モーニングスター 戦棍の回復魔導士

黒舌チャウ

第1話   配属早々!?

「か……解散? 解散って、どういうことですか……!?」


「我が第五師団は、帝国領ウィスタリアより撤退。なお、現地採用及び当該帝国領出身者に関しては、師団に従い撤退するか、現地にて解散するか、任意とする。

以上が、軍司令本部の決定だ。……もう一度、聞くか?」



 私に対応してくれた兵站部の方が、机の書類をさばきながら、最後だけ私を見て言った。

 まわりは書類が舞うほどの大騒ぎで、さっきからいろんな人が駆けまわったり、大きな声をあげてなにか言い合っている。



「い、いえ……結構です。ぁあのっ、でしたら他の駐屯部隊に転属はできませんかっ?」


「あー……ちょっと、待て……。……すでに撤退を済ませた第三師団が、一部を残してるって話だー…が……無理だな。第三が残したのは、臓物イェクル旅団だ。

あそこは島のもんは入れんだろう」



 兵站部の方が書類の山から一枚の紙を手に取り、教えてくれた。

 

 ……なんて名前! たしかに入りたくない……。


 でも。



「あの……私、この島の人たちを守りたくて……それで志願して軍に入ったんです…! やっと、訓練を終えて島に帰って来たのに、このまま本土に戻るなんてできません…っ」


「俺も、ここの生まれだ。気持ちは分かるがな。そもそも、こんな時に配属命令が出るなんて、上はよっぽど混乱しているんだな。

……そんなにひどいのか? 向こうは」


「あ……はい」



 帝国のある大陸では、ずいぶん前から、感染者が次々と人を襲う謎の奇病が蔓延していて、すでにいくつもの国が滅んでいた。


 およそ百年前、帝国がこの島に侵攻したのも、奇病から逃れられる新天地を求めたってことらしいけど……。

 


「……そうか。こっちは魔物。向こうは感染者デッドボディ。まったく、頭の痛い話だな……」


「あ、あの……」


「あぁ。……そうだな、ここに残って戦いたいっていうなら、ギルドにでも登録するといい。島中、どこも魔物関連の困り事ばかりだ。仕事には事欠かないだろう」


「ありがとうございますっ」


「俺は、家族が向こうでな。師団と戻ることになるが、この島のことが気がかりなことには変わりない。俺の代わりに……ってわけでもないが、がんばってくれ」


「はい! がんばります!」



 兵站部の方は、すこし微笑むと立ち上がって姿勢を正した。



「よし。最初で最後の命令を伝える。第五師団第二連隊、第三歩兵大隊騎士科中隊所属ぅ……えー……フラウワ・ブーガンヴィル。これより、この地に留まり、当該地域の人々のため魔物殲滅の任を命ずる!」


「はっ!」



 最敬礼した私に、兵站部の方が笑顔で応えてくれた。






「いい人だったなぁ。本土の人って恐い人が多かったけど、やっぱり島の人はいい人が多いよねっ」



 えへへ。ちょっとお金も包んでもらっちゃった。



 師団本部を出た私は、教えてもらったギルドの建物を目指して歩き出した。

 

 「港湾都市ココガレー」、王国時代から北部地域の港町の中心として栄えたこの街は、帝国領となった今でも大陸と島をつなぐ玄関口として、たくさんの人で賑わう活気のある街だ。


 私もかつて、ここから大陸へと渡った。



「……でも、師団が撤退したら、ここもさびしくなっちゃうのかな……?」



 撤退の準備で忙しいのか、どこか慌ただしい街を歩いていると、



「せんぱぁぁぁい……っ!!」



 知らない子が、遠くからすごい速さで走ってくる。


 かわいい子だなぁ。……え、速い。危ないっ。避け……。



「先輩っ! 探しちゃいましたよぉ! もぉ、どこ行っちゃったのかと思いました!」


「え……私……? え…っと……」



 ……誰だろう?



「私です! ペスカ・パラルです! 帝国兵学校で、一学年下の!」


「あっ! そうだったんだ!」


「もっとも、隠れて先輩のこと見てただけなので、お話するのも初めてですけど!」


「…へ……へぇ……」


 

 どうりで、見たことないと思った……!



「先輩が、配属先をウィスタリアにするって知って、私も、こっちに配属希望を出したんです! ちょうど良さそうな部隊もあって」


「えっ! そうなんだ!? あ……でも、私、もう帝国軍所属じゃないんだ」


「……え?」



 私はペスカちゃんに、さっきまでの事を話した。



「……そんな。せっかく先輩と楽しく討伐ができると思ったのに……」


「ごめんね…? でも、軍の所属じゃなくなっちゃったけど、私もこれからギルドに所属して、この島のためにがんばるつもりだから」


「そうですよね! 先輩は、この島にいるんだし! 私も配属先でがんばります!」



 そう言うと、ペスカちゃんはするすると私の身体に腕を回した。



「ん? んんっ!? ペスカちゃん!?」


「しばらく離れ離れになっちゃうんで……あぁぁむ…っ」



 私に抱きついたペスカちゃんが、首すじに吸い付いてきた。



「……あぅ……ちょっ……ペスカちゃん……?」



 うぅ~……っ。なんかゾクゾクする。



「……ふふっ、しっかり付きました、跡」


「も、もぉぉ。ペスカちゃんっ」


「これで、先輩は"私の"……ですよ?」



 ……そうなの!? そういうものなの!?



「じゃあ、私は配属先に急ぎますので!」


「あ、うん」


「先輩? 浮気したらダメですよ?」



 そう言って首すじの跡にキスをすると、ペスカちゃんはものすごい速さで走っていった。


 ……やっぱり、そういうものなの?



「あれ? でも、ペスカちゃん学年下って言ってなかったっけ……」



 私、卒業したてで赴任してきたんだけど。

 飛び級なのかな?



「はっ!? 言ってる場合かっ! 登録しに行かなきゃ!」



 なんだか配属早々、大変なことばっかりだったけど、これからがんばらないと!








 



 



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