許せない過去
「ユルサナイ…ユルサナイ…」
彷徨少女は呟き続ける。
「もしかして、僕たちのこと…?」
レイは彼女が自分たちを見て呟いていることに気づいた。すると2人で彷徨少女に近寄った
「私たちのことならごめんなさい」
「ごめんなさい」
2人は彷徨少女に頭を下げる。そんな2人に鋭い目が向いた
「オマエラミタイナシアワセソウナヤツ…ダイキライダ!!」
突然、彷徨少女は2人に飛びかかる。
「わっ」
レイはとっさに彼女の腕を掴んだが、その衝撃で倒れてしまった。
彷徨少女はレイが倒れた隙に腕を振り解き、逃げ出す
「待って!」
ユウは倒れているレイを気にしながらも、彷徨少女を慌てて追いかけた
「止まってよー」
ユウは必死に走る。
手を伸ばし、彷徨少女の肩を掴もうとするが届かず、何度も空振りをしてしまう
(話聴きたいだけなのに〜!)
八尺様の時もそうだったが、話を聴く前にかなり走っている。
(こんなに走るとは1ミリも思っていなかったよ…)
でも人間界も霊界も守るためには今は走るしかない。
ユウはスピードを上げて距離を縮めていく。
そして、今度こそ彷徨少女を捕まえようと手を伸ばす。
(届け〜っ)
何度か空振りしたが、やっと彷徨少女の肩を掴んだ
「やった!」
ユウは掴んだ手を使って自分を彷徨少女に引き寄せると、両手で彼女を捕まえた
「ハナセ!」
捕まった彷徨少女はバタバタと暴れて抵抗する
「あぁ、暴れないで〜!」
必死にユウは押さえる。しかし、また抜け出しそうだ。その時…
「ユウ、ナイス!」
レイが走ってきて、ユウの反対側から彷徨少女を押さえた。
「彷徨少女さん、一旦落ち着きましょう!」
レイの声が校庭に響く。
声量に驚いた彷徨少女は暴れるのをやめると、力が抜けたように地面に座り込んだ。
ユウは、そんな彷徨少女の前にしゃがみ、安心させるように言った
「私たちは霊界カウンセラーです。もし悩みがあるのだったらお話し聴きますよ」
彷徨少女は冷たい目でユウを睨む。そして暗い声で言った。
「ウソダ…」
「う、嘘…?」
「ドウセチャントキイテクレナイ!」
彷徨少女は強い口調でユウに言う。
(この子、なかなか落ち着いてくれない)
この様子では事情を聴くことは難しそうだ。
(この場合どうすればいいの…?)
話を聴いてあげたいが、無理やり話をさせるのも良くない。
困ったユウはレイを見上げる。レイは彷徨少女をじっと見つめていた
「レイ…?」
ユウはなにも言わず動かないレイが気になり声をかける。するとレイはしゃがんで、彷徨少女と目線を合わせた
「どうせちゃんと聴いてくれない…それって、今まで話してもちゃんと聴いてもらえなかったということですか?」
すると彷徨少女はゆっくり頷く
「そうですか…それじゃあ話す気にもなりませんよね」
そう言うと、レイは優しい顔で彷徨少女を真っ直ぐ見る
「でも、話して楽になるのなら、ぜひ僕たちに話してほしいです」
「…イマスグニ?」
「いえ、今じゃなくても大丈夫ですよ」
するとレイは、白衣のポケットから四つ折りの紙を取り出す。そして、それを広げて彷徨少女に見せた
「もし話したくなったら、いつでも僕たちに話してください」
すると紙を彷徨少女に渡した。彷徨少女はその紙を受け取ると見つめる。
その紙はユウレイ相談所のポスターだった。
「ここに電話してくれればいつでも対応します」
そう言ってレイは立ち上がる。
彷徨少女は黙ってポスターを見つめる。
すると、ギュっとポスターを持つ手に力を入れ、口を開いた
「イマ…ハナシヲキイテホシイ…」
その言葉を聞き、ユウとレイは頷いて再びしゃがむ。すると彷徨少女は深呼吸をした。
「ワタシガオソッテシマウノハ…イジメノセイナンダ…」
「「いじめ…」」
2人がそう呟くと、彷徨少女は過去のことを語り始めた。
今から50年ほど前。
彷徨少女は、
「陽太、行ってくるね。いい子にお留守番してるんだよ」
ある土曜日、葵は陽太に声をかけた。両親は共働きで、今日は2人とも仕事だ。そして葵は今から部活に行く。だから家には陽太しかいないのだ。
すると、陽太がリビングから顔を出した。
「お姉ちゃん、僕もう5年生だよ?それぐらい言われなくてもできるよ」
「そうだよね!それじゃ、行ってきます」
「いってらっしゃ〜い」
陽太に見送られ、学校へ向かった。
部活中、葵は少し陽太のことを気にしていた
(陽太、ちゃんと留守番できてるかな?)
