第6話 これはデート?
初夏とはいえ暑いものは暑い。汗だくになった結愛ちゃんは少し身支度を整えたいとのことで、夕飯は駅で待ち合わせということになった。私はそこまで汗をかかなかったので、ボディシートで軽く拭いて、そのままの格好で更衣室を出た。
「あっ、美緒!」
ちょうど男子用更衣室から出てきた彼氏と鉢合わせる。
「おつかれ、ちょうど終わったんだ」
「おう。一緒に飯食わん?」
今日に限って。そんな言葉がぴったりだ。
学生は付き合うとすぐ半同棲し始めるけれど、私たちはまだそこまでではなかった。だから毎日ご飯を一緒にとか、そういうわけではなく、お互いの生活がしっかりある。
「ごめん。今日、予定入っちゃってるんだ」
「あ、そうなん。友達?」
些細な問いだ。別にこれくらいの質問、互いに当たり前にしている。それでも、敏感になってしまう。だめな傾向だ。
「友達っていうか……結愛ちゃん?」
彼氏からしても意外なところだったのか、綺麗な二重の目が丸くなる。
「もしかしてこの前ので距離縮まった?」
「たぶん……。ごめん、嫌だったら断るよ」
「嫌ってなんで?」
彼氏がきょとんとした顔で聞き返してくる。
「結愛ちゃん、やっとサークルの人間に心開いてくれたならいいことだし、美緒も後輩と仲良くするのはいいことじゃん」
「そ、うだよね! うん、後輩と仲良くできるの、私も嬉しい」
微笑んでみる。自然な笑顔になっているはずだ。ミミズはこういうところでも目立たない。自然な態度になれるのだ。
「てことで、夜は結愛ちゃんとの先約がありましたってことで。明日は一緒に食べない?」
「おう。そうしよ」
「うん、ありがとう。じゃあ、行くね」
ひらりと手を振る。
「ん! 今度は三人で飯行こ! それか他の後輩誘ってもいいし!」
「うん。それもやろうね」
爽やかな笑顔の彼氏から目を逸らす。ついでに結愛ちゃんとお近づきになりたいのかな、なんてかわいくない考えには蓋をする。足早に地下鉄の改札に向かった。
駅のホームでも、電車の中でも、待ち合わせ場所についても、結局結愛ちゃんのことを考え続けてしまう。
結愛ちゃんのような美人は、芸能人みたいなもので、男性であれば誰でも近づきたくなるのだろう。それでも彼女という立場からすれば、少し、嫌な気持ちになる。
それに告白されてから、変に意識してしまうから、誰かの些細な言葉も変に捉えてしまう。周りからの視線だって居心地が悪い。
そう考えると、こうして結愛ちゃんと仲を深めるのは、私にとってあまりいいことではないのかもしれない。いい子なのは知っている。それでも告白さえされなければな……って考えてしまう私は、酷い人間だ。
だけど、私みたいな人間が、あんな美しい人に釣り合わないことも事実だと思う。
「美緒さん、お待たせしました」
本当は駅前を見て回るつもりが、色々考えているうちに結愛ちゃんが来てしまった。
「お疲れ、全然待ってないから大丈夫だよ。どこか行きたいところある?」
試しに聞いてみると、結愛ちゃんはポケットからスマホを取り出す。綺麗な指先で何回かスワイプし、私に画面を見せてくる。
「ここどうですか?」
そこは最近できたばかりのカフェで、ディナータイムも営業しているところだった。ドリンクだけでなく、ピザやパスタなどの食事も絶品とのことで、気になっていた。
「そこ私、行きたいと思ってた!」
「私も行きたいと思ってて……」
結愛ちゃんが嬉しそうに笑う。こういうカフェにも興味あるんだなぁと、ぼんやり思った。
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