第10話  ブリンブリン!?

― フラウ? 朝よ。起きて? ―



 おかあ……さん…?



― フラウったら、まだまだ甘えんぼね ―



 おかあさんが優しく頭を撫でてくれる。


 

 なつかしいな。


 

 夢の中でも、おかあさんが撫でてくれる手は、とても心地よくて――



「……ん……おかあ……さん……」


「……まぁっ。ふふっ……フラウおねえ様」



 …………っ!? サンドラちゃん!?


 ……やってしまった。



 「おかあ……」ぐらいで目が覚めた私は、どうしようもなく、そのまま目をつむっているしかなかった。



 はずかじぃよぉ……っ!!



 ……で…でも、このまま寝たふりしてれば、寝言ねごとってことでなんとか……。

 サンドラちゃんも、からかったりする子じゃないと思うし……。



「ふふふ……っ」



 サンドラちゃんが、引き続き頭を撫でてくれる。


 

 そっか、サンドラちゃんが頭を撫でてくれてたんだ。


 ……そ、それであんな夢を……!


 あ……でも、サンドラちゃん上手だな……。


 ……眠くなっちゃう。


 


「おーい、朝だぞ、アビー」



 ん? プッチくんも?


 あ、そっか、いつも朝起こしてるって言ってたもんね。



「アビー起きないの? プッチ」

「ああ。……しょうがない、アレやるぞ。サンドラ」


 

 アレ?


 

 サンドラちゃんが私から離れたので、薄目を開けて観察することにした。


 アビーさんのベッドに乗ったプッチくんが、アビーさんをぺちぺち叩いている。

 アビーさんは、というと、綺麗な寝顔で「すー、すー」寝息をたてながらびくともしない。



 何をする気だろう?



 サンドラちゃんが、アビーさんの杖を両手で掲げるように持ち上げた。


 するとプッチくんが――



「……今、エミリオの部屋に『ブリンブリン』なネエチャンが入っていったぞ。アビー」

「くろす(殺す)!!」



 起きた! ブリンブリン!?

 ……って何!?



 飛び起きたアビーさんが、視線だけドアの方へ向けながら右手をひらひら動かしている。



 まだ寝ぼけてるのかな?

 あ、もしかして杖を探してる!? 危ない……!


 それで、サンドラちゃんが……。

 

  



「あー、良く寝たっ」


「よく眠れたなら、すっきり起きてくれよ。アビー」



 大きく伸びをしたアビーさんに、プッチくんが文句を言っていると、



「魔導士は頭使うから眠りが深いのっ。ガキんちょが文句言うなっ」


「あはははははっ!! やめ…! やめろよ! アビー!」



 アビーさんに激しく、くすぐられてプッチくんがすごい体勢になっている。


 

「それにしても、フラウはまだ寝てるわけ? あたしより上いってるじゃない」



 しまった。何だか起きそびれちゃった。


 このタイミングでパチっと目覚めるのも変だしなぁ。



「もうすこし寝かせてあげましょう? アビー」



 サンドラちゃんが、また私の頭を撫で始めた。



「まぁ、アビーは支度に時間がかかるから早めに起こしてるだけだからな。フラウねえちゃんは、もうすこし後でいいだろ。アビー」


「はいはい。でも今日はいつもより出立が早いから、そのつもりでね?」



 そっか、たしかアビーさんのお師匠様に会い……に…………あれ……なんだか……眠たくなってきちゃった…………。


 

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