いつも両親は家にいない為、葵が陽太の世話をしていた。そのため、少し心配する気持ちがあるのだ。
(でも、大丈夫か!もう小5だもんね!)
そうやって心配の気持ちを吹っ切ると、部活に集中した。
そして無事部活を終えると、家へ帰った。
「陽太、今何してるのかな〜」
葵は家へ帰る時、家にいる陽太が何をしているのか予想するのが日常だ。
「いつも通りゲームかな?あ、お菓子食べてる可能性もあるかも」
考えれば考えるほど楽しくなる。そしていつの間にか家についてしまうのだ。
「今日はゲームかな」
葵はそう予想を立てて家へ向かう。
すると、家の前に3人の男の子がいた
「おい陽太!」
「早く出てこいよー!」
「なんで出てこねーんだよ」
男の子たちはそう言いながらドアを叩いている。
「どうしたの?」
葵は後ろから尋ねると、男の子たちはびっくりしたように振り向いた
「よ、陽太のお姉ちゃん?」
「うん。陽太に何か用?」
「あ、うん!陽太と遊ぶ約束してて、中々来ないから迎えに来たんだ」
リーダーっぽい子がそう答える。
「そうなんだ。呼んでくる?」
「いや、大丈夫です!」
「でも、遊ぶ約束してるんでしょ?」
「あー…じゃあお願いします!」
すると3人は同時にペコっと葵にお辞儀をする。
葵は頷くと家に入り、リビングへ向かう。
すると、ソファーに陽太がポツンと座っていた
「あ、お姉ちゃん…おかえり」
「ただいま。何もしてなかったの?」
すると陽太は頷く。少し元気のない陽太が気になりながらも葵はさっきの男の子たちのことを言った
「遊びの約束してるって、陽太を迎えに来てたよ」
「…き、今日はちょっと体調悪いんだ。断って来てくれる?」
「大丈夫?わかったよ」
葵は玄関へ向かい、ドアを開ける。すると、庭に石を蹴ったり手押し相撲をしたりしている3人がいた
「あ、陽太のお姉ちゃん来たぞ」
リーダーっぽい子の合図で3人は葵のところへ駆け寄った
「3人ともごめんね。陽太、体調悪いみたいで今日は遊べないみたい」
「ふーん…そうですか。わざわざありがとうございます」
すると3人は走って帰っていった。
葵はドアを閉めると陽太のもとへ行く。
「帰ったよ」
「ありがとう」
「今日は安静にしていてね」
「わかった。寝てくる」
「その方がいいね。おやすみ」
陽太が寝室に行くのを見送ると、葵は少し安心してテレビを付けた
しかし、その翌日から気になることが多々現れた。陽太の鉛筆が毎日2本ほど無くなってたり、雨が降ってないのに靴がビシャビシャに濡れていたりしたのだ。
「陽太、鉛筆どこやったの?」
「えっと、友達に貸したんだ」
「靴、なんで濡れてるの?」
「それは…外の水道で遊んだら濡れちゃったんだ」
葵が質問すると、いつも陽太は笑顔でそう答える。葵はそんな陽太に違和感を抱いていた。
しかし、変に気にしないようにして、いつも通り平和な生活を送った。
1週間後、最悪な事態が起きてしまった。
陽太が学校の3階から転落してしまったのだ。
すぐ病院に運ばれたが、命は助かることはなかった。
先生から聞くと、陽太は誰かに突き落とされてしまったらしい。後々、その突き落とした人物は、あの土曜日に家の前にいた3人の男の子だというのが分かった。
「なんで陽太が…」
薄暗いリビングのソファーに座り込み、震えた声で呟く。
なぜ陽太がこんな目に遭わないといけなかったのだろう。もしかしたらいつも苦しんでいたのかもしれない。自分はそれに気づいて助けられたのではないか。
そんなことを思っていたが、思えば思うほどある気持ちが強く芽生えていた。
それは___
あの3人に対する復讐心だ。
「あの3人のせいで陽太は…」
あの3人は陽太をいじめていたのだ。元はあの3人が悪い。葵は弟がいじめられていたことに腹が立ってきた
「許せない…許せない…!」
葵は勢いよく立ち上がる。そして時計を見る。そろそろ下校時刻だ。
