関連の企業や組織に所属していて健全な日々を送っている。やんちゃしたり朝まで飲んで騒いだり、殴り合ったりすることはあるけど、そんなのいつの時代にもいただろ? イマドキの若いものはってひとくくりにして決めつけるのも、そんな年上の人間もいつの時代だって変わらずにいるのだから変わらない。何も変わらないのさ。同じ日本人だからね。



 さてこの恋活、婚活。アプリやサイトによっては登録が無料だ。しかし恋愛は無料じゃない。これは当たり前のことなのにふと忘れてしまう。めちゃくちゃ重要なのに。不特定な出会いから始まる男女交際ならなおさら金がかかる。お金持ちの男が好かれるかどうかは別として女が集まるのは昔から変わらない。



 つまり君のことが好きだ、愛してるは無料じゃないということ。デート1回三千円とか考えたとして、十回君のことが好きだと言えばもう三万円だ。それが食事で五千円だとかなれば愛してると囁くだけで月五万円とか冗談じゃない。さも当たり前のように払っているけど、そんなのを当たり前としているから少子化は改善しないと俺は思うね。結婚したら助成金とか、子育て支援とか、子ども手当とか何とか政治家はバカみたいに言っているけど、それはふたりが結ばれたあとのゴールしたあとの話だろう? 人が人と出会い、互いのことを知り、愛を見つけるまでにはそれまでの時間と日常とそれまでの交際費がかかるんだ。誰もが運命の人を見つけられるわけじゃない。付き合ってくださいと告白して受け入れてもらえるわけじゃない。今のマッチングアプリは出会い系サイトと違ってお友達探し目的とか、趣味友達探し目的とか、そんな恋とも愛もノーセンキューな次元の出会いを求めていることも多いことを俺は調べて学んだ。出会い系サイトのほうはやることをやることが目的だったからある意味では分かりやすくてよかったかもしれない。その利便性ゆえに色々と悪用されて規制されたけど、嫌われることに怯えながら趣味や好きなことを共感してほしいだけの便利な人間を求めるだなんて、正直そっちのほうがわからないね。利用者は若くない三十代以上の人も多いと聞く。趣味サークルか教室にとか行けばいいのに。そこなら間違いなく恋も愛も求めている人がほとんどいないから自分と同じ好きなことが好きな人間に出会えるだろうと考えちゃうのは安易だろうか。



 さて、それでは成人ではない学生は恋愛までの過程をどう過ごすのか。高校生ならバイトオーケーな学校なら稼げるが、ダメなところは多い。総じて金はない。したがってゲキヤスファミリーレストランのドリンクバーで粘りながらお互いの気持ちを探り合うか、夜の公園に数多のカップルと共に過ごすかの二択だ。映画やアミューズメントパーク、ゲームセンター、カラオケに通えば財布から諭吉か栄一が消えていく。ゲームセンターなんてクレーンゲームに沼って取れない、取れないで、格好がつかないから取れるまで頑張って彼女にプレゼントしようとしたらひとつの景品に三千円とか平気で突っ込む。たとえ時間と小遣いに自由ができる大学生でさえそのアルバイト代は吹き飛び、入社一年目の社会人なら給与の半分が消えていく。その相手とうまく行けばいいが、さっきも言った通りそう簡単にはいかない。誰もが学生の頃から続く青春で塗りたくった恋愛ができるわけじゃない。幼馴染との甘酸っぱさを成就できるわけじゃない。そもそもの出会いも、深い友人関係からの発展も、劇的な進展も運命的な出会いもないままに大学生とか社会人に行き着いた機会損出の成人に選択肢はない。しかし待ち受けているのは出会い系サイトの末裔みたいなマッチングアプリを主戦場としている世の中だ。ただ飯女性ユーザーの餌食になって潰えるのが明白。恋も愛もマネーゲームに、金儲け市場に良いように使われて終わり。婚活パーティーに高い賽銭を投げ入れて、願いが叶うのを祈るしかあるまい。祈っているのが自分の欲望、願望、結婚したい! みたいな願いでは到底叶わないのは誰が見ても分かるけどね。



 俺はストーカー犯を探すことにした。幸せにできなくても生きるのを邪魔する理不尽な不幸を見逃すことができる俺ではない。この街で働く限り、俺に失敗は許されない。



 手紙の写真に書かれていたのは文字だけ。ワープロの文字だ。俺が生きていた時は既にワープロの時代ではなかったけど、これだけ年月が経っても通用する言葉ってすごいよな。



 特定できないように見えてこれだけでも情報は得られる。俺も一種の特定班だな。情報を元に相手を倒すための作戦を考えるのが俺の仕事。段取りや作戦を立てて、一人でできないときは仲間を頼る。責任を持たずに最初から人任せな奴は仲間から信用を手に入れられず、頼られことなく仕事が回ってくることはない。自分のやるべきことに常に向き合わねば。今回も有識者に話を聞きに行くところから始めるから、これまでと何も変わらないんだけどね。



 






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