カウンセラーをやろうよ

「なんで急に僕を連れてきたの?」


ユウの家に強引に連れてこられたレイはソファーに座り、目の前で手を腰にして立っているユウを見上げた。


「レイ、昨日見たニュース覚えてる?」

「昨日見たニュース…?」


レイは昨日の記憶をたどる。昨日見たニュース番組ではいくつかのニュースを紹介されていたため、一瞬ユウがどれのことを言っているのかわからなかった。だが、すぐにピンときた。


「人間が霊に襲われてるってやつか?」

「それそれ!」

「あぁ、合っててよかった」


レイは胸に手を当てる。そんなレイに、ユウは少しからかうように言った


「もしかして忘れてたの〜?」

「昨日いろんなニュース見たからどれなのかなって思ってただけ」

「あー、確かにそうだったね!それはごめんね!」

「ユウこそ忘れてるじゃん」


レイはそう言って、クスッと笑った。それを見てユウもクスッと笑う


「で、そのニュースがどうしたの?」

「私、あのニュース見てから、なんで霊界の人たちは人間を襲うんだろうってずっと考えてたの!」

「確かに…襲うのにも理由があるのかもしれないね」


ユウは頷き、続きを話す


「そしたらさっきレイが“悩み”って言葉を言って、もしかしたら霊界の人たちには悩みがあるのかもって思ったの!」

「確かに…」


霊界の人たちはただ人間を襲っているわけではないかもしれない。抱えている悩みに苦しんでいて、その気持が抑えきれなくて人間を襲ってしまっている可能性もありえるだろう。

レイは顎に手を当てながら頷く。するとユウは「だから」と続け、レイを見た


「私たちが、悩みを解決してあげようよ!」

「…えっ?」


ユウの言葉が予想外でレイは一瞬思考が停止する。それを見て「ふふん」という声を出し、ユウはニッと笑みを浮かべた


「さっきこのアイデアを思いついたんだ〜!」

「ぼ、僕らが霊たちの悩みを解決するの?」

「そうだよ!レイ、一緒にやろうよ!」


ユウは、おもちゃをねだる子どものように目を輝かせてレイを見つめる。それを見て、レイは少し困った顔になった


「えぇ、本気で言ってるの…?」

「本気だよ!!」

「僕らだけで大丈夫なの…?」


レイは、自分たちだけで悩み相談を受けて、それをちゃんと解決できるのかと不安を抱いている。しかし、ユウは揺るがない


「このままじゃ人間界が危ないんだよ!」

「まぁそうだけど…」

「止める人がいなかったら私たちが止めないと!!私たちが悩みを解決してあげれば、霊界の人も助けられるし、人間界を助けることもできるんだよ!!」

「うーん…そうだよね…」


レイの中で、一緒にやりたい気持ちと不安な気持ちが葛藤する。しばらくして、レイはユウを真剣な目で鋭く見る


「ユウは本当に本気なんだよね?」

「もちろん本気だよ!」

「本当に?」

「本当だよ!」


するとレイは表情を変えずに無言でユウを見つめる。ユウは何を言われるのかとドキドキしながらレイの返答を待つ。やがて、レイはふっと表情が緩み、優しく微笑んだ


「わかった、それなら一緒にやるよ」

「えっほんと!?やったー!」


ユウはバンザイをしてぴょんぴょん跳ね、ツインテールもうさぎのようにぴょんぴょんと跳ねる。そんなユウにレイが質問した


「やることって、悩み相談だけだよね?」


するとユウは跳ねるのを止めて、「うーん…」と唸りながらレイの隣に座った


「悩み相談もそうだけど、あとは襲われている人を助けるのと、凶暴になっている霊界の人を落ち着かせることかな?」

「えっ、それこそ2人で大丈夫なの?」


凶暴な霊界の人は実際には見たことはない。しかしニュースを見たときに映し出された、人間が襲われる映像はかなり迫力があった。おそらく実際はもっと迫力があり、恐ろしいだろう。自分たちも襲われる危険がある。