葵はそれを確認すると小学校へと向かい、陽太を突き落とした3人を探した。
「いた…」
昇降口にいる3人を見つけるとそばに駆け寄った。3人は葵を見ると、驚いた顔になる
「ねぇ、なんで陽太をいじめたの?」
「…」
「なんで?」
葵は問い詰める。しかし、3人はなにも喋らない。葵はもう一度問い詰めようとすると、黙って逃げ出してしまった。それから葵が問い詰め、3人は逃げるのを何日も繰り返した。
ある日、葵が今日も問い詰めようと小学校へ行くと、3人はランドセルを構えていた。葵はそれに構わず喋り始める
「なぜ陽太を___」
「あぁもう、毎日毎日うるさいんだよ!」
すると、葵が喋り終わる前にリーダーっぽい子が怒りの声を出し、ランドセルで思いっきり葵を殴った。するとそれに続いて残りの2人もランドセルで殴りかかる
「ちょっと、やめろ!」
「うるさい!」
「お前の弟なんてどうでもいいだろ!」
その言葉を聞き、葵は言った子の胸ぐらを掴み、睨んだ。その目は怒りに満ちている。
「お前、今なんて言った…?弟なんてどうでもいい?」
「そ、そうだよ!あんなやつ死んでもどうでもいいだろ!」
「ふざけるな!!」
葵はそう叫び、突き飛ばす。その時、頭に激痛が走った
「あ…あぁっ…」
頭を押さえ、倒れ込む。意識が朦朧としていく。霞んだ視界の中、3人のうちの1人が水筒を片手に持っているのが見えた。それで殴られてしまったらしい
「お前らだけは絶対…ユルサナイ…」
葵は意識が遠のく中、最期にその言葉を言い残した
話を聞き終わり、ユウは小さく口を開く
「本当に辛かったですね…」
レイも静かに何度か頷く。
「ワタシハ…ダレモカモユルセナイ…」
彷徨少女はそう言って、身体を震わせながら俯いた。
「お姉ちゃん、ありがとう」
突然、男の子の声が聞こえた。
顔を上げると、オレンジ色のTシャツを着た男の子が立っていた。彷徨少女は目を見開くと立ち上がる
「ヨ…陽太!?」
男の子は陽太だった。
「陽太…なんで…?」
「お姉ちゃんいたから来ちゃった」
そう言って陽太はニコッと笑う
「僕の為にあの3人を懲らしめようとしてくれたんだね」
「うん…」
「嬉しかったよ!」
すると彷徨少女は笑顔になる。しかし陽太は、少し俯いて「でも」と続けた
「他の子を襲うのはやめてほしいな。それに、あの3人のこと許してあげて」
「え、でも…」
あの3人のせいで陽太は死んでしまった。それなのに許していいのだろうか。
すると陽太は姉の顔を真っ直ぐ見た。
「僕は大丈夫だから、もう誰も襲わないって約束してくれる?」
「陽太…」
すると彼女はふっと微笑んで陽太を抱きしめた。
「ほんと陽太って優しいね。わかった、約束するよ」
「うん!」
抱きしめ合う姉弟の様子を見て、ユウとレイは感心する
「姉弟ってすごいね!」
「うん、固い絆があるよね」
すると彷徨少女が2人に頭を下げた
「迷惑かけてごめんなさい」
「悩みは解決できました?」
「はい。おかげで気持ちが楽になりました」
彷徨少女は明るい笑顔を見せる。
それを見てユウとレイは安心した。
「お姉ちゃん、帰ろ!」
「うん、帰ろ!」
2人は手を繋ぐと、スー…と身体が透けていく。ユウとレイはそんな2人に手を振った。すると彷徨少女と陽太は振り返す
「カウンセラーさん、ありがとう」
「お兄さん、お姉さん、またね!」
すると2人は完全に消えていった。2人が立っていたところを見つめ、ふとレイが呟く
「今回、陽太くんが解決してくれたような…」
するとユウとレイはチラッと顔を合わせると笑い合った。
「解決できたし、いいんじゃない?小学生たちも無事帰らせることできたしさ!」
「そうだね。それじゃ、僕たちも帰ろ」
2人は校門へ向かうと、オレンジ色の夕日に向かって歩き出した
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