第8話 何で知ってるんですか!?
「それじゃ、フラウ嬢の『森の狼』加入を祝して!
ココガレーに戻った後、皆さんが私のために歓迎会を開いてくれた。
泊まることになった宿はココガレーでも一番大きな宿で、酒場になっている一階部分はたくさんの人で賑わっている。
こんなところに泊まれるなんて、もしかしてすごいパーティに入れちゃったのかも……!?
「皆さんは、ココガレーを中心に活動してるんですか?」
「いや、僕たちは島中を巡って旅をしているんだ。どこも魔物で大変だからね。できるだけ、小さな町や村にも寄ることにしているよ」
すごい! 私に、ぴったり!
え、でも、北部だけじゃなくて島中?
「それって、けっこう大変なんじゃ……縄張りとか……」
冒険者のギルドは各地域に本部を置いていて、冒険者たちは最初に登録した地域を動くことはめったにない。
まれに各地を転々とする冒険者もいるけど、たいていは他所で問題を起こした人や荒っぽい稼ぎ方をする人で、そういう人たちを警戒する意味合いも込めて、各地、よそ者に対する目は厳しい。
「ふっ。オレたち『森の狼』は、島中に顔が利くんだよ」
き…急に、シブい声で……。
「そ、そうなんですかっ!? すごい!」
「それに、オレとエミリオは、やらなきゃいけないことがあってね」
「やらなきゃいけないこと……ですか?」
急にシブいジョシュさんは、微笑みを夕日にさらしてグラスを傾けている。
……また、変な人モードなのかな。
「僕とジョシュは、もともと東部の生まれでね。登録も東部地域なんだ」
「急シブ変な人モード」なジョシュさんに戸惑う私を見かねてか、エミリオさんが話しかけてくれた。
「え? あ、私も東部の生まれなんです!」
「当てようか? サラケシムだろ?」
あ、ジョシュさん、もとに戻った。
……え? なんで?
「な…なんで知ってるんですか!? 怖い!!」
怖い!!
「気持ち悪っ!!」
アビーさんも食事の手を止めて、身震いしながらジョシュさんに警戒の目を向けている。
「こらこら、待て二人とも。"ブーガンヴィル"っていやぁ、かの侯爵家ブーゲンビリアの分家だ。そして代々治めるは、サラケシム。東部生まれで、ちょっと歴史に詳しい人間なら常識だぞ」
「そ、そうだったんですか?」
知らなかった。えぇぇぇ……。
「まぁ、王国が滅んだ時に爵位は召し上げになったから、当事者のフラウ嬢が知らなくても不思議はないさ。それに…」
「それで『フラウ"嬢"』だったわけね。フラウってお嬢様だったんだ?」
「ぉおお嬢様なんてっ。サラケシムは、ちょっと大きいだけの村で、私の家は村長さんをしてただけなんです」
「十分、お嬢様じゃない」
「……アビー、話は最後まで聞け。それに、サラケシムは六年前に魔物に"のまれた"んだ。フラウ嬢が家の歴史を教わる間もなかったのかもしれない」
「……そか。ごめん。あんたも苦労してたんだね」
「い、いえっ、そんなっ」
村のことも、お父さん、お母さんのことも、今でも思い出すと悲しいけど、皆さんに変に気を遣わせたくない。
「あたしもさ、小さいときに村がやられて、師匠に拾われたの。……まぁ、親とか、村のこととか、ほとんど記憶にないくらいなんだけどさ」
「そうだったんですね……」
……そう。そうだよ。こんな思いをする人が、すこしでもいなくなるように私は……。
「せっかくの歓迎会なんだ、辛い話はここまでにしよう。そもそも、ジョシュがいけないんだぞ?」
「はいはい、悪かったよ」
「サイテーだな。ジョシュ」
「今日は外で寝たら? ジョシュ」
「……そこまで言われることは、してないだろ。……あっ…こらっ、やめろっ。行儀悪いぞっ」
プッチ君とサンドラちゃんが、チキンの骨を投げつけてる。
ちょ…ちょっと、かわいそう。
…………すごい量。
モーニングスター 戦棍の回復魔導士 黒舌チャウ @-chau-chau-
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。モーニングスター 戦棍の回復魔導士の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます