第7話 森の狼!?
「ところで、フラウ嬢はこんなところを一人で、何してたんだ? 兵学校出ってことは、軍の所属なんだろ?」
ジョシュさんが、アビーさんに投げつけられた杖を返しながら言った。
「それが……」
私は、今日起こったことを話すことにした。
ペスカちゃんのことは、部分的に省いたけど。
「……はんっ。"第五"が撤退か。いつかは投げ出すと思ってたが、持ったほうだな。それより……」
ジョシュさんが、難しい顔でエミリオさんを見る。
エミリオさんも、なんだか真剣な顔つきでジョシュさんに視線を送っていた。
なんだろう?
それより、ジョシュさん、なんだか急にワイルドな雰囲気。さっきまで、草の上を転がってた変な人だったのに。
「その、後輩ちゃんも気になるな。配属先については、はっきりとは聞いてないんだな?」
「あ…はい。『ちょうど良さそうな部隊』が見つかったみたいで……それ以上のことは」
「……まぁ、各役所は残すような話だったし、役所詰めって線もあるが……。いや、あれはどちらかと言えば"私兵"に近いからな……」
相変わらず、ジョシュさんとエミリオさんの間には、こわいくらいの緊迫感が漂っている。
……な…なんか、気まずい。……って、あれ?
場の空気に困って、アビーさんを見ると、退屈そうに杖を眺めている。プッチ君とサンドラちゃんは、"ちょうちょ"を追いかけて楽しそう。
あれぇ……私だけ、この気まずい空気に巻き込まれてるぅ……?
「……それで? フラウ嬢は、これから行く当てでもあるのか?」
おぅ…っ、意識が向こういってた。
「特には……。先ほどお話した通り、小さい町にでもいってみようかと思ってたところで……」
「なら、オレたちと来ないか? さっきの動きも悪くなかったし、これも何かの縁ってやつだっ」
「え……っ……い、いいんですか……っ!? 私、さっきも全然お役に立てなかったのに……」
「いや、先ほども僕たちは、直前までフラウさんの接近に気付かなかったほどだからね。さすがは、兵学校出身だけはあるよ」
エミリオさんも、さっきの真剣な顔つきから、優しい表情に戻っている。
え、えぇぇ? そうかなぁ。なんだか照れちゃう。
「あたしも賛成。直掩のナイトが、ほしかったところだし」
アビーさんっ。
「おいらは、とっくに、いっしょに行くもんだと思ってたぞ。ジョシュ」
「ええ。フラウおねえ様が御一緒してくれるなら、きっと楽しくなるわ。プッチ」
プッチ君、サンドラちゃんっ。
「だ、そうだ。どうだい?」
「あ、はいっ! 私なんかが、どれだけお役に立てるかわかりませんけど、精一杯がんばります!」
いろんな感謝の気持ちを込めて頭を下げた私に、皆さんが優しい笑顔で応えてくれた。プッチ君とサンドラちゃんも、交互に飛び跳ねて喜んでくれてるみたい。
うれしい。正直これから不安だったけど、こんなに早く仲間ができるなんて。
「よし! じゃあ、我が『森の狼』に新たな仲間が加わったことを祝して、フラウ嬢の歓迎会だ!」
「森の狼?」
「そう! このパーティの名前だ!」
ジョシュさんが、くるっと回った後、ポーズを決めて言った。
森の狼……。
……なんていうか……ちょっと
「ああ、気にしないで。ジョシュの趣味だから」
「何度言ったらわかるんだ、アビー! 趣味じゃない! 英雄シルグレに、ちなんだ、渾身の! 魂の! 闘志の! 熱き心の叫びの名前なんだッ!!」
言葉の切れ目ごとに激しくポーズを決めて、最後は両ひざをついて天を仰ぎながら絶叫するジョシュさん。
やっぱり変な人で、ちょっと安心。
「シルグレ……って、たしか、『隻眼』の勇者一行の戦士……でしたっけ?」
ずっとずっと昔の「お話」。
狼の姿をした、大剣使いの戦士、シルグレ。
私の村でも、おじいちゃん、おばあちゃんが、「昔は、獣の耳や角の生えた人がいた」って話をしてたけど、それすら、伝え聞いたもので、みんな「おとぎ話」だと思っていた。
「……おおっ!! そう! そうなんだ、フラウ嬢!! 実はオレの御先祖様が、英雄シルグレと関わりがあってね! 代々、我が家に言い伝えが…」
「早くいこー。あたし、もう疲れた」
「おいら、おなかペコペコだよ。エミリオ」
「武器の手入れが先よ? プッチ」
「はははっ。今日はフラウさんの歓迎会だから、豪勢にいくとしようかっ」
あ、えぇぇっ!? 皆さん!?
「……それでな、フラウ嬢。この御守りの由来は……」
まずい。きっと長いやつだ。
エミリオさんたちが、どんどん遠ざかる。
お…置いてかないでぇぇ……っ!!
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