一角獣の花束
西しまこ
一角獣のため息
一角獣は、白い身体を震わせ長いたてがみを揺らしました。
そのとき、たてがみからは白銀の光が飛んだように見えたのです。それは美しい光景でした。一角獣の額に生えた長い金色の角は、彼の性格そのままに真っ直ぐに伸びています。美しい角でした。
一角獣が待っていた足音がしました。そして、一角獣は伏せていた顔を上げ、黒く塗れた瞳をその足音の方向へと向けるのです。
一人の、かわいらしい少女が軽い足取りでやってくるのが見えました。
金色のふわふわとした髪をなびかせ、青い大きな瞳は期待と希望で満ち、頬は赤く上気しておりました。この場所へ来ることが出来た興奮が見てとれます。
ここは、里から少し離れた湖です。
青く澄んだ湖を取り囲むようにして林が広がり、色とりどりの花々が咲き乱れている大変美しい場所でした。そう、この場所に辿り着けるのは、特別な人間だけだったのです。一角獣に許された人間だけが来ることが出来るのです。
少女は、一角獣に気づき、にっこりと笑いました。
一角獣はそのとき、確かに笑ったのです。
少女は「ねえ、そばに行ってもいい?」と言い、ゆっくりと一角獣のそばまで歩いてきました。華奢な足が一歩ずつ自分の方へ向かうのを、一角獣は黒い目で見つめました。そして、一角獣は嬉しさを隠しながら、いいよというふうに少女に顔を向けたてがみを揺らすのです。
少女は一角獣のそばに座ると、「ねえ、撫でてもいい?」と言ってから、一角獣の白い身体を優しく撫でました。一角獣は、なんて優しい手なんだろう? と思い、そのやわらかな感触に目を閉じ、いつまでもこの手を味わっていたいと思うのでした。
風が吹きました。その風が、一角獣のしろいたてがみを揺らし、少女の金色の髪を震わせます。
「緑の香りがするわ。かぐわしい樹々の匂い。そして、お花の甘い香りもするわ。……ねえ、一角獣さん。あなたの花畑のお花を、少し摘んでもいいかしら?」
少女は一角獣の目をじっと見つめました。一角獣は少し胸をどきどきさせながら、いいよという返事の代わりに、少女に頭をすり寄せました。少女は一角獣の頭に手をやると、頭を優しく撫で、たてがみを撫でました。一角獣はまた、少女の手の感触を喜んだのです。
少女は花を摘み始めました。
一角獣はその様子をじっと見ていました。花を摘む姿もなんて可憐なんだろう? と一角獣は思いました。そうして、少女がずっとそばにいてくれるといいと願うのです。
少女は、花束を作り持っていた籠に入れると、一角獣のそばにまた戻ってきました。
「ねえ、この花束きれいかしら?」
一角獣はまた少女に頭をすり寄せました。
「わたしね、明日結婚するのよ。そのとき、この花束を持つの。こんな美しい場所の、そして一角獣さん、あなたが見守っている花で作った花束を持って結婚式をしたら、きっと幸せになれるわよね」
そうして、少女は輝く笑顔を一角獣に見せるのです。
そのとき、一角獣は少女には分からないよう、ため息をつきました。
おわり
一角獣の花束 西しまこ @nishi-shima
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