第2話   対人戦!?

「はぁ……。どぉうしよぉ」



 港湾都市ココガレーの街中、空を見上げた私は、そこからがっくり下を向きためいきをついた。青空から一気に石畳へ。石畳の隙間から草がのぞいている。



「ちょっと、思ってたのと違うなぁ……」



 ココガレーは、北部地域最大の都市だけあって、ギルドも北部本部を置いている。建物も立派で、人もお仕事もたくさん。


 なんだけど。


 大きな街だけに、魔物関連で寄せられる依頼も大がかりな物ばかり。とても一人じゃ無理だし、そもそも最低限の人数まで明記されていた。けっこうしっかりしてるみたい。

 一人で受けられるお仕事といえば、酒場や商家の用心棒から、港での肉体労働、馬のお世話から、果てはちょっとしたおつかいや、草むしりまで。



 私は、島のみんなを守る仕事がしたいのっ!!



 なぜか、受付のお姉さんがくれた「まんまる焼き」の袋を抱えて、ひとつ、ほおばりながら、あてもなく街中まちなかを歩いた。



 おいしいなぁ。そういえば、食べるのって久しぶり。



「あ、いけない。……これから、どうしよう」



 小さな仕事でもいい。魔物の脅威にさらされている人たちを、一人でも多く助けたい。



「もうすこし、小さな町に行ってみようかなぁ」



 魔物で困ってるのは、どこも同じなはず。

 小さな町なら、依頼内容も大きなものじゃないはずだし。


 よし、暗くなる前に移動しちゃおう!



 港湾都市ココガレーは、北部沿岸地域のほぼ中央にある。私は、そこから東の港町。エギモを目指すことにした。

 陸路だと、ちょっとかかっちゃうけど、途中に小さな町や村もあるから、宿もとれるし、依頼ももらえるかも。




 ココガレーを出てしばらく、街道を歩いていると、風に乗って金属の打ち合うような音が聞こえてきた。



「だれかが、魔物と戦ってるのかな!? 待ってて! うおぉぉぉぉっ」



 ちょっと坂になっていた街道を上ったとこで、遠くに何人もの人が見えた。「戦闘の音」がさっきより、はっきりと聞こえる。

 

 でも。


 魔物がいない。



「人同士で戦ってるんだ……」



 とりあえず、様子を見よう。隠れるところは……。



 私は身を低くして、近くにあった背の低い立木の陰に隠れた。


 私が島にいた頃も、人同士の戦闘はあった。ほとんどは、ただの喧嘩だけど、盗賊みたいな人たちもいる。大陸でも、戦争みたいなこともしていた。

 どっちも、人以外の脅威があるっていうのに、どうして人同士で傷つけあったりするんだろ。



「う~ん……どっちも盗賊には見えないけど……」



 戦っている人たちは、どちらも装備が整っていて、身だしなみも……たぶんわりとちゃんとしてると思う。



「やっぱり喧嘩かな? 関わるのは、やめたほうがいいよね」



 双方、人数は同じ。

 向かって左側の人たちは、前衛四人、後衛に魔導士らしき一人を置いている。



「わっ、魔導士も久しぶりに見るなぁ」



 魔法は、精霊の力を借りて奇跡を起こすもの。

 でも、大陸では魔法を使う人は一人もいなかったし、ちょっとだけだけど島では魔法が使えた私も、向こうでは使えなかった。

 島にいたころは知らなかったけど、精霊は島にしかいないみたい。

 


「相手の魔導士もすごい。私と、そんなに年、かわらなそうだけど」



 若い女の人。次々魔法を打ち込んで、左側の魔導士は防ぐのに必死みたい。



「それに……前衛まえの、あの三人。すごく強い」



 一人は、不思議な兜をかぶった人。幅の広めの長剣を使ってるけど、対人戦用の戦い方なのか、すごく小回りの利いた使い方をしている。

 その両脇に、フードを目深にかぶったローブ姿の「小さな」二人。こども……なのかな?

 手前の子は三叉槍トライデント、奥の子は戦槌ウォーハンマーを使ってる。兜の人を挟んで距離はあるけど、まるで連携してるみたいな動き。

 戦槌ウォーハンマーの子は、ローブのフードのところに大きなリボンを付けている。おしゃれさん?


 そして……。

 

 

「……ん? あれ? わわわ、あれって回復魔導士かな!?」



 魔導士の女の人の横に、体の大きなローブ姿の男の人がいる。

 ローブには、「南十字星」という花の紋章。

 あれって、たしか上級回復魔導士の証……だったよね。



「大きな街以外で見るのは初めて……」



 回復魔導士は「今では」貴重な存在だから、基本的には大きな街にしかいないはず。

 それこそ、こんな少人数の冒険者の一員で、なんて……。


 あの人たち、何者?



 そんなことを考えていたら、なんだか変な感じがした。



 あれ? なんだろう。



 たぶん手加減している動きだけど、右側の人たちが圧倒的に押している。

 左側の人たちは防戦一方。隊列を維持したまま、じりじり後退していて……。



 左側の人たちが後退する先に視線を送ると、岩場があった。

 小さいものから、大きいものまで、ゴツゴツと、ところどころ飛び出してる感じ。



 右側の人たちが、足場の悪い岩場に追い込んでる……?


 でも……なんだか、左側の人たちが誘ってるように見えるけど……。




「……伏兵だ」




 回復魔導士が「貴重」な理由。それは、「なり手」が少ないから。


 単純に、「なるのが難しい」っていうのもあるけど、一番の理由は死亡率が高いこと。


 ずっとずっと昔の回復魔法は、「自然治癒の速度を魔法で速める」までのもので、"癒し"の魔法って呼ばれていた。

 あくまで「自然治癒」の範囲内だから、怪我の程度によっては治らないものもあるし、治すこと自体に怪我をした人の体力を要するから、急激に治そうとすれば死んじゃうこともあった。

 

 でも、二百年前、魔王が倒された後、回復魔法の研究が進んで「自然治癒の範囲」を超える「"治癒"の魔法」が使えるようになった。

 時間はかかるけど、失った身体の部位を元に戻したり、普通なら助からないような大怪我だって治せちゃう。

  

 

 だから戦闘では、回復魔導士は真っ先に狙われる。


 

 そんなわけで、今では回復魔導士は「もしもの時のための人」として、大きな街にしかいない存在になっている。

 加えて、回復魔法研究の進歩で"癒し"の魔法ぐらいなら使える人がたくさん増えたから、「危険」で「難しい」回復魔導士を目指す人は滅多にいなくなった。

 

 

「きっと左側の人たちも、あの人を先に始末するつもりなんだ……!」



 ……うぅ~…っ……関わらないつもりだったのにぃ……。


 気が付くと私は、立木の後ろから飛び出し、駆け出していた。

   


 

 







 

 

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