第6話   ツンツン魔導士!?

「ちょっと! なんで、この子には『ねえちゃん』とか『おねえ様』なのよっ。あたしは呼び捨てじゃないっ」



 ぴょんぴょん飛び跳ねながら、掲げた武器を見せてくれるプッチ君とサンドラちゃんに、魔導士のアビゲイルさんがプンプンしながら声を上げた。



「え? だって『ねえちゃん感』ないもん。アビー」

「フラウおねえ様は、『おねえ様』って感じがするもの。アビー」


「んが…っ!」



 ……んが?

 

 アビゲイルさんは、しばらく"わなわな"した後で、私に近づいてきた。

 ちょっと怖い。



「あんた、年は?」


「えっ、あ、十八です」



 アビゲイルさんが、バッ! っと腰をひねって、プッチ君とサンドラちゃんを見た。



「『ねえちゃん感』は、数字じゃないんだよなぁ。サンドラ?」

「そうね。そもそも、あんなことをしている時点で『おねえ様』ではないもの。プッチ」


「ぐぎゅぎぎぎ…………っ!!」



 わわわ……なんか、どこからか、すごい音が鳴ってる……。

 


「あ……あの……」

「何ッ!」


 

 怖い…っ!



「さっきは……その、いきなり飛び込んでしまって、すみませんでしたっ」


「……ふんっ、まぁいいわ。だいたい、あんたが来なかったら、あたしがやられてたかもしれないんだし」



 けっこういい人…? ちょっと怖いけど。




「あん? アビー、気付いてなかったのか?」


「え?」



 不思議な兜……というか、親友の頭の剥製をかぶったジョシュさんが、寝転がりながら言った。

 

 なにしてるの? あの人。



「おいらたちは、あそこに隠れてるの分かってたぜ? アビー」

「あの人たち、誘ってるのバレバレだったもの。 アビー」


「……え?」



 アビゲイルさんが、エミリオさんを見ると、エミリオさんも気まずそうに頭をかいている。



「み…みんな気付いてたの…っ!? 気付いてなかったの、あたしだけッ!?」


「そーゆーことだなぁー」



 ジョシュさんが、草の上を転がりながら言った。


 ……本当に、なにしてるんだろう。あの人。

 


「ぎっ!!」


「あぶねー!!」



 アビゲイルさんがものすごい形相で投げた杖が、ジョシュさんの転がる先に、ものすごい音を立てて突き刺さると、ジョシュさんは、この世の者とは思えない軌道で転がりながら杖を躱した。


 なに、あれ。



「あの……」


「……なによっ!?」



 ちょっとだけ涙目のアビゲイルさんに睨まれた。う……怖い。

 ……でも。



「あぅ……私、実は、みなさんが戦ってるのを、あの坂の上からしばらく見てたんです。それで、みなさんの中に回復魔導士さんがいるのに気付いて、そしたら、岩場に向かってるのが見えて……。それで伏兵がいるんじゃないかって気付いたんです」


「それがなによ」


「えと……私、ちょっと前まで軍の兵学校にいたんです。あ、でも、ちゃんと実戦も何度も経験してて……。それでも、上からしばらく見てて、ようやく気付けたんです。……だから、戦闘中に気付くなんて、とても難しいことだと思います。

それに、アビゲイルさんは、あれだけ魔法を連発して援護してたわけですし……あの……魔法すごかったですっ。私、あんなにすごいの見たことありませんっ。それに……」

「あぁぁ、もういいってば!」



 ……おこられてしまった。



「……あんた……名前なんだっけ」


「あ、フラウワ・ブーガンヴィルですっ」


「あたしは、アビゲイル・ワイズ。……アビーで、いいから」



 そう言って、そっぽを向いたアビーさんが、ちょっと頬を膨らませた。

 ちょっと怖いけど、すごくキレイな人。



「はいっ、アビーさんっ。私のことも、フラウって呼んでくださいっ」



 よかったぁ。やっぱり、いい人かも。



「……ねぇ。ところで、あんた」


「は……はい?」



 アビーさんが、急にこっそり話しかけてきた。



「エミリオは、あたしのだから。狙わないでね」



 急に何事っ!?



「え…っ…、あの、私そういうつもりは……。それに、エミリオさんのこと、まったく知らないですし……」


「ふぅん…………ん?」



 アビーさんの疑いの目が、私の首筋で止まった。



「なぁんだ。そういうことねっ」


「え……? あの……」


「気に入ったわ、フラウ!」


「は…はぁ……」



 なんだか、よくわからないけど、アビーさんとも仲良くなれそうでよかった。



  

 

 

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