第4話 親友、かぶっちゃってますけど!?
「キミ、大丈夫かい? 怪我は?」
「……え……あ、はいっ。だいじょうぶです!」
「よかった。……すまない。汚してしまったね」
申し訳なさそうに言う回復魔導士さんの視線を追って見てみると、全身に血が飛び散っていた。
ん? あ、すごい返り血。……あれ、でも、これ返り血っていうのかな。
さっき浴びたのは「伏兵の人」の血だったみたい。
「助けてくれて、ありがとう。僕は、エミリオ・ベオトーブ。回復魔導士だ。こちらは、魔導士のアビゲイル・ワイズさん」
「い、いえっ。助けたなんて、そんな……っ。あっ、私は、フラウワ・ブーガンヴィルっていいます!」
動揺したあげく、最初の「伏兵の人」を抑えられなかったわけだし、「助けた」なんていえない。なんだか申し訳なくて、恥ずかしくて、エミリオさんとアビゲイルさんに、無駄に勢いよく頭を下げた。
「あんたっ! いきなり後ろから剣抜いて突っ込んできて! あやうく、吹っ飛ばすとこだったじゃない!」
「ご、ごめんなさい! 危ないと思って、つい慌てちゃって」
「まあ、まあ、アビゲイルさん」
アビゲイルさんが杖を振り上げてプンプンしてるのを、笑顔のエミリオさんがとりなしてくれた。
うぅ……っ、恥ずかしい。ごめんなさい。
「おーいっ。戦闘中だぞ。のんき過ぎるだろっ」
声のほうに視線を向けると、不思議な兜をかぶった長剣の人が呆れた様子で、私たちのほうと、戦っていた相手の五人のほうとを交互に見て言った。
「お前らも。もう詰んだだろ? 終わりでいいか?」
「……ああ。降参だ」
相手の人たちも、武器を下ろして、もう戦う気はないみたい。
どういうことだろ。
でも、終わったみたいでよかった。
相手の前衛四人は傷だらけ。痛そう。でも、傷自体は浅いみたい。
あ……さっきの「伏兵の人」たちは……!?
見回すと、いつの間にか、エミリオさんが「伏兵の人」たちに回復魔法をかけていた。
こっちは、けっこうすごい傷……うぇぇ…っ。
「す……すまん」
「いやいや……僕も、おもいっきり殴っちゃって……はは」
「伏兵の人」たちの怪我は、みるみる治っていった。
すごい。あれが"治癒"の魔法なんだ。
「いやぁ、キミにまで手伝ってもらってしまって。助かったよ」
「いえ。あ、あの……さっきのって、いったい……」
相手の前衛の人たちには私が"癒し"の魔法をかけて、すっかり傷の癒えた相手の人たちがお礼の言葉を残して去っていった後、私はエミリオさんに訊ねた。
「エミリオを賭けた勝負ってやつだよ。『俺らが勝ったら、そいつをもらう』ってな」
「え?」
答えにくそうにしているエミリオさんの代わりに、不思議な兜の人が答えてくれた。
よく見ると、兜は……。
「あの……それって、ケンケンですか……?」
「お? 知ってんのかっ? そう! こいつはオレの親友だったんだ!」
親友……。……親友……?
「ケンケン」は、王国時代から人々の移動手段や戦闘補助に使われていた、大型の犬……みたいな生き物。
帝国が島を治めるようになってからは、大陸から馬が持ち込まれて、移動手段としてのケンケンの需要はなくなったけど、村や小さな町なんかでは、対魔物用として飼っているところも多かった。
でも……親友の頭、剥製にして、頭にかぶちゃってるけど……。
「そしてオレは、ジョシュ・バンクス! 英雄、シルグレの再来だ!」
ババーン! って感じでポーズを決めたジョシュさんを前に、私の心は不思議と 凪の海のようで、頭の中も白い砂浜が風にさらさらと吹かれていた。
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