第2話 特別な子
「結愛ちゃん、そりゃないわぁ」
「いや、本心です」
「だとすると余計に厳しいって」
一気に中の会話が聞こえてくる。思ったとおり、彼氏と結愛ちゃんだった。結愛ちゃん、宮里結愛さん。今年、プレーヤーとして入部した一年生。
「お疲れ様ー」
挨拶をしながら、部室の中に入っていく。結愛ちゃんと目が合う。私は思わず息を飲む。
やっぱり、綺麗。
美人という言葉はこの子のためにあるんだと思えるくらい整った見た目だ。切れ長の瞳、左右対称の二重、細く通った鼻筋、艶やかな唇。毛先は軽く巻いてあって、運動をするからかポニーテールに結ってある。
こんなに綺麗なのに、結愛ちゃんはあまり笑わないし、冗談も言わない。いつも冷静で、正直な言葉しか使わない。ギャップというのか、クールというのか、そういう諸々が皆に刺さるらしい。結愛ちゃんは今年の新入部員の中で圧倒的な人気を誇っている。
「おっ、お疲れ。どうだった? 体調はだいじょぶそ?」
「あっ……うん。全然大丈夫。練習できるよ」
真っ先に私の体調を気遣ってくれたことに、いちいち嬉しくなる。彼氏のこういう些細な優しさを好きになったのだ。
「そしたら、今日は結愛ちゃんと一緒でもいい?」
「いや、帰ります」
私が首肯する前に結愛ちゃんが答える。
「いいって。自主練来たんでしょ」
彼氏と結愛ちゃんのやり取りに私は目線で疑問を投げかける。
「今日一緒に練習する話したら、邪魔しちゃ悪いってさ。てか、部室と練習をデートに使うのはおかしいって言われちゃったよー。そんなことないよな?」
「そこまで強くは言ってないです」
「いやーでも要約するとそういうことじゃない?」
ずっと笑顔の彼氏とずっと真顔の結愛ちゃん。彼氏は笑顔というよりにやにや、鼻の下伸びてる、とかの方が似合いそう。ああ、私、今いやな人間になってる。別に綺麗な人を見て、嬉しくなっちゃうのは、仕方ないし。私だって、かっこいい人をついつい見ちゃうことあるし。
言い訳のオンパレードを断ち切るように口を開く。
「せっかく二人いるんだし、一人じゃできない練習するチャンスじゃない? 私はプレーヤーじゃないから、協力したくてもできないし……」
結愛ちゃんが私を見る。別に変なことは言っていないのに、気まずい気分になる。きっとそれは私に少し、少しだけ、黒い気持ちがあるから。
「美緒さんが言うなら」
まっすぐ見つめられる。結愛ちゃんの静かな声音。視線。ただの普通人間に向けるには豪華すぎる気がしてしまう。それに……。
「おいおい、俺はー?」
彼氏がわははと笑いながら言う。結愛ちゃんは返事をしなかった。そんなやり取りに思わず笑いをこぼす。
「じゃあ、行こう。時間もったいないよ」
タオル等を入れたかごを持つ。先を促すと、「なんか俺にだけ冷たくない?」とぼやきながら彼氏が出ていく。結愛ちゃんもその後ろに続いた。私は最後に部室の電気を消して、真っ暗になった部屋から明るい外に出た。
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