レイがそれを想像して内心恐怖に駆られている中、ユウは平然とした様子で答えた。


「きっと大丈夫じゃない?霊を落ち着かせる能力を私たち半霊界民は持っているらしいし」

「そうなの?」


レイには初耳だった。半霊界に住んでいてそんな話をしている人はいなかったし、情報も入ってこなかった。それをユウに言うと、彼女は曖昧な表情になった。


「本当かどうかはわからないけど、それをするやり方があるらしいんだよ」

「どんなやり方?」

「えっと…一回教えてもらったけど忘れちゃったんだよね〜…」

「誰から教えてもらったの?」

「ルイナさんだよ!」


ルイナというのはユウの家の近所に住む、ユウとレイと仲良しな優しいお姉さん。ルイナは長年この半霊界で暮らしているらしく、物知りでなんでも教えてくれるのだ


「じゃあルイナさんのところへ行こうよ」

「うん!行く!」


2人はルイナに連絡すると、素早く家から出てルイナの家へ行った。




ピーンポーン


ルイナの家に着くと、ユウがインターフォンを鳴らす。すると、中から「はーい!」と言う声が聞こえた。そして、ガチャッと扉が開く


「ユウちゃん、レイくん!いらっしゃい!」


部屋着に少し乱れたお団子ヘアをしているルイナが現れ、笑顔で出迎えてくれた


「ルイナさん!お久しぶりです!!」

「急にすみません」


ユウは元気に挨拶し、その隣でレイは控えめにお辞儀をする。するとルイナは「あははっ」と笑い、2人を見た


「お久しぶり!別にいいのよ!ちょうど今日は暇だったから!」

「本当ですか?」

「えぇ、本当よ!さぁ、2人とも中入って!」


ルイナにそう言われ、ユウとレイは「お邪魔します」と声を揃えて中に入る。ルイナは2人をソファーに座らせると、ココアを入れてくれた


「2人に会ったの1ヶ月ぶりかな?」


ルイナはココアとお菓子をテーブルに置きながらそう言う


「たぶんそうかな?しばらく会えてなかったですよね!」

「お互い会う機会がなかったものね〜!久しぶりに会えて良かった〜!」


すると、ユウとルイナは顔を合わせて笑う。レイもその隣で微笑んだ


「僕たち、ルイナさんに聞きたいことがあって連絡したんですよ」

「おっ、何が聞きたいのー?」


ルイナはユウの隣の空いてるスペースに座ると、前屈みになってレイを見る


「あの、霊界の人たちを落ち着かせる能力を使う方法を教えてほしいんです」

「あーそれか!いいよー、教えてあげる!」


ルイナが快く受け入れてくれてレイは安心する


「ありがとうございます!」

「意外と簡単なんだよ〜!前にユウちゃんに教えた気がする」


すると、レイとルイナはユウを見た


「あーえっと、教えてもらった記憶はあるんですけど、やり方忘れちゃって」


ユウは苦笑いを浮かべる。するとレイは頷くと再びルイナを見る


「だから聞きに来たんです」

「そういうことね!了解!」

「ごめんなさいー!」


ユウはルイナに頭を下げた。ルイナはそんなユウの頭を撫でる


「大丈夫だよー!教えたの結構前だし、忘れちゃっても仕方ないよ〜!」

「ルイナさんありがとー!大好き〜!」


ユウはルイナに抱きついた。それを見てレイは感心したように言う


「ほんとルイナさん優しいですね」

「そう〜?2人がいい子だからだよ〜!」


そう言ってルイナはレイの頭も撫でた。しばらく撫でた後、手を離すとパンッと手を叩いた


「さて、能力の使い方を知りたいんだったのよね!」

「はい!」

「お願いします」


すると、突然ルイナは右腕を前に出すと、手のひらを前に向け、左側に持っていく。そして、その手をスーッと右側へずらした

そして、ユウとレイを見てニコッとした。


「これだけ!」


訳がわからなかった2人はぽかんとしている


「あ、あの、今何をしたんですか?」

「今のが霊界の人を落ち着かせる能力を使うやり方!」

「「今のが?!」」


あまりにも単純な動きで、ユウとレイは驚きの声をあげる


「今ので霊を落ち着かせられるの?!」

「こんなに簡単なんですか…」

「まぁそうだね〜!コツは落ち着け〜って願いながらやることらしいよ!」


そう言ってルイナはウインクをする。ユウは「へー!!」と感心の声を上げた。しかしその横で、レイが首を傾げた。


「らしい…?」

「あ、気づいちゃった?」


ルイナは「あちゃー」というように、手を額に当てた。そしてヘラッと笑う


「さっき普通に教えてたけど、私一度もやったことないんだよね〜!」

「え?!そんなの前に聞いてない!」

「手をずらすだけの動きも覚えてないなら、それ言われてたとしても覚えてないだろ」


レイの冷静なツッコミにユウは「うっ…」と声を漏らす。それを見て、ルイナはそれを見てあははっと笑った


「まぁ、そういうことだし、本当に霊を落ち着かせられるのかはわからないんだ!」

「そうなんだ〜。でも知る価値はあるよね!」

「うん、そうだね。教えてくれてありがとうございます」

「どういたしまして〜!」


すると、レイは立ち上がる


「それじゃ、そろそろ帰りますね」

「えー、帰るの〜!」


ユウは、レイの腕を掴む


「ユウ、あまり長居してもルイナさんに迷惑になっちゃうし、帰ろうよ」

「まぁ…そうだよねぇ…」


ユウは少し口を尖らせながら立ち上がった。すると、ルイナは帰ろうとする2人を止めた


「2人とも、まだいていいよ〜!」

「え、でも…」


レイは迷いの表情を浮かべる。そんなレイにルイナは笑いかける


「せっかく久しぶりに来てくれたんだからさー!あっ、そうだ!今日ケーキ作ろうと思ってたんだけど、一緒に作る?」

「ケーキ!?やったー!作りたい!」


ユウは目を輝かせ、バンザイする


「レイくんも一緒に作ろうよ!」

「そうだよ!」

「え、でも迷惑かけられないですよ…」


するとユウとルイナはレイを見つめながら徐々に顔を近づけていった


「うぅぅ…わ、わかった。僕も作りたいです!」


2人の圧に負け、レイは両手のひらを前に出して叫ぶ。すると、ユウとルイナは満足そうな表情になった




夕方____


「「お邪魔しました〜」」

「はーい!また来てね〜!」


ユウとレイはルイナと別れ、並んで歩き出した


「結局長居しちゃったよ」

「ねー!でも楽しかったよね!ケーキも美味しかったし!」

「そうだね」


ユウとレイは顔を合わせて微笑む。


「さて、霊を落ち着かせるやり方も聞いたことだし!」


そう言ってユウは、ぴょんっと跳んでレイの前に出ると振り向いた


「レイ、これから"霊界カウンセラー"として頑張ろ!」

「霊界カウンセラー?」

「うん!霊界の人たちの悩みを解決するから霊界カウンセラー!」

「なるほど、それいいね」


すると、ユウは嬉しそうに笑う。そして元気に掛け声をかけた


「よーし、これから2人で頑張るぞー!」

「「おー!」」


2人の声が、オレンジ色の空に響き渡った

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