第3話   モーニングスター!?

 あの人が危ない……!


 まったく知らない人たちの争いに、事情も知らない私が飛び込むのは間違ってるのかもしれないけど……。

 でもでも、回復魔導士を狙うなら、たとえ命を奪うまではいかなくても、魔法が使えなくなる程度には傷つけるはず。

 その後も戦闘が続くことを考えれば、たとえ"癒し"の魔法を使える人がいても、終わったころには手遅れになる可能性が高い。


 部外者だけど、目の前で人が死ぬのを見過ごすなんて、できないよ……!



 私が駆け寄る最中にも、戦闘の場は、すでに岩場に移っていた。

 私はちょうど、回復魔導士さんたちの後ろから近づくかたちで走っている。


 間に合わないかも!? 右から? 左から? どっち……!?


 普通なら回復魔導士さんがいる側の右から。

 でも、右側には人が隠れられるほどの大きな岩がない。


 左側には、すこし離れてるけど大きな岩があって、あれなら十分隠れられるはず。


 前衛の三人はすぐに動けないし、左側にいる魔導士さんを抜けて一撃を入れるのは難しくない。



「よーし……!」



 左の岩に注意を払いながら、左側の、魔導士さん側に向かって走る。



 動いた……!



 左の岩の陰から、短剣を構えた軽装の一人が飛び出した。

 私も走りながら剣を抜く。

 傷つけるつもりはないけど、盾で防ぐだけじゃ守り切れないかもしれないもんね。


 

「……っ!? ちょっと、あんた何……ッ!?」



 私の気配に気づいた魔導士さんが振り向いて声を上げた。



「伏兵! 気を付けて! 加勢しま…っ……す!!」

 


 最後のほうは、身体ごとぶつかってきた「伏兵の人」の短剣を盾で受けて声が途切れた。

 

 間に合った……!


 ……でも。


 「伏兵の人」は、私を力押しに押してきてるけど、特にそれ以上の動きを見せる気配がない……。



 あれ……?


 この人、私を見てない。


 ……どこを……。



 つい、「伏兵の人」の視線の先を追った私に見えたのは、驚いたような怒ったような顔の魔導士さんと、その後ろで、ちょっとだけ驚いた顔の回復魔導士さん、そして、さらにその後ろで高く宙に舞い上がった布。



「もう一人! 後ろっ!!」



 とっさに上げた私の声に、回復魔導士さんが振り返ったころには、短剣を低く構えた「もう一人の伏兵の人」が刺突体制で迫っていた。 


 魔導士さんの悲鳴。

 

 鈍い音の後、血が地面にボトボトと音を立てて落ちた。



「そんな……。……えっ…? …しまっ……!」



 気が抜けた瞬間、私が抑えていた「伏兵の人」が、私を抜けて回復魔導士さんの背中を狙って走り出す。



「危ないっ! 逃げ……っ」



 振り向きざま、とっさに声を上げた私の横を、「伏兵の人」が、すごい速さで飛んで行った。


 瞬間、遅れて、生暖かいものが顔を打ち付ける。



「……え?」



 私の視線の先には、右腕を振り上げた回復魔導士さん。


 その右手には、トゲの付いた鉄球から血を滴らせた、柄の太い武器が握られていた。

 回復魔導士さんの足元には、「もう一人の伏兵の人」が顔のあたりから大量に出血した様子で崩れ落ち倒れていた。

 その真上に位置した左手にも、同じ武器。こちらも血で濡れている。



 も…………も……モーニングスタァァァッッ!?

 


 血濡れの戦棍モーニングスターを手に、回復魔導士さんが優しい笑みを浮かべた。

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