第4話 告白
「好きです」
耳に入った音の連なり。
すき。スキ。隙。鋤。
あまりにも予想外過ぎて頭の中でその音をうまく変換できない。
私は今、どんな顔をしているのだろう。顔は赤い? 耳は熱い気がする。でもそれは驚きで、だって私には彼氏がいて。そもそも結愛ちゃんがなんで。しかもこのタイミング。え、彼氏帰ってくるんじゃない? ここ見られたらどう思うかな。だけど勇気を出してくれた相手を無下にするわけにも……。
「驚かせてしまって、すみません」
「あ、いや……」
結愛ちゃんはもう口ごもらない。なんだか心を決めた、みたいな顔に見える。私もようやく声を出す。結局大した意味をなさない言葉にはなったけれど。
「美緒さんと彼氏さんのことを探るような回りくどいやり方は卑怯な気がして。だからいっそ伝えてしまおうと思いました。自分勝手ですみません」
「自分勝手……って……結愛ちゃんは優しいね」
まだ半ば思考が停止しているのか、意味の分からない感想を述べてしまう。私の下手な返答に結愛ちゃんは小さく笑う。
「ありがとうございます。美緒さんにお相手がいるのは重々承知ですので、正々堂々奪いに行きますね」
なんだ、この殺し文句。この世の宝かってくらいの美人から、こんな言葉を投げかけられる私はいったい何者なのだろう。道端のミミズじゃあ無理ではないか?
結愛ちゃんは誠実な子だ。だから嘘じゃないとわかる。恐れ多い。そんな感情が噴き出してくる。きらきらした結愛ちゃんはもっときらきらした人が似合う。私なんかが隣にいていいわけがない。だって今にも芸能人にだってなれそうな美人さんなのだ。
「あの、結愛ちゃん」
「優しいのは美緒さんの方ですよ。返事は大丈夫です。わかっていますから」
結愛ちゃんの視線は変わらずまっすぐだった。悲しみや寂しさはない。本当に正々堂々くるのだろうと思わせる。
続けて言葉を投げようとしたら、軽く手で制される。視線の先を見ると、彼氏が戻ってくるところだった。
「お待たせ!」
「おかえりー汗流したの?」
先ほどの焦りはどこへやら。平然と切り替えている自分自身に少し驚いてしまう。
「おう! でもまだ練習するぞ! 結愛ちゃんもいける?」
「はい」
結愛ちゃんもいたって平静な態度だった。いや、結愛ちゃんはいつでもそうかもしれない……。
ああ、このままさっきの話もなかったことに。その方が平和な気がするから――
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